034 深夜 2006年 秋/関東
「あなたに聞きたいのは、警察署で言われた事なの。
もう、会社告訴出来ないのかな? すごく不安なの」
それは無いかな。
大丈夫でしょ。
それはそれ、これはこれだし。
「薬はちゃんと飲んでるの? 大丈夫かな?」
「飲んでるよ。大丈夫だよ。
でもいい機会だったから、最初から全部警察の人に話聞いて貰ったの」
警察も大変だ。
お疲れ様です。
「そしたらね。会社側から、威力業務妨害と名誉棄損で訴えるって。
被害届を出したいって言われてるって。
会社への告訴を取りやめたら、会社側も被害届を出すのはやめるって。
今日は帰っていいけど、どうするのか会社に連絡してほしいって」
ふ~~~ん。
「ちょっと考えるね」
普通現行犯逮捕だろ。
被害届を出す?
今日出さないで後日出す?
出す気なんてないだろ。
告訴されるのを有利に進めたいだけだな。
一緒に会社に行った『私』を舐めてるだろ。
『彼女』を抑えられなかった。イライラする。
「訴えられたらどうしよう。お金払えないよ。
告訴やめたほうがいいのかな? どう思う?」
「会社への告訴は続けたいの?」
「続けたいよ」
「これは私の考えだから、間違ってるかもしれないよ。それでも聞きたい?」
「聞きたい。あなただけが頼りなの」
「聞きにくいけど、答えてくれる?」
「なに?」
「前科はあるの?」
「ないよ!!!」
「良かった」
「会社を告訴するのは、別件だから訴えて良いよ」
「そうなの?」
「権利だから平気」
「えっ。本当に?」
「大丈夫」
「今日の威力業務妨害は、普通は現行犯逮捕のはずで拘留されてるよ」
「逮捕なの? 怖い」
気付いていないの? 『私』が怖いよ。
「前科が無いのも良かったかな」
「中部から関東へ来て、土曜日は会社へ連絡入れて行ったよね。
会社が会ってくれず、告訴状も受け取ってくれない。
その事があったから、今日は女性の当事者一人で会社に行ったよね」
「警察は事件性は低いって判断したと思うよ」
「良かった~。本当に頼りになるよ」
『私』が一緒にいたら、現行犯逮捕だったな。危なすぎるよ。
「あなたに相談して本当に良かった。ありがとう。
……安心したら涙がでてきちゃった」
だけど、『私』はすごく怒っているよ。
「土曜日に会う前に約束したよね。私の言うこと聞くって。
会社には断ってから入るって、何回も言ったよね。
もうこれ以上は手伝えない。好きにすればいい」
「えっ? 待っ」
電話を切った。




