表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/492

毎度あり


「てんめええぇぇぇ!何してくれてんだよおおぉぉ!」


 お兄さんは、もの凄い剣幕で、ボクに向かって剣を抜いてきました。全身、ゲロまみれの、臭くて汚い格好で。まぁそうさせたのはボクだけど。


「ご、ごご、ごめんなさいっ!あと、臭くて汚いので近寄らないでください!」

「お前が、やったんだろうが!」


 ボクは、凄まれてユウリちゃんの背後に、身を隠した。ユウリちゃんがいなかったら、もうこの場から立ち去ってるよ。


「落ち着いてください。お姉さまは、不可抗力で吐いてしまっただけで、悪気があって吐いた訳ではありません」


 ボクの代わりに、ユウリちゃんが毅然とした態度で、お兄さんに言った。こんな怖そうなお兄さんに、全く怯む様子がない。か、カッコイイよ、ユウリちゃん。


「世の中、悪気がなかったで済む話ばかりじゃねぇんだよ、クソガキ……!服の代金と、慰謝料、しめて500万払え。払えねぇなら、オレの奴隷になって、働いて返せ」

「そんな法外な代金、払えませんし、貴方のような人の奴隷には、なりません。大体にして、先程の自らの行いの、罰が当たったのではないですか?さっさと10000Gを受け取って帰っていれば、お姉さまに吐かれる事もなかったでしょうに。自分の思うようにいかなければ、子供のように駄々をこねて、大きな声を上げて押し通そうとする。情けない青二才のクソガキじゃないですか。むしろ、ゲロにまみれて、少しはその薄汚い心が洗われたんじゃないですか?洗濯代を請求したいくらいです。そうですねぇ……500万Gでいいですよ。払えなければ、奴隷に……あ、やっぱいいです。貴方のような汚くて矮小な人間、奴隷にも欲しくありません」


 途中までは、ボクもいいぞもっと言ってやれという気持ちで、いっぱいだった。でも、ユウリちゃん。言いすぎだ。お兄さん、怒って顔を赤くして、剣を持つ手が、ぷるぷる震えている。


「……てめぇ。奴隷だな?」

「はい。お姉さまの、奴隷です」

「はっ。薄汚ねぇ格好のくせに、奴隷持ちとはいいご身分だ。いいぜ。この奴隷を、オレに寄越せ。それで、この件はチャラにしてやる」

「ぜ、絶対に嫌ですっ!」


 ボクは、即答した。ユウリちゃんを盾にして。


「あーもう……いいや。うん。いい」


 え、いいの?よかったー。ボクは、安心して胸を撫で下ろした。世の中、やっぱり話し合いだよね。平和に事が済むのなら、それが一番良い。


「死ねや」


 お兄さんの剣が、ユウリちゃんの首に向かって、振り下ろされた。


「え?何をしてるの?」

「っ……!?」


 ボクは、ユウリちゃんの後ろから手を伸ばして、その剣を指先で掴んで止めて、お兄さんに尋ねる。お兄さんは慌てて剣を引き下げようとしているが、無駄だ。剣は、ボクの指でガッチリとキャッチされているから、そんな弱い力じゃビクともしない。


「ねぇ。ボクは、何のつもりで、ユウリちゃんを殺そうとしたのかって聞いてるんだ。答えてよ」

「な、なんなんだ、てめぇ……!」


 お兄さんは、ボクの問いに答えようとしてくれない。ボクはイラっとして、思わず指先に力をいれてしまい、剣が砕けてしまった。これだから、安物の武器は。


「ひ、ひぃ!」


 お兄さんは腰を抜かして、地面にお尻をついた。


「ねぇ。お兄さんは、死にたいの?死にたくなかったら、ボクの問いに答えてくれない?」

「ご、ごご、ごめんなさい……!」


 震えながら話すお兄さんは、まるで知らない人と話すときの、ボクのようだ。でも、ボクはお兄さんのように、おしっこを漏らしたりはしないけどね。


「おい!何をしている!何の騒ぎだコレは!」


 そこへ駆けつけてきたのは、数人の男の人。スーツのような服装の、集団だ。皆同じ色のネクタイで揃えていて、武装している。


「この方が、買取値をあげろと暴れて、そちらの女性に助けていただきました」


 受付の女の人が、簡単に説明。その説明を受けて、お兄さんはその男の人に両腕を掴まれて、連れられていく。


「うわ。なんでコイツ、ゲロまみれなんだ」

「ほら、さっさと立て……くっさ」


 それ、ボクがやりました、ごめんなさい。


「ご協力、感謝します!」


 駆けつけた男の人にお礼を言われるけど、ボクはユウリちゃんの後ろに隠れた。更には、湧き上がる歓声。それは、ボク達の後ろに並んでいた人たちの歓声だ。皆が、ボクに注目している。もう、帰りたいよぉ。


「お姉さま。ここは、私にお任せください」


 ユウリちゃんが、ボクにそう耳打ちをしてきた。うう。ごめんね、ユウリちゃん。迷惑をかけてばっかりで。でも、どうするの?


「皆様!お姉さまは、人見知りなので、あまり騒ぎ立てるのはやめてください!」


 堂々と、そう言ったユウリちゃんに、辺りは静まり返った。いや、別に、本当の事だから良いんだけど。でも、そう堂々と言われると、凄く恥ずかしい。消え去りたい。


「さ、お姉さま。早く商品を売って、帰りましょう」


 こ、こうなれば、ヤケだ。ボクは、ウルティマイト鉱石を取り出して、窓口に置いた。


「こ、コレは……!」


 それをみて、受付のお姉さんの目の色が変わる。それを様々な角度から虫眼鏡で観察し、徹底的に調べ上げていくのを、ボクとユウリちゃんは眺めて判断を待つ。

 は、早くしてくれないかなぁ。また、気持ち悪くなってきた。早くしてくれないと、また吐くよ?


「ほ、本物の、ウルティマイト鉱石……!こちら、買取でよろしいですか?」

「はい」


 答えたのは、勿論ユウリちゃん。

 そして、受付の女の人が奥へ消えて、戻ってくると、その手には大量の金貨の入った、麻袋。ずっしりとして重そう。


「質と大きさも、最上級の物となりますので、しめて1000万Gでの買い取りとさせていただきますが、よろしいでしょうか」


 ボクは、この世界の金銭価値は、まだよく分からない。

 でも、それが凄い値段だという事くらいは、なんとなく分かる。


「ですが、先程の騒ぎの一件もありますので、もう少し、値段をあげてもらってもいいんじゃないですか?」

「そうですねぇ……では」


 と、ユウリちゃんが値段交渉を始めたけど、ボクはもう、限界だ。いてもたってもいられなくなり、お金の入った麻袋を手に取ると、ユウリちゃんを抱き寄せる。


「毎度あり、です!」


 ボクは、全速力でその場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ