005 介護 2005年 冬/中部
丁寧に座布団の下を拭き始める『彼女』
「お昼ごはんで誰が座ったか分からないしね。ちょっと、べたべたしてる」
『私』の所も拭いてくれた。
「ありがとう。綺麗好きなんだね」
「うふっ。そうなの」
彼氏が出てくるとか杞憂だったな。深読みしすぎてぐったりした。
『彼女』に何か感じるのか、他のお客は離れた所に案内されていた。
「あんまり食欲無いんだ」
断ってデザートだけ頼む。
「マンションに住んでるんだよね。家賃とか平気なの?」
「介護している人はお金持ちなんだ。
その人のマンションに住まわせて貰ってるから、家賃はただなの」
「そうなんだ。じゃないとアルバイトだけじゃ遣っていけないよね」
「そうなの。お金ほとんどないの」
やっぱり生活苦しいんだ。
逢いたがるわけだ。
「介護って大変だし偉いよね。それに親族とは言っても他人でしょ」
「車に引かれて死にそうだったの。最近は大分良くなったんだ。
だけど、ひどいんだよ。病院で障害1級の申請出したらダメだって」
話、間違えたか?
「すすっと書いてくれれば良いのに。本当にケチくさい」
書いてたら医療機関として問題あるよね?
「何回もお願いに行ったんだ。お金ないのに電車使って。本当にくやしい」
「医療は詳しくないけど。下の等級だったら通るんじゃない?」
睨んだの?
「下の等級から上げたいの」
いやいや良くなってきてるんだよね?
話おかしくない?
「それでね、この間警察呼ばれちゃって。警察署に連れて行かれちゃった」
「は?」
「私さんが申請手伝ってくれたらお金払っても良いよ。うふっ」
金には困ってないぞ。
仕事は大変だけど。
「介護している人の容体とか、事故の状況や保険金の支払いとか教えてくれる?
多分、介護している人に会う事になるよ」
「それは無理かな」
それは会わせられないだろう。
明らかな嘘がばれるだけに。
「諦めるしか無いよね。本当に残念」
話好きな『彼女』はずっと喋っていた。
アルバイト先の人間関係では。
「自分は優秀なのに、みんな評価してくれない」
「いっつも、損ばっかり」
「彼女」の独断が入った人物評価を聞かされる。
悪口だ。
『私』は、優秀か優秀でないかはどうでも良いと思って仕事はしている。
「金額に見合った成果」これが全てだ。
高い成果を求めるから、優秀な人材が必要なのだ。
そもそも『彼女』の職場選びが間違っている。
「会社の面接とか受けて、OLになるのはどうなの?
アルバイトは、時間給に見合った仕事してくれればいいだけだから。
それ以上やっても、他のアルバイトに嫌われるよ」
「えっ、そうなの?」
「余計な仕事を同じお金でやらされるんだよ。普通嫌がるよね」
「そっか、頑張る所が違ったんだ~。
だから、みんなと話が合わなかったんだ」
アルバイト仲間、説明ぐらいしとけよ。
プライド高いから、聞く耳もたないかもしれないけど。
これは続かないな。
「良い大学出てるんだからOL目指そうよ」
「そうだよね。アルバイトは自分には合わなかったのか~」
「OLやったことあるの。また、面接受けようかな。ありがとね。うふっ」
やっと普通の話だ。
『彼女』との会話はどこに飛ぶのか解らない。