表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/492

朝ですよ


 次の日は、前日が嘘のような快晴だった。寝室の天窓から差し込む、お日様の光はとても気持ちが良くて、目覚めは最高だ。

 辺りを見ると、部屋にいるのは、同じベッドで寝ていたボクとイリスに、見事に割れたお腹丸出しで床で眠っている、メルテさんだけだった。メルテさんは、敷かれた布団から離れ、硬い床の上で寝ている。寝相、悪すぎるよ。身体が痛くならないのかな。

 心配しつつも、ボクは隣で寝ているイリスを腕に抱えて立ち上がった。


「メルテさん、朝ですよ」

「んが……」


 声を掛けると、メルテさんは案外素直に目を開き、上半身を起き上がらせて、身体を思い切り伸ばす。その際に、肩からずれたパジャマが更にずれて、胸が見えちゃいそう。そもそも、よく見たらパジャマのボタンがいくつか外れている上に、掛け違えている。寝る前はそんな事なかったので、寝ている間に色々やったのかな。そんなメルテさんから、ボクは慌てて目を逸らした。


「め、メルテさん、服が……色々と、み、見えちゃいそうです」

「あー……別にいいよ、見えたって減るもんじゃないし」

「そういう問題じゃないです。ちゃ、ちゃんと、着てください。お行儀が悪いです」

「ネルみたいな事言うなよー……」


 いじけたような素振りを見せながらも、渋々と服を整える、メルテさん。

 そんなメルテさんと共に、部屋を出て向かった先は、良い匂いのしてくる、1階のリビングだ。


「あ、おはようございます、お姉さま」


 まず出迎えてくれたのは、エプロンを着て、ご飯を机に並べているユウリちゃん。その姿はまるで、新婚の若妻のようで、凄く可愛いです。


「おはよう、ユウリちゃん」


 そんなユウリちゃんに、朝の挨拶をするのが、ボクの楽しみの1つとなりつつある。だって、本当に可愛いんだよ、この時のユウリちゃんは。


「メルテさんも、おはようございます」

「おはよーさん」

「ご飯、もう少しでできるので、ちょっとだけ待っていてくださいね」


 ユウリちゃんに促されて、ボクとメルテさんはイスに座る。イリスは起こしたって、どうせ起きないので、こうしてボクが運んできて、イスに強制的に座らせる役目を負っている。イリスは、イスに座らせても、気持ち良さそうな寝息をたてて、イスの背もたれに寄りかかって天井を見上げて眠り続けている。

 この時のイリスって、絶対に起きないからイタズラし放題なんだよね。ボクは、隣に座るイリスの長い耳を触ったりしながら、時間を過ごす。


「えへへ」


 喋らなければ可愛いイリスに、ボクの心は癒されます。


「おはよう、ネモ、メルテ」

「おはようございます。ネモ様。メルテ」

「ぎゅー」


 そこへ、食事の支度をしていたネルさんとレンさんも、ご飯を机に並べながら席につき、挨拶をしてきた。ぎゅーちゃんも、手伝いをしてくれていたようで、触手で器用にお皿を運んできてくれる。

 ボクとメルテさんも、そんな皆に挨拶を返し、これで全員との挨拶が終わる。


「おはよー、ネモさん」

「おはよー」


 おっと、まだ挨拶をしてない人がいたね。ボクは、壁をすり抜けて、姿を現したアンリちゃんに、自然と挨拶を返した。

 その服装は、ボクの服装ではなくなっている。今の服装は、アンリちゃんの回想の中にあった、朱色のスカート姿だ。ちょっと古めかしいデザインだけど、当時の町娘という感じで、可愛らしい。男の子だけど。


「て、あれ。昼間なのに、見える……?」

「別に、夜だろうが昼間だろうが、関係ないよー。今までは、隠れてただけだからね」


 そう言って、アンリちゃんはふわふわと空中を飛び、机の上に並べられたご飯を、興味深そうに観察する。

 その様子を見て、レンさんとネルさんは、顔を真っ青にして、震えながら耐えていた。


「あ……2人は、アンリちゃんの事は、聞いたの……?」

「え、えぇ、おおまかには、ユウリさんから。実を言うと、私とネルにも、アンリさんの記憶の回想は夢のように断片的に見えていまして、事情はなんとなくですが、理解できています」

「本当に、なんとなくだけどね」

「二人とも、最初は大変だったよー。ボクの姿を見て卒倒しそうになるし、逃げるし、耳を塞ぐし」


 想像は、容易につく。昨日の感じだと、むしろこうして震えているだけに収まっているのが、不思議なくらいだ。


「……でも、ユウリさんが、ちゃんと説明してくれたんだ。ボクは、悪い幽霊じゃないよってね。ぎゅーちゃんとは、すぐに仲良くなれたけどね。というか、前からちょくちょく目があってたから、ボクがいる事が分かってたのかな。にゃはは」

「ぎゅぎゅー」


 アンリちゃんは、机の上にいるぎゅーちゃんを撫でるフリをしながら、ちょっと嬉しそうに、そう言った。

 それにしても、ユウリちゃんが……。男嫌いなのに、やっぱり優しい子です。


「それにしても、ナイフの封印を解いたこの子、凄いよね。イリスちゃん、だっけ。全然起きないよ」

「うん……」


 アンリちゃんが、イリスの身体を通り抜けたりしながら言うけど、イリスは引き続き、起きる様子がない。


「ナイフの封印を、あれだけ躊躇なく開けた人って、いないんだよね。過去に、3人くらいあの箱を見つけた人がいるんだけど、皆箱を開ける事はできなかった。それだけ、あのお札って不気味だからね。まぁボクも、あんな箱を見つけたとしても開けないよ」

「み、見てたんだ……」

「うん。屋根裏の隅っこで、姿を消して、観察してた。まぁ昨日も言ったけど、あの封印自体に意味はないから、呪われたりはしないから、安心してね」


 じゃあなんで、封印なんてされていたんだろうと思うけど、アンリちゃんが怖くて必死だったんだろうね。関係なかったみたいだけど。

 ちなみにあのナイフは、箱に入れなおして、棚にしまってある。武器としては刃渡りが短くて使えないし、食べ物を切るには血がついていて不衛生だし、サバイバル用にするにしても、装飾が豪華なので、もったいない。


「そっか、そっか。なんか、あたしがいない間に、色々と面白い事になってたみたいで、何よりだよ。だけど、説明もしないままに和気藹々とするのは、よしてくれないかい?正直言って、いきなり幽霊が現れてビビってるんだけど」


 そういえば、メルテさんはずっと寝ていて、イリスと同じく何も知らないんだっけ。でも、ビビってると言う割りに、けっこう冷静だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ