表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/37

006 3度目 2005年 冬/中部

綺麗なホテルだった。


「最近出来たばっかりなの。調べたんだ。

 高そう。試供品のコンディショナー貰って帰ろうっと。

 ケーキ食べていい?」

「いいよ。私はお茶で」


シャワーから出ると『私』の眼鏡を『彼女』は外した。


「子供産んでるから、あんまり見ないで。近い、近い、近い。顔が近いよ」

「近づかないと見えないからしょうがないね」


そのままキスをした。

すぐに眼鏡をかけられた。

不本意だがしかたがない。


そして事に及んだ。


「あれから変わったね? 騒がないね。彼はいるの?」

「いないけど、そんなに変わった? 色々あったから」


結婚、出産、離婚、一人で生きていれば変わるはずだ。

あの時の『彼女』は、もういない。

すこし寂しくなった。


フロントに電話して買ったコンディショナーを渡す。


「ありがとう。すごく嬉しい」


「車にドリンクタイプのカロリーメイトが2箱あるけど飲む?」

「飲んだことないけど欲しいかな」

「アマゾンで5箱まとめ買いしたんだけど途中であきちゃって、

 すっごい困ってたんだ。助かるよ」

「うん、ありがとね」


これから『私』の本当の目的である『彼女』のマンションの部屋へ向かうのだ。


「部屋まで運んであげるよ」

「介護の人のマンションなの。男を連れ込むのは無理。

 部屋まで持てるから平気だよ」


エレベーターを往復していた。

夜のマンションでは駐車場から中には入れて貰えなかった。


別れ際に足元を見ながら言った。


「真冬なのに靴は寒いよね。ブーツ欲しい?」

「欲しい。すぐ買いに行こう」

「だけどもう帰らないと。アマゾンで選んで良いよ。

 決まったらメールで教えて。送るから」

「ほんとに? すぐ選ぶね」


「じゃ、帰るね」

「私さん、また来てね」


手を振った。


『私』は久しぶりに『彼女』に逢ってハッキリと分かった。

『彼女』は危険だ。

警察署へ連行?

ありえない。

ここまでだ。

終わりにしよう。

身近に置いてはいけない人だ。


今回の目的である「氏名」「マンション名」「部屋番号」は手に入る。

これは保険だ。


違和感しかない。

『彼女』が言っていた色々とはなんだ?

なにを黙っているんだ。

解らない。

聞けない。

聞いても嘘が返ってくるだろう。

考えろ、事実を手に入れろ。

手に入れた事実から、嘘を考察するのだ。


『彼女』は『私』の事は名前さえ知らない。

チャットのハンドルネームで呼ばれる。

興味がないのだ。


「ネットショッピングがこんなに楽しいって思わなかった」

「一杯あって凄く迷うよ」


すごく喜んでいた。

ブーツと一緒にバッグを送った。

餞別だ。


マンションを検索する。

普通に買えるな。

関東に比べると安いかもしれない。

事実が足りなさすぎる。

ここから考察するのは無理だ。


今度は『私』から疎遠になろう。

静かに消えるのだ。

住んでいる所が、関東と中部。

都合がいい。


「ブーツと一緒に鞄も送ってくれたんだ。すごくうれしい。

 わたしが使ってる鞄見て選んでくれたんだよね。

 センスが良くて一目見て気にいっちゃった。

 旧い鞄の中すぐ新しい鞄に移したの。

 ブーツ履いて、新しい鞄持って出かけるのがすごい楽しみ。

 本当にありがとう」


ブーツと鞄を持っている写真が送られて来た。

アマゾンいつも通りいい仕事だ。


『彼女』は別れる時の『私』に何か感じたのかメールを送ってきた。


「他に食事に行った事がある人はいるけど、

 最後までしたのは、私さんしかいないの。

 わたしを信じて。

 私さんとだけだから、また会いたいな」


プライドが高い、潔癖症な『彼女』の事だ。

同時に複数とは関係しないだろう。

返事を出した。


「信じてるよ。また会いに行くね」


ここだけは信じてあげたい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ