009 地団太 2005年 春/中部
『彼女』はドアノブをガチャガチャ回した。
「開かない! 開かないの!!」
地団太を踏んだ。
ドアが開かないのか?
「落ち着いて! ちょっと待って!」
服を着るのを急ぐ。
ネクタイは鞄へ突っ込む。
『彼女』はホテルの受話器を掴みフロントへ電話した。
「鍵がかかってるの! 出たいの!」
・・・・・・。
「だして!! でたいの!!」
・・・・・・。
「お金を払わないと開かないから! お金払って!!」
『私』に詰め寄った。
「分かったから。すこし待ってて」
入口の脇にクレジットカードの精算機が付いていた。
お金を払う。
直ぐにドアを開け『彼女』はエレベーターへ駆け出した。
後を追い一緒にエレベーターへ乗る。
「何があったの? 理由を説明して?」
うつむいて話さない。
「黙ってたら分からないよ?」
エレベーターを降りると『彼女』は急ぎ足で大通りへ向かった。
『私』は後を追いながら声をかけた。
「どうしてなのか分からないよ?」
大通りへ出る所で追うのをやめた。
『彼女』は道を曲がり見えなくなった。
最低の女だ!
解っていたのに、最低の女だ!
こんなことは初めてだ。
メールを出す。
「理由を説明して」
体がベタベタして『彼女』の匂いがする。
『彼女』への険悪感がこみ上げる。
すぐにシャワーで匂いを消し去りたい!
『彼女』もあのまま服を着たんだ。
同じだろうに。
メールの返事は来ない。
やり場の無い怒りに体が震える。
電車に乗る気が起きずタクシーで帰った。