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迷子中


 聖女様に手渡された紙には、目的の地の住所と、簡単な地図が書かれている。その地図は、可愛らしいイラスト付きの地図で、まるで女の子の子供が友達に書いた、手紙のようだ。

 コレを書いたのが、あの聖女様なんだから、本当に可愛らしくて、親しみやすい聖女様だなと思う。ボクが勇者時代に会った聖女様は、もっとお固くて、堅苦しい人だったからね。ちょっと、苦手なタイプの人だった。


「聖女様、ステキな人ですね、お姉さま」


 ボクの隣を歩くユウリちゃんが、そう話しかけてきた。

 今は、中央教会を出て、しばらく歩いた大通りに出た所だ。この大通りは、この町の中でも随一の盛り上がりを見せる、通りの1つだ。道を挟んで、お店が立ち並び、辺りは大勢の人で活気に溢れている。

 まだ、誰も魔王の軍勢が動き出している事を、知らない。だから、いつも通りの日常の光景が流れている。

 ……人ごみ、嫌だな。


「う、うん。面白くて、可愛いね」

「どうせなら、ユウリさんがラクランシュ様に乗り換えたらいかがです?」


 ボクと腕を組んで歩いているレンさんが、ユウリちゃんにそう言い放った。

 ちなみにユウリちゃんは、イリスと手を繋いで歩いている。来る時はボクと腕を組んでいたので、交代らしい。


「乗り換えるも何も、私は美味しくいただければ、それで十分です。なので、聖女様も普通にいただきたいです」

「あ、やっぱりなしで。ラクランシュ様を、こんな心の穢れた人に、渡したくありませんので。ちなみに私は、ネモ様一筋です」

「私だって、心はお姉さまの物です」

「身体は、別なんでしょ?」

「ええ、そうです。ちなみに、ネルさんや、メルテさんもいただきたいです。が、理性で堪えて我慢しています」


 ユウリちゃんは、見境なしだなぁ。ボクは、そんなユウリちゃんに向け、笑うしかなかった。


「あ、諦めないでください、ネモ様。この子の歪んだ心を正せるのは、ネモ様だけですよ」

「その通りですよ、ネモ。貴女がきちんと、この女を教育して、調教しなさい。じゃないと、この子、いつか本当に見境なく襲いますよ」

「お、お姉さまが、私を調教!?」


 イリスの発言に、ユウリちゃんが食いついた。目を輝かせ、涎を垂らしてこちらを見てくる。

 基本的に、ボク以外にはSっ気を見せるユウリちゃんだけど、ボクに対してだけはMっ気がある。だから、そういう言葉にいちいち反応し、そして事あるごとに、ボクにお仕置きを求めてくるのだ。


「が、頑張ってるつもりではあるんだけど……ちょっと、荷が重過ぎるかな……。そういうなら、イリスがやってよ」

「私がですか?」


 イリスは、満更でもなさそうな様子で、手を繋いで隣を歩くユウリちゃんの方へ、顔を向ける。そこには、笑顔でイリスを見返す、ユウリちゃんがいた。笑顔なんだけど、目が全く笑っていない。その目から、お前ごときが調子に乗るなという、メッセージが見て取れる。


「せっかくだけど、遠慮しておきます……」


 ……イリスは、ユウリちゃんにすっかり丸め込まれちゃってるな。生意気すぎるのもアレだけど、従順すぎても、いざという時にユウリちゃんを止められないのは困るよ。


「ちなみに、レンさんも好みではあります」

「え……。な、何を言っているのですか。私は、ネモ様一筋だと、先ほどから言っているではりませんかっ。ね、ネモ様」


 ボクに同意を求められても、困ります。


「お姉さまを狙っているのは許せませんが……しかし、凄く私好みなんです。初めて出会った時の、あの扇情的な格好は、今でも私の脳裏に焼きついていますし、その柔らかな胸やお尻も、凄く美味しそう。食べちゃいたい」

「うひぃ!どうして私の耳元で囁くんですか!」

「いや、なんとなく」


 ユウリちゃんは、イリスが逃げられないよう、首に手を回して色っぽい声で、囁いた。

 いつにも増して、飛ばしている様子のユウリちゃん。原因はきっと、メリウスさんと、エクスさんの件のせいだね。好みの女の人が、大嫌いな男の人に取られちゃったから、イラついているんだ。


「どうしましょう。私今、凄く身の危険を感じています……」


 ボクなんて、レンさんとユウリちゃんから、毎日常に感じているんだけど。


「ど、どどど、どうして私のお尻に手を……ちょ、ちょっとユウリ?あ、そこまで!?な、何を……助けてねもおおぉぉお!」


 ユウリちゃんは、鬱憤を晴らすかのように、イリスにまとわり付いた。その手はいやらしい動きで、イリスの全身をまさぐっていく。

 一見すると、女の子同士のスキンシップに見えなくもない。でも、イリスは涙目で本気で嫌がっているし、ユウリちゃんが浮かべる笑顔は、まるでセクハラをして喜ぶおじさんみたいだ。

 ユウリちゃんと一緒に歩く事になってしまったが故に、イリスは犠牲になってしまった。

 でも、あまりに過激なスキンシップは、さすがに周りの視線が痛いです。目立つのは嫌なので、ボクは止める事にした。


「ユウリちゃん。それ以上いけない事をすると、今夜は一緒に寝てあげないからね」

「くっ……分かりました」

「た、助かりました……」


 ユウリちゃんの責めから解放されたイリスだけど、ユウリちゃんは繋いだ手は離そうとしなかった。そして、引っ張られるようにユウリちゃんに連れられて歩いていく、イリス。

 ユウリちゃんは、反省はしないけど、一応ボクの言う事は素直に聞いてくれるからね。それだけは、助かる。まぁ、奴隷紋によって抵抗できないっていうのもあるんだけどね。


「さすがは、ネモ様。あの恐ろしいユウリさんを、たった一言で言いくるめてしまうなんて、さすがです!」

「えへへ」


 レンさんに褒められて、ボクは照れました。

 そんな感じでまず向かった先は、ギルドだ。そこでクエストの達成報告を済ませ、お金を受け取ってから、地図に記された場所へと向かう。

 というのも、この地図に記された住所が、ボクの家に近いのだ。一回家に帰ってから、またお金を受け取りにギルドに行くのも面倒なので、先にお金を受け取ってから向かう事にした。


「ううーん。たぶん、この辺りだと思うんですが……」

「ここを、右じゃないですか?このウサギさんが示しているのは、多分あの家なので」

「これ、ウサギじゃないです。たぶん、クマです」


 ご近所と言っても、そこは全く土地勘のないような、裏道の通りだ。薄暗く、建物に囲まれて太陽の光も届かず、じめじめとして、ゴミの散乱した汚く細い道。地図は可愛らしいイラスト等でデコられているけれど、地図本来の果たすべき能力はとても低いので、複雑な裏道には対応できていない。迷うのは、当然と言えば当然で、ボク達は絶賛迷子中だ。


「疲れた……」


 それまで頑張っていたイリスだけど、ついに力尽きて、座り込んでしまった。イリスにしては頑張った方なので、ここは褒めてあげるべきだよね。


「お、おつかれさ──」

「どうしたんだい、お嬢さん方ぁ?」

「こんな所を歩いてたら、危ないよ?」


 そんなボク達に、分かりやすく絡んできたのは、これまた分かりやすい、不良の男の人たちだった。


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