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幸せだなぁ


 という訳で訪れたのは、中央教会の建物前だ。レンさんの言うとおり、それほど大きくはない。ただ、白くそびえ立つ塔は、凄く立派でとにかく高い。その塔を囲うように、立派な塀がそびえ立っていて、簡単には中に入る事ができないだろう。それに加えて、警備の多い事。塔の周辺は、大勢の武装した男の人がウロウロしていて、ちょっと怖い。

 ここまでの道のりは、クエストの報酬と照らし合わせ、馬車を利用してやってきた。片道、1万G……ちょっと高いけど、生活も大分落ち着いてきているし、それにこのクエストの報酬を考えれば使っておいて損はないと思う。


「それにしても、立派な塔ですね」


 ユウリちゃんが、そびえ立つ塔を見上げて、そう呟いた。

 白い塔は、天を突き抜けるような、先端の尖った物だ。その姿は、この町のどこからも拝める事ができるくらい高く、町のシンボルと言ってもいいくらい、よく目立つ。

 観光名所にもなれそうだけど、この大勢の兵士のいる中で、堂々と塔を見て回る気にはなれないよね。それに、一般的に敷地内に入る事は許されていないらしくて、一部の兵士……つまり、聖騎士だね。それ以外は、塔に近づくことは許されていないみたい。


「おい!ジロジロと、教会を見るのはよせ!」


 塔を見上げるボク達に、早速辺りを見回りしていた兵士が、絡んできた。その物々しい雰囲気から、絶対に来るとは思っていたけど、ボクは驚いて、いつも通りユウリちゃんの背後に隠れてしまった。


「私たちは、キャロットファミリーの者です。クエストを受けて、やってきました。これが、依頼書です」


 ユウリちゃんは、淡々とそう言って、ギルドから預かった依頼書を見せ付けると、兵士のボク達を見る目が一気に変わった。キレイにきをつけをし、そして、威圧的な態度を和らげるためか、一歩引き下がったのだ。


「コレは、失礼をした。どうぞ、こちらへ」


 兵士が案内してくれたのは、立派な塀の中へ入るための、門の前だ。重厚な、鉄の門の扉自体は開きっぱなしのようだけど、代わりに大勢の兵士が見張っている。あと、魔力を感じるのは、多分何か魔法の罠が施されているからだろう。何もないように見えて、ちゃんと門を閉じてあるに等しい。


「ギルドからの、派遣だ。中に通してやってほしい」

「ん。少し待て」


 門の内側……敷地内にいる、立派な鋼の鎧を身に着けた兵士が、数人外へ出てきて、ボク達を威圧的に囲ってきた。そこで、案内してくれた兵士はどこかへ去っていき、残されたボク達は、ジロジロと観察される。

 彼らは、聖騎士の人たちだ。ボクの家にきた聖騎士と同じ鎧だし、門の向こうにいたという事は、つまりそういう事だ。


「ギルドエンブレムを、見せろ。それから貴様、フードを外して顔を見せるんだ」

「……」


 そういえば、レンさんはキャロットファミリーの冒険者じゃないというか、冒険者ですらない。レンさんが、レンさんだという事がバレるのもマズイので、それを証明する訳にもいかない。


「どうした。まさか、見せられない理由でもあると言うのか」


 その通り。ありまくりです。


「え、えと、えっと……この人はボク達が頼んだ、お手伝いというか……怪しい人じゃないので、大丈夫です。ボクが、保障します」

「ダメだ。近頃物騒な騒ぎがあってな。身分の確認は、徹底させてもらう」


 どうにかしてレンさんを庇おうとしたけど、ダメみたい。せっかく勇気を振り絞って言ったのに……。


「こちらの方は、元は美しい女性だったのですが、つい先日、顔に酷い火傷を負い、醜くなった自らの顔を、こうして隠して過ごしているのです。そんな自分の顔を、他人に見られる事を非常に嫌っているので、どうかご慈悲をいただけないでしょうか」


 そう、つらつらと嘘を言い出したのは、ユウリちゃんだ。


「む、むぅ……だが、規則は規則だからな……」

「この子は、その醜い顔を見られる事に、強烈な嫌悪感を持っています。貴方達のような、見ず知らずの人に、その顔を晒すことは、拷問に等しき事。だから、どうかお願いします」


 ユウリちゃんが、それとなくレンさんを肘でつつき、何かしろと合図を送っている。レンさんは、それを理解したのか、次の瞬間、ハンカチを取り出してその目を拭う仕草を見せた。


「うっ……うぅ……」


 レンさんが、泣き真似をし始めた。それには、兵士たちも非常に慌て、わたわたとし始める。女の子の涙って、本当に凄いよね。これをされると、男は何もできなくなってしまう。ボクは彼らのその気持ちが、よーく理解できる。


「ひどーい!男の人が、女の子をよってたかって、泣かせたー!信じられなーい!人でなしー!」

「ち、ちがっ……」


 続いて叫んだのは、イリスだ。感情の篭められていない言葉だったけど、大きな声でそう叫ぶと、ボク達に集まった視線は、レンさんを泣かせた兵士達に対する、軽蔑の眼差しへとなる。更に、ボク達を囲っている聖騎士達の中でも、ボク達に強く言って来た人が、周りから睨まれて、孤立する事になる。

 女の子って、怖い。ボクなら、こんな状況になったら、泣いちゃいます。


「どうした、お前達」

「ぶ、部隊長殿ー!」


 そんな騒ぎを聞きつけてやってきた男の人に、皆から軽蔑の眼差しを送られていた人が、文字通り泣きついた。本当に泣いちゃった。でも、気持ちは理解できるよ。


「本当に、どうしたんだ!?」

「その方が、こちらの方に、フードをめくって顔をみせ、あまつさえスカートをめくって武器を持っていないか確かめさせろぐへへ、と言って来たんです」

「言ってない!」

「い、言ってないです。今のは、この子の嘘です」


 ボクは、嘘を言ったユウリちゃんの口を塞ぎながら、訂正してあげた。


「あ」


 部隊長と呼ばれた男の人が、そんなボクを見て、声を上げた。そして、顔を赤くして、凝視してくる。な、なんでそんなに見てくるの?ボクは、顔を伏せて、顔を見られないように隠した。


「やめてください!お姉さまをそんな、やらしい目で見ないで!穢れる!」


 ユウリちゃんが、ボクに抱きついて、そんな視線から匿ってくれた。


「ず、ずるいです、ユウリさん!私も!」


 続いて、レンさんも同じように、ボクを抱きしめてくれた。なんだろう、この状況は。よく分からないけど、幸せだなぁ。


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