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ご褒美

 薄暗く、雷が鳴ったり鳴らなかったりする、どんよりとした空気の世界。この場所は、年がら年中そんな天候。原因は、ボクが今いるこの、魔王城のせいだ。その城そのものが、天候を操るほどの魔力を帯びていて、そうさせている。

 正直、ボクは雷が嫌いだ。音が大きくて、しかもピカッと光って怖い。何度か帰ろうと思ったけど、頑張ってここまで来たと言うのに、誰も褒めてくれないし。もうヤダよ。

 トボトボと歩いていると、また、雷が鳴る。


「ひぃ!」


 驚いたボクは、思わず通り過ぎようとしていた扉を開いて、部屋の中へ入った。そして、耳を塞ぎ、目を閉じる。完全に音を遮断する事はできないけど、幾分かマシだ。しばらくそうしていると、少し、雷が収まったようなので、恐る恐る目を開く。

 そこは、広い空間だった。石畳の上には赤い絨毯が敷かれ、道を作っている。その先には、壇上に大きな大きなイスが設置されていて、そこに、誰かが座っているようだ。


「よく来たな、勇者よ。よくぞ、私がここにいる事を、見破った。褒めてつかわす」


 それは、骸骨だった。だけど、ところどころに変な角みたいな物が生えていて、人の骸骨ではない事が、すぐに分かる。大きく長いマントは威厳タップリで、しかも、目玉がないのに目が赤く光っていて、ちょっと怖い。


「あ、あの……ぼ、ぼぼぼぼく、魔王さんを探していておりまひて……!」


 ちょっと、かんでしまった。けど、多分伝わったよね?


「私が、その魔王である!名を、グレイモスレインと言う!!」


 すごい、風が巻き起こった。それは、骸骨さんが放った、威圧感のせいだ。ボクは、目を閉じてじっと耐える。


「ほう。さすがは、勇者だ。この私を前にして、気絶せんとは大したものよ」


 何か、褒められた。ちょっと嬉しい。でも相手は、彼が言うには魔王さんらしい。あんまり喜んでいるような場合じゃないよね。


「ま、魔王さん!覚悟してください!」


 ボクは、剣を構えて、魔王さんに向かって目いっぱいの声を出して叫んだ。ちょっと声が裏返ってしまい、逆に聞き取り辛くなってしまったかもしれない。


「え?聞こえなかった、もう一回お願い」


 やっぱり、聞こえなかったみたい。魔王さんは、こちらに耳を向けて、そう言って来た。


「ま、ままま魔王さん!覚悟、してください!」

「うむ!かかってくるが良い!」


 今度は、上手く聞こえたみたいで、安心する。

 そして、かかって来いと言われたので、かかっていく。


「へ?」


 魔王さんがおかしな声を出したけど、お構いなしだ。ボクは床に着地して、剣を鞘に収める。

 その瞬間、魔王さんはバラバラになり、崩れ落ちた。でも、確か魔王さんは復活するんだっけ。ボクは、再び剣を抜くと、技を繰り出すことにした。


「えええぇぇぇい!ラストイェレーター!」


 ボクの剣に、強力な光が集まり、それを振りぬくと、光が全てを飲み込んで、消し飛ばしていく。魔王さんも、そこにあったイスも、壇上も、壁も、床も、ボクの前方にあったはずのものは全て消えてなくなって、お外が見えるようになっていた。よく見ると、その先で山が一個丸々吹き飛んでいたけど、仕方ないよね。魔王さんを倒すためだもの。

 ……それで、魔王さんはどうなったの?

 ボクの心の問いに答えるように、空が晴れていく。雲との切れ間には、太陽の光が差し込んで、光を指す。


「……勝ったの、かな?」


 あまりにもあっけなくて、拍子抜けだ。これなら、寄り道をしないで、村を出て真っ直ぐここにきても、良かったんじゃないのかな?長い旅路が、無駄になってしまったようで、ホントむなしい。


「よくぞ、魔王を打ち倒しましたね、勇者よ」


 雲の切れ間から差し込んだ光と共に、神々しく光り輝く、女神様が降りてきた。白く、美しく輝くようなお肌に、完璧な造形美のお顔。艶やかな金髪は、宙に浮いて自由自在に流れている。その背中には、白い翼を生やしていて、その羽根が周囲に飛んで神々しさを更に助長している。そんな女神様の服装は、簡単な白い衣を身に纏っただけの姿。ちょっと、肌の露出が多くて目のやり場に困ってしまうけど、目を背けるような事はしない。そのお姿を、ボクは目に焼き付けるのだ。特にお胸。大きな大きなそのお胸は、全てを包み込むような威厳を備えている。


「女神様……女神、イリスティリア様!」

「貴方のおかげで、この世界には平穏な時が訪れます。そこで、世界を救った貴方へのご褒美として、一つだけ貴方の願いを叶えて差し上げます。なんでも、言ってください」


 柔らかな笑顔で、優しげな声。その姿をこうして見る事ができるだけでも、幸せだと言うのに、なんて寛大なお方なのだろうか。


「家から出ないでずっと部屋の中に篭もって暮らす人生を送りたいです!」

「いいでしょう。その願い、叶えてさしあげ……今、なんて?」

「家から出ないでずっと部屋の中に篭もって暮らす人生を送りたいです!」


 コレは、ボクの夢だ。だから、即答した。なんでも叶えてくれるというのなら、コレしかない。


「ボクは、家から出ないで、ずっと家の中で遊んで暮らす……そんな娯楽にまみれて、他人とは隔離された世界で生きていきたいんですっ!……無理でしょうか」

「コレは、想定外の願い事です……」


 女神様は、頭を抱えてしまった。ボクの願い事のせいで、女神様を困らせてしまったようだ。


「あ、あの、無理なら全然構わないです!ボクのただのわがままなので、忘れてください!」

「……いえ。言ってしまった以上は、責任を取ります。……いいでしょう。一つだけ、希望に添える世界と、人種がいますので、その世界に貴方を飛ばします」

「本当ですか!?」


 ボクは、女神様の言葉に、心を躍らせ、目を輝かせた。


「ええ。頑張ったご褒美です。行きなさい、勇者よ。平穏と娯楽にまみれた世界へ」


 ボクの身体が、光に包まれていく。ありがとうございます、女神様。ボクは、旅立ちます。お父さん、お母さん。さようなら。あと……他に誰も顔が浮かばないや。とにかく、世界の皆、さようなら。どうか、皆さん、平和にお過ごしください。


 こうして、ボクは異世界へ転移する事になった。魔王を倒し、その責務を果たした勇者としてのボクの人生は、ここで終わりを告げたのだ。





 

「……ちっ。また、発売延期か」


 パソコンの画面の光だけが部屋を照らす、薄暗い部屋。ボクは、三方向に何台かあるモニタの内の一つを見て、舌打ちをせざるを得ない。一年前から予約していたゲームが、二度目の発売延期となったのだから、仕方ない。

 すると、右側の一台のパソコンから機械音がなり、ボクを呼んだ。目を向けると、メッセージで、他のギルドに攻城戦を仕掛けられていると書かれている。そのモニタは、ネトゲ用のパソコンだ。イスを滑らせて、そちらへ移動。キャラクターを操作して、状況を確認する。


「はっ。雑魚ギルドじゃん。こんなん、ボクが出る幕もないね。なんてったって、ボクは一桁ランカー様だぞ。そんなボクと、容易く戦えると思うな」


 再びイスを滑らせ、今度は別の、ゲーム用画面を見る。その画面では、裸の女の子が触手に絡め取られ、言えない事をされている。それは、所謂エロゲ。それも、陵辱系のファンタジー物だ。ボクは元勇者なだけあって、そんなファンタジー系のエロゲが凄く大好きです。パーティの女性って、負けたら皆こうなっちゃうのかな?ボクのいた世界の女性パーティも?……想像しただけで興奮し、鼻息が荒くなってしまう。


「おっと、アニメの時間だ」


 予約してあるので、自動的にテレビの画面がついて、学園ラブコメの深夜アニメが始まった。

 今期は中々良作が多くて、時間が奪われるようで辛いよ。

 テレビを見終わったボクは、そのアニメのDVDを購入する事を決めた。そして、早速タブレットを操作して、通販にて予約完了。楽しみだなー。早く届かないかなー。今から、わくわくする。


 ボクが転移したのは、地球とかという世界の、とある国だ。この世界に来て、3年程の歳月が経とうとしている。最初は、パソコンとか、タブレットとかの操作に戸惑ったけど、今ではすっかり馴れて、この世界での生活を満喫している所だ。この世界には、引きこもりとかという職業があるらしくて、ボクはその、引きこもりになった。家の中に篭もり、一歩も外に出ずに、アニメやゲームに漫画を楽しみ、それだけして生きていける。なんて、最高な職業なのだろうか。ボクのような、コミュ障で対人恐怖症で更にはチキンなヤツには、もってこいの職業である。


「異世界最高!引きこもり最高!」

『何が、引きこもり最高!ですか』


 どこからか、声が聞こえた。声の主を探して辺りを見渡すけど、この部屋にはボクしかいない。もしかして、心霊現象……?

 不安になって、ボクはスマホを手にして、電話をかける。相手は、女神様だ。この世界にボクを転移させてくれた、イリスティリア様。

 しかし、何故か、その電話番号はただいま使用されていませんという、アナウンスが流れる。そんな、昨日まではしっかりと繋がったのに!?


『無駄ですよ。イリスは今、折檻中ですので』


 再び、声。ボクは、恐る恐る振り返って、声のした方を見てみる。すると、先ほどまでネトゲを映していた画面の中で、女の人が、こちらに向かって手を振っていた。

 眼鏡をかけた、知的そうな女の人。燃えるような赤色の髪は、ポニーテールにしていて、よく見ると瞳までもが赤い。服装は、ちょと派手な和服姿。胸を過度に露出させ、谷間を強調した上に、スリットが入って大きく露出した太ももと、下着の紐までもが見えている。その姿は、露出過剰でちょっと痛々しい。せっかくキレイな人なんだから、もっとイリスティリア様を見習って、気品と美しさを兼ね備えた服を着るべきだと思う。


『貴方が、元勇者の──』


 ボクは、その画面に向けて、テレビのリモコンを投げつけた。リモコンはテレビを貫通して、壁に突き刺さる。テレビが壊れた事によって、画面は消えて、その女の人も消えたようで、一安心だ。


『無駄です』


 今度は、テレビの画面に、さっきのポニーテールの女の人が映った。ボクは怖くなって、コタツに頭を突っ込んで隠れる事にした。ボクは何も聞いていないし、何も見ていない。


『はぁ……話にならないわ。イリス。貴女から話をして』

『……勇者様。勇者様。どうか、お姿をお見せください』


 この声は……間違いない。イリスティリア様の声だ!

 ボクは、そっとコタツから顔を出して、パソコンの画面を見た。先ほどまで、赤い女の人が映っていた画面に、イリスティリア様が映っている。

 でも、なんだか様子がおかしい。イリスティリア様は、ボロ布を着せられ、手枷を嵌められた上に、なんだかちょっとやつれているようだ。その姿はまるで、奴隷のようで、女神の威厳を感じられない。


『アイツです!私は、アイツに騙されて仕方なくやったのです!だから、私は悪くないわ!今すぐ、コレを外して解放して!』


 泣きながらそう訴えるイリスティリア様に、ボクは、何がなんだか分からなくて、呆然とするしかなかった。


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