補充します
朝の食卓は、メルテさんにアンリちゃんの事を説明する時間となった。食事をとりながらの説明となったけど、メルテさんは大して驚く様子もなく、全てを聞き終わると、簡単にアンリちゃんを受け入れてくれた。
「がはは!そうかそうか、お前、男なのか。女にしか見えないけどな!」
「ホント!?ありがとうございます、メルテさん」
女の子にしか見えないと言われたアンリちゃんは、凄く嬉しそう。
実際、そうにしか見えないよね。2人が並ぶと、どっちかというと、メルテさんの方が男の人に見えてしまうくらいだもの。
「はああぁ……」
そんな、仲良さそうな2人を見て、ユウリちゃんは溜息をついた。いや、もう溜息とかっていうレベルじゃない。深呼吸のような、深い深い息の塊だ。
「せっかくのハーレムに、お、男が……」
「だ、大丈夫?ユウリちゃん」
「……ちょっと、ダメそうなのでコレで補充します」
ユウリちゃんはそう言って、寝ぼけながら食事をしているイリスとイスの背もたれの間に無理矢理入り込み、後ろから抱きしめるようにして髪に顔をうずめた。いつもなら、イリスが騒いで抵抗をする所だけど、寝ぼけたイリスは、そんなユウリちゃんに無反応で食事を続ける。
「はぁぁぁ~」
先ほどとは、打って変わって幸せそうな溜息を吐くユウリちゃん。
黙っていれば、イリスは凄く可愛いエルフの幼女だからね。メイヤさんが、好きになってしまうのも理解はできる。……言動とか、行動は理解できないけど。
そんな可愛い女の子のイリスは、ユウリちゃんにとっても、可愛く癒される存在なのだ。いつもなら、止めさせるべき行動なんだろうけど、今回だけは多めに見ておきます。
「ところで、ネモ様。今日は、何か用事はあるんでしょうか」
「えと……ギルドにクエストを受けに行こうかなって、思ってるよ。あと、できればアンリちゃんのあのナイフについて、詳しそうな人に聞いてみようかな」
アンリちゃん曰く、アンリちゃんがこの世界に魂として残ってしまったのは、あのナイフが原因らしい。だから、謎を解明できれば、アンリちゃんがちゃんと、成仏できる事に繋がるかもしれない。いつまでも、この世界に幽霊として存在し続けたって、何にもならないからね。
「それでしたら、今日は私も同行してもいいでしょうか」
「う、うん。別にいいよ」
レンさんは、顔を見られたらちょっとマズイ存在だけど、家に閉じ込めておくのは可愛そうだ。顔を隠しておけば問題ないだろうし、目立つことをする訳でもないので、別にいいだろう。
「皆は、どうする?」
「あたしはパス。ちょっと調べ物があってね。この後でかけてくるよ。夜までには帰る予定」
「私は食料の買出しね」
メルテさんと、ネルさんも、出かけるみたい。特にネルさんには、いつも皆のご飯のお世話をしてもらっていて、頭が上がらない。
「それじゃあ、ネルさんは護衛にぎゅーちゃんを連れて行ってください。荷物持ちは、目立つからできないだろうけど、一緒にいれば安心です。もし、荷物持ちが必要なら、イリスを連れて行ってください」
「ぎゅ」
「ぎゅーちゃんはいいけど、イリスはいらないわ」
ネルさんは、冷めた笑顔でそう言った。イリスを連れて行ったところで、文句が五月蝿いし、自分で歩かないし、力はないし、我侭だし、役に立たない事を知っているのだ。
できればボクも連れて行きたくはないけど、留守にするのも心配だし、置いていって後で何と言われるか分からない。仕方ないので、連れて行こう。
「そ、それでしたら、私もネルについて──」
「荷物はそこまで大した事にならいし、別に大丈夫よ。ネモ、レン様をよろしくね」
「は、はい。ユウリちゃんは……」
「当然、お姉さまについていきます。レンさんに、お姉さまが何かされないか、見張っておかないといけないので」
どの口が言うのかと思ったけど、黙っておきました。
「留守番は、任せておいてね。泥棒が入ってきたら、化けて出て追い払ってあげるから。ふふふふふ」
「ひぃ!」
「お、お願いするね」
本当の幽霊のように、薄気味悪く笑うアンリちゃん。いや、本当に幽霊なんだけどね。普段のアンリちゃんって、明るいから、幽霊ぽくないんだよね。
そんな幽霊ぽいアンリちゃんを見たら、大抵の人は逃げるだろう。実際、ネルさんはそれを見て悲鳴を上げ、メルテさんに抱きついている。
「誰が、いらないですかっ!」
突然、それまで寝ぼけていたイリスが叫んだ。だけど、寝ぼけていただけのようで、すぐに眠りにつく。
ボク達は、そんなイリスの行動に思わず、笑いを漏らす。笑顔の溢れる、朝の食卓の風景でした。
家を出たボクと、ユウリちゃんと、フードを深く被って顔を隠したレンさんは、まずはギルドに向かった。3人並んで歩いて、ユウリちゃんはボクの腕にしがみついて、腕を組んでいる。反対側にはレンさんがいるけど、そんなユウリちゃんを、悔しげな表情で見ている。
レンさん側の手には、イリスを抱えているからね。普段なら、ユウリちゃんに対抗意識を燃やして、同じようにしてくると思うけど、それが出来ない。
「んが……」
唐突に、ボクが腕に抱えているイリスが、目を覚ました。
ちなみに服は、ユウリちゃんがいつもの魔法少女風な服装に着替えさせてあるので、寝巻き姿ではない。髪の毛もちゃんとセットされていて、艶やかな髪の毛は、一切の乱れのないツインテールにされている。
「おはよう、イリス」
「ここは……外ですか。で、どこへ向かっているんですか」
イリスも、目が覚めたらボクに運ばれている事に慣れたもので、目をこすりながらそう尋ねて来た。
「ギルドだよ。クエストを受けようかと思って」
「またですか。貴方も頑張りますね。でも、ギルドですか……」
ギルドに行くということは、イコール、メイヤさんのいる場所に行くと言う事だからね。イリスにとって、そりゃ嫌だよね。でも、仕方ない。
イリスは、ボクの手から降りると、自分の足で歩き出したんだけど、自然とボクの手を掴んできて、手を繋ぐ形となる。左手はユウリちゃんと腕を組み、右手はイリスと手を繋いでいるという、幸せな状況だ。
「くっ……!」
「ナイスです、イリス!」
「へ?」
イリスは図らずもレンさんの邪魔をして、レンさんは悔しげにする一方、ユウリちゃんはイリスを褒め称えた。イリスは訳が分からなくて、そんな2人に首を傾げるだけだったけどね。




