スカートですね
ボク達は、像の足元に用意されていた掃除道具を使い、女神様達の像を、1体ずつキレイに掃除していく事にした。まずは、イリスティリア様の像から。ボクは、ジャンプして像の肩に飛び乗り、高所担当。イリスも一緒に連れて、同じように高い場所を手伝ってくれることになった。
ボクとイリスは、腰に巻いた命綱により繋がられていて、どちらかが足を滑らせても、片方がふんばれば助かるようになっている。……まぁ、ボクが足を滑らせたら、イリスが踏ん張れる訳がないので、実質イリスのための物だ。
「さぁ、ネモ。美しい私を象ったこの像を、思う存分キレイにするんですよ」
「はいはい」
イリスは、イリスティリア様の肩の上から、まずは頭をモップで磨き始める。ボクも、反対側の肩から同じように磨いて、頭の上にたまったホコリなどを、キレイに落としていく。
こうして磨いていて分かるんだけど、像は、本当に何か、不思議な力で守られているみたい。軽く叩いたくらいじゃ、きっとビクともしないだろうと思う。
「ん、よいしょ……」
それにしても、自分の像だからか、お肉のためだか分からないけど、イリスはよく動き、よく働いてくれている。こんなにはつらつとして、労働に勤しむイリスって、初めて見たかも。ちょっと感動している。
「それにしても、美しい像ですね。磨けば磨くほど輝いて、まるでこの世の全て物の中で、一番美しい物を使い、一番美しい物を作り上げたかのような、そんな感じがします」
「あ、うん」
確かに、イリスティリア様は美しいし、この像を作っている材料も、白く輝くような素材で、凄くキレイだ。でも、自分を褒め称える人は、アンリちゃんだけで十分です。
それよりも、磨いた後の場所は濡れて滑りやすいので、それだけ気をつけて欲しい。
「ところで、ネモ」
「うん?」
「貴方、スカートですね」
「う、うん。そうだけど……」
だから、どうしたんだろう。ボクは、首を傾げると、イリスが下を指差して、下を見るように促してきた。
ボクは、そちらを見ると、下の方で、レンさんとユウリちゃんが、鼻を伸ばしてボクのスカートの中を、覗こうとしていました。いや、もしかしたら、見えちゃってたかもしれない。
今日の下着は、確か黒の、ヒモのヤツ。お尻によく食い込む、面積の少ない下着だ。下着に関しては、相変わらずユウリちゃんに任せっ切りで、よく分からないけど、女の子の下着ってコレで普通なんだよね?
「ひゃ!?」
それに気がつき、慌ててスカートを押さえて隠そうとするけど、その際に、足を滑らせてしまった。
「あっ」
イリスは、ボクとロープで繋がれている。像から落ちたボクに引っ張られて、2人仲良く落下だ。
「ぎぃやああぁぁぁ!」
「お姉さま!イリス!」
「あ、あああぁぁ。え、えとこう言う時は、地面に紋を書いて、そのためには何か書く物を用意しないと……書く物、書く物はどこー!」
レンさんは、紋章魔法の使い手みたい。魔法を使うには、紋章を描かないといけないので、こういう緊急性のある事態に、対処できるタイプの魔法使いではない。
そして、ちょっと混乱して、慌てすぎです。ボクが、もっと高い所から着地してる所を、見た事あるはずなのに。
「ね、ネモさんんんんん!」
落ちていくボクとイリスに向かい、叫ぶ人物がいた。それは、聖騎士のエクスさんだ。どこで見ていたのか、猛烈なスピードで、ボクの落下点に向かって走ってくる。その顔が、必死すぎてちょっと怖い。
「大丈夫だよ」
ボクはそう言って、まずは体勢を整えてから、ごく普通に両足で着地……しようとしたんだけど、イスをなぎ倒し、猛然として突っ込んできたエクスさんの、顔面に着地してしまった。
その瞬間、しちゃいけない音が響き、エクスさんは床に倒れこみ、ボクは床に着地しました。
それから、直後に落ちてきたイリスを受け止めて、床に降ろしてあげる。
「大丈夫ですか、お姉さま」
「お怪我は、ありませんか、ネモ様」
ユウリちゃんとレンさんが、すかさずボクに駆け寄って心配してくるけど、怪我なんてないよ。勿論、ボクが受け止めたイリスも、怪我はない。ちょっと、青ざめた顔してるけどね。たかだか、これくらいの高さで、大袈裟だよ。
それより、心配すべきは、鼻血を出して転がっている、エクスさんだ。
「だ、大丈夫ですか……?」
ボクは、心配になって声を掛けるけど、反応がない。も、もしかして、死んで……?
「大丈夫ですよ。放っておけば、その内目が覚めます」
「そうですよ、ネモ様。いいから、お掃除の続きをしましょう」
「そ、そういう訳にはいかないよ。一応、ボクを庇ってくれようとしたんだから……。意味なかったけど」
心配で、そのエクスさんの顔を覗き込もうとした時だった。
いきなり、エクスさんの目が見開かれ、そして傍にいたボクの顔を見上げてくる。いきなりの事に驚いたけど、ボクは彼が生きていた事に、安心して胸を撫で下ろした。
「……エーファ?」
エクスさんは、ボクの顔を見て、そう名前を呼んできた。エーファ?
「……いや……ね、ネモさん!?あ……」
「あ?」
エクスさんの視線は、ボクのスカートに向けられていた。腰を下ろし、顔を覗きこもうとしていたので、そちらからスカートの中が丸見えになってしまっていた。
「ひっ」
ボクは、慌ててスカートを押さえ、その視線から隠すように、床にお尻をつけて座り込んだ。なんだろう。ユウリちゃんや、レンさんに見られた時よりも、遥かに凄い嫌悪感を感じる。思わず、涙があふれ出そうになるくらい。
「あ、ああああ!ごめんなさい、ネモさん、そんなつもりでは……!」
「こんの、変態騎士がああぁぁ!お姉さまのパンツ覗こうなんて、五億年早いです!お姉さまに一方的な好意をよせて、それが叶わないと見るや否や、変態行為ですか!死刑です!殺します!」
激昂するユウリちゃんが、剣を抜き取り、エクスさんに斬りかかろうとする。その目は、完全にイッちゃってるよ。理性が、完全に吹き飛んでいる。
「いいですね。首をスパンと行きましょう」
「ま、待ってくれ!好意って!?なんの事だ!?」
「とぼけようとしたって、無駄ですよ。ネモ様を見る貴方の目は、下衆の視線でしたもの。寒気を催す、気持ちの悪い目でネモ様を見ておいて、今更誤魔化そうとしたって無駄ですよ。おとなしく、首を落としておきましょう?」
イリスは楽しそうにユウリちゃんをはやしたてるし、死んだ目をしたレンさんは、エクスさんの胸元を踏みつけながら、冷たく言い放つ。ボクは涙があふれ出そうになっていて、床にお尻をついたまま、何も出来ない。
「何の騒ぎですか!」
そんな状況に、救いの手を差し伸べたのは、戻ってきたメリウスさんだった。




