004 それから 2005年 冬/関東/中部
『彼女』と連絡が取れなくなって、アダルトチャットは疎遠になった。
たまに覗くくらいでチャットまではしない。
そうして1年以上が過ぎて行った。
何気なくアダルトチャットを覗いたら、そこに『彼女』がいた。
童顔でセミロングの髪型、逢った時と変わらない。
「えっ、なぜ?」
『私』は、『彼女』が戻って来た理由が知りたくて堪らなくなった。
好奇心が抑えられない。
【好奇心は猫をも殺す】
『彼女』とチャットをはじめた。
「こんばんは。久しぶり」
「あっ。私さん。……突然いなくなってごめんなさい」
「覚えてくれてたんだ」
「あれだけ話したのに忘れないよ。あのこともあったし。
……いなくなった理由はね。
親戚が中部で事故にあって動けないから、わたしが介護する事になったの。
あの後、すぐに引っ越したんだ。
連絡しようか迷ったけど、出来なかったの」
「そうなんだ。振られたと思ってたけど正解だったんだね」
「ごめんなさい」
「もう済んだ事だからいいよ。でも、なぜ戻ってきたの?」
「……中部に引っ越してすぐ結婚したの」
「えっ、びっくりした。……気持は複雑だけど、おめでとう」
戻ってきた理由にしては、なにか不穏だな。
旦那がいるのに他の男とチャットしてていいのか?
許されているのか?
「ありがとう。人妻と話すのは、私さん平気?」
「ちょっと苦手かな。好きになっても好かれても困るし。
正直、関わりたくない。避けているよ」
「……そうなんだ。……正直に言うとね。子供産んだの」
「えっ、びっくりした。……おめでとう」
ますます不穏だ。
小さい子供がいるのに、面倒みなくてなにしてるんだ?
「ありがとう。それでね。……別れて今一人なの」
「……なんて言ったらいいのか。直ぐに出てこないよ」
「チャット戻るつもりなかったの。だけど嫌われたかな?」
「×1だったら、私は平気だから。全然大丈夫」
なにが大丈夫なんだ。
動揺しすぎだろう。
一人で生活しているのか?
お金が必要なんだな。
だから戻って来たんだ。
それから以前の様にチャットで話すようになった。
「突然いなくなったから、
以前チャットしてた人達から結構ひどい事言われるの」
「それは違うと思うけどね。人それぞれ事情があるんだし。
気にする事ないよ。あ~違うか。仕事だから我慢だね」
「文句だけ言ってすぐチャット切られちゃうから、我慢していること出来ないよ。
続けていく自信なくなっちゃった。優しいのは、私さんだけだよ。
ずっと私さんと話していたいよ」
しばらくすると『彼女』から言い出した。
「また、会いたいな」
「どうしようかな? 中部に住んでるんだよね。ちょっと遠いな」
「新しいメルアドと電話番号を教えるね。また会いたいの」
中部に行ってまで逢うのは何か違うと、迷いに迷う。
チャットで話していると『彼女』から頻繁に誘われた。
「これも人生」
ついに決断する。
3連休を使い、車で逢いに行く。
騙されてるかもしれないと思い、お腹が弱い『私』は激しい腹痛に襲われた。
体力の消耗が激しい。
中部のホテルにチェックインしてそのまま寝る。
明日は『彼女』と逢う。
待ち合わせ場所には2時間程遅れて『彼女』は来た。
「すごく疲れてそうだけど、大丈夫?」
「住んでるマンションと介護してる人の家、掃除してからでないと来れないから。
ちょっと介護の人で時間かかっちゃった」
「何回も連絡して貰ったから平気。行きたがってたお店はどこ?」
レストランとホテルが書いてあるメモを貰う。
ナビにセットして、まずは食事に。
14時くらいにお店に着くとテーブルは一杯だった。
店員に聞かれた。
「座敷でも宜しいですか?」
すかさず『彼女』は当たり前の様に言った。
「新しい座布団と、テーブルの下を拭く雑巾貸して貰えれば良いですよ」
潔癖症? に近いのかな。
店員への話方も威圧的だ。
初めてホテル以外で逢ったし新鮮な発見だ。
「私は、騙されていないか?」
何度も考える。
突然彼氏が出てくるかもと周りの人を伺った。
座敷に上がる時に、傷んだ靴を仕舞うのが見えた。
持っているバッグも寿命が来ていた。
「こんな格好でごめんなさい。もうずっと買ってないんだ」
寂しそうに言った。