035 溜息 2006年 秋/関東
すぐに電話が。
動けない。
目を閉じる。
留守電に切り替わる。
また電話が。
もう。
許そう。
『私』が壊れてしまいそうだ。
通話ボタンを押す。
「えっえっえっ。ごめんなさい。ごめんなさい。
えっえっえっ。ごめんなさい。見捨てないで」
「もう。……分かったから」
「あなたと結婚できる女じゃないの。えっえっえっ。
だけど。見捨てないで。見捨てないで。えっえっえっ」
悲しい気持ちがこみ上げる。
やりきれない。
こうやって、結婚したり別れたりするんだろうな。
だけど『彼女』の言っている事は解らない。
他に男がいるのであれば、そちらを頼ればいい。
「これからも、私とは結婚できないんだよね?」
「えっえっえっ。ごめんなさい」
「他の人と私が結婚したら、もう連絡は取れないよ」
「ええっ? 結婚するの? そんなの嫌だ~~~あ~んあんあん」
大泣きだ。
溜息がでる。
通院してるし不安定だ。
無理に結論を出すのはやめよう。
これ以上追い詰められない。
すこし落ち着くまで待とう。
「ひっく。……ひっく」
「……結婚はしないから」
「ひっく。……ほんと……に?」
「もう一度言うよ。私の言う事守れるなら、見捨てないよ」
「守れる?」
「言うこと聞くから。守るから。……ひっく。お願い。捨てないで」
「あなたしかいないの。……ひっく」
「まだ、お風呂に入ってないから、これから入るよ」
「え? ……お風呂?」
「うん。彼女も、もう一回入ろう。30分ぐらいしたら、私から電話するからね。
それから話そう」
「…………」
「一緒にお風呂に入ろうよ」
「……わかった。言うこと聞くね」
「慌てる事ないからね。電話はするから」
「わたしからしていい? ……お願い。不安なの」
「分かったから。一旦電話切るよ」
「電話するから出てね?」
「必ず出るよ」
『私』は『彼女』の好きにさせた。
『彼女』は『私』との繋がりを選んだ。
承諾したのは『私』
もう、気持ちは別れられないのか?
だけど、全ては受け入れられない。
そうだな。
気持を落ち着けよう。
一線は引かれた。
あとは知人として振舞おう。




