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チョーコワイ


「無駄な殺生には、反対です」

「でも、現に魂の捕らえられた、可愛そうな子がいるんですよ……?」

「その代わりに、別の方が苦しみを味わっては、同じ事なのです。何か、別の方法を考えましょう。ね?」


 聖女様に言われては、ユウリちゃんも頷くしかない。

 でも、大袈裟に肩を落とし、本気で嫌そうな顔をしてボクの方を見てこないで欲しい。そんな顔されたって、ボクも無駄に人の命を奪うのは嫌だよ。悪党でも目の前に現れれば、別だけどね。


「ですが、どうしてそんな物が……」

「コレによって処刑された者は、通常は、対象者と共にライチェスの儀式剣も棺にいれられ、そして通常よりも、地中深くへ埋められます。加えて、埋葬される場所自体が辺境で、墓標もたてられず、数も少ないので、まず発見される事がございません。それでも、長い年月により発見される例もあるのです。そのライチェスの儀式剣を持っていた貴族もまた、偶然発見したか、どこかで発見されて売りに出されていた物を、買ってしまったか……真実は分かりません」

「素朴な疑問なんですが、アンリちゃんが自らの命を奪う前に、別の魂が束縛されていた可能性はあるのでしょうか」

「あります。と言うより、確実にそうです。ライチェスの儀式剣は、余分に作られる事がございませんでした。一つ見つかれば、必ず一つの魂が、この世に囚われているのです」


 アンリちゃんが自らの命を絶つまでの間、誰かの魂が、長い長い間、束縛されたって事だよね。それがどんな人かは分からないけど、想像を絶するような長い時間を強制的に過ごしてきたと考えると、寒気がする。そんな処刑法を考え付くとか、昔の人って、本当に怖いよね。

 質問した張本人のレンさんも、ちょっと怖がっちゃってるよ。


「それって、そんなに苦しい事なんですか?」


 そう言ったのは、イリスだった。本当に、疑問を持っているようで、眉毛を寄せて、首をかしげている。


「だ、だって、ずっと、魂だけで彷徨わなきゃいけないんだよ?怖くない?」

「別に。女神にとって、不老不死は当然ですし、何が怖がる要素なのか分かりません。むしろ、一生この世に魂を残すとか、罪ある者に対する、ご褒美にしか見えないのですが」


 そりゃあ、女神様は死なないし、年もとらないのかもしれない。でも、人から見れば、それは凄く怖い事なんだよ。一部の人は、不老不死を目指したりはするけど、少なくともボクはそれが怖い。イリスには、どうしてそう思うのか、それを理解してほしいと思う。


「魂だけになったら、お肉食べれませんよ」

「ナニソレ、チョーコワイ」


 あ、理解してくれたね。良かったです。


「……現状で、私にできる事は、なさそうです。お力になれず、すみません」

「いえ、十分です。魂を解放する方法が、分かったんですから」


 そういって、ニヤリと笑うユウリちゃんが怖いです。本当に、下手な事をしないよう、ボクは聖女様から返してもらったライチェスの儀式剣を、アイテムストレージに、すぐにしまった。


「それにしても、便利そうな能力ですね。どこに、しまっているのですか?」


 聖女様は、ボクが手に取った瞬間に消えたナイフを見て、大して驚く様子もなく、尋ねて来た。取り出したときも、大した反応は見せていなかったけど、気になってはいたみたい。


「よ、四次元空間に」

「よじげん……?」


 とっさに出た言い訳は、聖女様には通じなかった。


「ともかく現状は、人間ごときが選んだ勇者が、魔王を倒してくれる事を願っておきましょうか。もしかしたら、その内アスラの気が変わるかもしれませんし、それにまだ……」


 イリスは言葉を途中で切り、イスから立ち上がった。そして、突如として聖女様に背を向けて、塔の出口へと向かって歩き出す。


「どこいくんですか」

「聖女の言っていた人物に、会いに行くんです。でもその前に、うんこしてきます」


 ボク達に背を向け、歩いたまま、イリスがそう答えた。女の子なんだから、もうちょっと、オブラートに包んで言って欲しいです。なんでそんな、堂々とうんこするとか言えるんだろう。もうちょっと、つつしみってヤツを、もつべきです。


「それじゃあ、すみません。コレで、失礼しますね。何か動きがあれば、すぐに私達にお知らせください」

「はい。そうさせていただきます」

「ラクランシュ様。大変な事態ですが、どうかお気をつけて」

「……レンファエル様も、お気をつけ下さい」


 手を取り合い、顔を近づける、レンさんと、聖女様。お互いの無事を願う、いいシーンなんだけど、ユウリちゃんは邪な目で、そんな2人を眺めていた。その目は、ネルさんのような純粋な目とは、かけ離れている。絶対に、もっとぐっちょぐちょの、ネトネトな世界を映し出しているはずだ。


「この際、聖女様狙いに切り替えたらどうですか。お似合いですし、応援しますよ」

「あらあら。私を、レンファエル様が?」

「な、何を言っているんですか、ユウリさん。私はお姉さま一筋ですっ」

「ふられてしまいました……」


 悲しげに、目を伏せる聖女様に、レンさんは慌てた。


「ち、違うんですよ、ラクランシュ様。ラクランシュ様の事は、勿論大好きです。ですが、私はネモ様にこの身を捧げると決めていて、私の純潔はネモ様に。できればネモ様の純潔は私にいただきたいと、常日頃から思っているのです。それから、できればネモ様にネコミミをつけてもらって、家の中で大切に飼いたいと思っています。そして私は飼い主として、ネモ様のご飯のお世話や、下のお世話までして、幸せに暮らすのです」


 常日頃からそんな事を、考えないでほしい。あと、無駄に可愛らしく、頬を染めながら言わないでほしい。言っている事が、ちょっと気持ちが悪いので。ボクは、背筋に悪寒を感じて、思わず自分の身体を抱きしめて身構えてしまったよ。

 やっぱり、レンさんも危険だ。ユウリちゃんは、奴隷紋によって、ボクが寝ていたりする時は、手を出せないようにできるけど、レンさんは違う。気をつけよう。


「レンファエル様のような女性に、ここまで好かれるなんて、ネモさんがそれだけステキな女性だという事なんですね。羨ましいです」


 何も、羨ましくなんてないです。代われるなら、代わってあげたいです。


「レンさん、そんな事を考えていたんですか……気持ちは分かります」

「ですよね!」


 そういう所は、気が合う2人である。


「うんこしおわったけど、誰も来てなんですけど!」


 そこへ、うんこから戻ったイリスが戻ってきて、怒鳴りつけてきました。イリスの事を、すっかりと忘れていた。

 そういう訳で、ボク達は中央教会を後にして、聖女様に教えられた住所に向かう事になりました。


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