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ウェイトレス


 絡んできたのは、小汚い格好の、臭そうなおじさん2人組みだった。裏道って、こういう人が多いんだよね。女の子を、ユウリちゃんみたいに、邪な目で見てきて、こうやって話しかけて襲ってくる。ボクも、この格好になってから、何回もこんな感じで話しかけられているから、馴れちゃったよ。むしろ、こうならないと不安になっちゃうくらい、裏道は危険な場所だ。だから、自然とこの辺の裏道は避けるようになり、土地勘もなくて当然と言える。


「へへ。疲れたのなら、うちで少し休んでいくと良い。すぐ、そこなんだ」

「そうそう。なんだったら、マッサージをしてあげるよ。おじさん、凄く上手なんだ」

「はぁ……本当に疲れてるので、あっちに行ってください。目障りで、そこにいられるだけで気持ちが悪いです」


 イリスは、地面に座り込んだまま、そう言い捨てた。


「やっぱり、あっちじゃないですか?」

「……そうですね。と、いう事は、先程の道をやはり右でしたか」


 一方で、ユウリちゃんとレンさんは、そんなおじさん2人をガン無視で、地図に没頭している。まるで、そこにはボク達しかいないかのように、自然な無視だ。ボクには、できない芸当だなぁ。


「い、いいじゃねぇか。ちょっと、寄ってくだけだ。な、ねーちゃん達も、いいだろ?」

「そういう訳で、少し戻りますね」

「ほら、イリスさんも立ってください。あとちょっとですよ」


 尚もおじさんを無視して、その場を立ち去ろうとするレンさんとユウリちゃんだけど、その前におじさんが立ちはだかった。背後には、もう1人のおじさんが立ち、挟み撃ちになった形だ。その手には、ナイフをちらつかせていて、ボク達を脅すようにしている。


「手荒な事は、したくないんだ」

「一生残らない傷をつけられたくなかったら、おとなしくついていこい」

「……はぁ」

「ここは、私に任せてください」


 そう言ったのは、イリスだった。イリスはそっと、魔法の杖を取り出すと、それをおじさんに向けて構えてみせる。


「んなっ!?ま、魔術師だと!?」

「その通り。丁度、新しい魔法を覚えて、使ってみたいと思っていたんです。貴方達には、栄えあるその魔法の実験台になってもらいます」

「落ち着け、ハッタリだ!こんなガキが、魔法なんて使えるもんか」

「で、でも、こいつ耳がとんがってやがる。もしかしたら、え、エルフじゃないのか?」

「ごちゃとごちゃと、五月蝿い!行きますよ!リルファイア!」


 イリスが放った、魔法。それは、炎の魔法だ。渦巻いた炎の玉が、魔法の杖の先端に現れて、それが絡んできた2人のおじさんの内の、ボク達の進行方向に立ち塞がった方に、放たれる。


「ぎゃああああぁぁあぁぁぁあぁぁ、あつっ」


 炎の玉は、見事に命中した。だけど、おじさんはちょっと熱がっただけで、大した被害はない。というのも、放った炎の玉が、恐ろしく小さかったので、威力も恐ろしく小さかったのだ。ちょっとは熱かったみたいだけど、ダメージなんて皆無。なんともない。


「……」


 イリスの放った魔法のせいで、変な空気に包まれてしまいました。1番の被害者は、魔法を放たれたおじさんだね。あんな凄い叫び声をあげておいて、使われた魔法はあんなにしょぼい、炎の魔法だもの。ボクなら恥ずかしくて、顔を隠して立ち去っているよ。


「て、てんめぇ……驚かせやがって。二度と魔術師なんて名乗れないよう、徹底的にいためつけてやる……!」


 勝手に驚いただけなのに、激情にかられたおじさんのターゲットは、完全にイリスに絞られた。

 一方のイリスは、自分の放った、あまりにもしょぼい魔法に、ショックを受けている。こんな魔法で、ゴブリン退治に行こうとか言ってたんだね。凄いよ。


「こ、こんなはずでは……せ、せっかく、メイヤにあんな恥ずかしい事をされながらも、魔法の杖まで手に入れたのに……」


 ボクは、ショックを受けているイリスを、庇うように立ちはだかった。

 現状のレベルと、マナの容量を見れば、明らかだ。強い魔法なんて、使える訳ないよ。イリスは現状の自分の力を、もうちょっと考えるべきです。


「あ……お、おい、待て!」

「なんだ!」

「う、後ろ……」


 イリスに狙いを絞った、おじさんの背後。そこに、音も気配もなく、暗がりから姿を現した少女がいた。

 その少女は、ショートカットの銀髪に、赤い眼をした少女だった。その顔は、恐ろしい程の無。感情を、一切感じさせない、とても冷たく感じさせるような、表情をしている。背は、ボクと同じくらい。ただ、身体全体が非常にほっそりとしていて、見ているこちらのほうが不安になるような、危うい体型だ。


「……」


 少女は、無表情のまま、黙ってボク達に絡んできた、男の人を見続けている。


「お、おい、行くぞ」

「あ、ああ……」


 そんな少女を見て、おじさん達はあっけなく、立ち去っていった。それも、駆け足で、急いで。それまで、引き下がってくれそうもなかったのに、この少女を見たとたんに、態度を変えたのだ。

 いや、それよりも、この少女から感じる、ただならぬ気配は、なんだろう。ボクは、不安になって彼女のステータスを開いてみる。


 名前:ロガフィ・ヴァフォメル

 Lv :???

 職業:ウェイトレス

 種族:魔族


 まさかの、レベルが???表記。この表記が出たのは、竜以外で初めてだ。加えて、魔族と来たもんだ。この前の聖女様の件もあり、ボクは構えてしまうけど、注目は職業だ。ウェイトレス。だから、そんな可愛らしい、ピンクのフリフリの、こんな場所に見合わない格好をしていたんだね。オマケに、頭にかぶった帽子は、ネコミミのついた帽子で、凄く可愛い。


「あ、あぁ!貴女はあの時の……!」


 そんな少女を見て、ユウリちゃんが声を上げた。どうやら、知っているみたい。


「……?」


 だけど、ウェイトレスの少女は首を傾げて、こちらはユウリちゃんを覚えていないようだ。


「ユウリさんの、お知り合いですか?」

「し、知り合いというか……前に一度、助けていただいたことがあって。とても可愛らしい方だったので、ずっと覚えていたのですが、コレはもしや、運命というヤツでしょうか」


 まぁ確かに、可愛いよ。でも、この無表情はなんとかならないのかな。ちょっと怖いです。


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