リッキーさん
「でも、自殺と言う選択を選んだ貴方は、ある意味では正しいです。あとは、生まれ変わって、どこかの世界で女の子にでも転生すればいいでしょう。どうして、そんな男のまま女装してこの世界に固執しているんですか」
「て、転生……でも、ボクにもこの世界にとどまってる理由が、よく分かんないんだよ。たぶん、あのナイフの力が何か関係してるんだと思うんだけど……」
「はぁ……せっかく、女の子だけのハーレム生活だというのに、まさか男の幽霊が住んでいたなんて、私ショックです……」
ユウリちゃんは、本当に具合が悪そうに、頭を押さえてふらついた。ボクは、その身体をさりげなく捧げると、ユウリちゃんは甘えるようにしてボクに身体を預けてくる。
「悪かったねぇ。でも、残念ながらどうにもできないから、ボクはこれからもここに住み続けるからね。嫌なら出て行って。ここは、ボクの家なんだからね!」
「お姉さま。引っ越しましょう」
「あ……」
ユウリちゃんがそう言って来るけど、引越しなんて簡単に出来るもんじゃないよ。せっかく生活も落ち着いてきたというのに……。
それに、アンリちゃんはユウリちゃんがそう言った時、寂しそうな表情を見せてきて、ユウリちゃんもそれに気づいてちょっと気まずそう。
男嫌いのユウリちゃんだけど、根は優しい女の子だからね。
「……アンリちゃんは、生まれ変わりたいの?」
「うーん、でも、生まれ変わったボクがボクじゃなくなるとか考えたら、やっぱり嫌かな。ボクは、可愛いボクのままでいたい!」
いや、確かに可愛いよ。でもね、あんまり自分の事を、目を輝かせながら可愛い可愛いって言うのは、どうなんだろうと思うよ。特に、君の目の前にいる、ユウリちゃんの目の前ではね。
「言っておきますけど、お姉さまの方が可愛いですよ?というか貴方、男臭いんですけど」
「確かに、ネモさんは可愛いよ。でも、ボクにはおよばないかなぁ?ふふん」
「だから、そもそも貴方は男臭くて、それ以前なんです。分かります?」
「ボク、幽霊だから臭くないしぃ」
なんか、幽霊と言い合ってるのって、シュールだなぁ。
「ふわぁ」
それを見ていたら、なんか眠くなってきた。ボクは、大きなあくびを漏らし、同時に出てきた涙を指で拭った。
無理もないよ。いつもなら、深い眠りについてる時間だからね。幽霊の正体も分かったことだし、万事解決です。
「ボク、そろそろ寝るね」
「危険です、お姉さま!男がいる家で眠るなんて、私が許しません!」
一体、どの口が言うのだろう。ユウリちゃんの隣で女の子が眠るよりは、絶対に安全だと思う。奴隷紋で手出しをさせないようにしているけど、それがなかったら、絶対に手を出されていると思うんだ。ボクも含めて、この家の女の子全員に、ね。
「アンリちゃんは、大丈夫だよ。何かするつもりなら、とっくに何かしてきてるし、それにほぼ女の子じゃん。気にする事ないよ」
「気にしますよ!」
ユウリちゃんは、ボクが元男だという事を忘れているんじゃないかな。こんなに綺麗なボクだけど、ボクは元男だからね。
……ちょっと、アンリちゃんみたいに自分の事を良く言ってしまったけど、ボクの場合は身体が完全に別物になってしまっているから、良いんだよ。
「えーと、じゃあ……アンリちゃんは、2階に来ちゃダメ。プライベートな事は、覗かない。もし約束を破ったら、ボクがアンリちゃんを倒す。という事で、寝よう。ボク眠いよ」
アンリちゃんの、ナイフの件や、今後に関してとかもとりあえずは置いておいて、ボクはとにかく寝たいのだ。
幽霊を倒す方法なんて、知りもしないけど、その時になったら考えればいいよね。
「了解、約束は守るよ。ボクとしても、君達は見ていて、凄く面白い。だから、できれば家を出て行かないでくれると、嬉しい。あと、たまに話し相手にもなってくれると、もっと嬉しいな。それに、可愛い女の子の中に、可愛いボクも混じることによって、ボクがもっと可愛くなるんだ。相乗効果ってヤツで、君たちも可愛く映ると思うし、何よりこんなに可愛いボクと一緒に暮らせるんだから、最高だよね!」
「ああん?」
ユウリちゃんが、アンリちゃんを怖い目で睨みつける。
その敵対心は、レンさんに向けられる物よりも、遥かに高い。やっぱり、男というのがいけないのかな。いくら可愛くとも、ユウリちゃんにとっては、ついてるか、ついていないかが重要みたい。
「ふわぁ……」
ボクは、再び大きなあくびをした。
「お姉さま……仕方ありません。お姉さまが眠たそうなので、今日の所は勘弁してあげます。その代わり、約束は守りなさい。いいですね」
「りょーかい、りょーかい」
ボクは、とりあえず床で気絶している、レンさんとネルさんを片腕ずつで担ぎ上げると、部屋に向かって歩き出そうとする。でも、すぐに、まだアンリちゃんにしていなかった事を思い出した。
「そうだ、忘れてた。知ってるかもだけど、ぼ、ボクの名前は、ネモ。よろしくね、アンリちゃん。いや……君?」
「ちゃん、で。君なんてつけて呼んだって、無視するからね!」
何故か、怒られてしまった。
「ふ。本庄 ユウリです。よろしくお願いしますね、アンリ君」
「……」
「……」
にらみ合う、2人。一触即発の雰囲気が、流れる。
「そ、そういえば、あの赤い女の子も、アンリちゃんだったんだね!あれにはボクも、ちょっとだけビックリしたよー」
「赤い女の子?」
場を紛らわせるために言っただけの事だったのに、アンリちゃんは首を傾げてきた。
「ボクが夜中に、トイレに起きた時、一回だけ、ボクの前に現れたことが……あるよね?」
「基本的に、ボクも夜は寝てるし、なるべく皆に気がつかれないように、息を潜めてるから姿を見ることはなかったはずだよ。それに、赤い服なんて着たことないから、それボクじゃないね。そういえば、たまに、見える人には見えることがあるって、リッキーさんが言ってたな。あ、リッキーさんって言うのは、4年前に火事でし──」
「分かった、もういいよ!もう、全部分かったから、戻って一緒に寝ようユウリちゃん!」
「はい、お姉さま!」
アンリちゃんが変な事を言うから、急に怖くなってきてしまったじゃないか。思わず一緒に寝るように誘ってしまったユウリちゃんは、嬉しそうに、ボクの隣に並んだ。
「おやすみー」
「フフ……」
見送ってくれるアンリちゃんの、背後だった。赤い女の子が、こちらを見て、笑っている。その赤は、服の赤と、髪の赤と、そして、あふれ出す血によって染まった赤だ。




