032 目が離せない 2006年 秋/関東
普通に、中部へ帰ったと思っていた。
「電話の時に話そうかと思ったんだけど、これ以上迷惑かけられないと思って。
……えっえっ。一人で頑張ろうと思ったの。
会社の対応がひどいから、パワハラに遭った事を書いたビラ作ってたの」
ビラ?
最悪だ。
「……会社の近くで配ってないよね?」
だから警察署に居たのか?
あ~もう聞きたくない。
「会社フロアのエレベーター前で配ったの。
それで感想聞かせて貰えませんかって、ICレコーダー出したの」
そこまでしたのか?
血の気が引く。
一緒に行かないで良かったのか?
行ってたら間違いなく止めてたな。
嫌がったらどうするんだ?
引きずって帰る?
嫁でもないのに無理だ。
ずっと見ていないと何をするのか解らない。
目が離せない。
お手上げだ。
「聞いてるの?」
「社員飛び出して来て。……あ~~止めたんだよね」
「そうなの。直ぐに止めてくれって。会社が悪いのに聞いていられないよね」
いや、会社は正規の手続きで進めてくれって言ってるぞ。
それは唯の威力業務妨害だ。
「それで場所をちょっと移動して、ビルから出てくる人に配ったの。
すぐに会社の人に囲まれちゃって、止めて下さいって言われたの」
聞いてるだけで嫌な汗が出る。
「……そこで止めなかったんだよね」
「むこうが悪いのに止めるわけないじゃない」
一人だとここまで出来るのか。
「これから出てこれないかな? 不安なの。あなたと会うと安心できるの。
話を聞いてほしいの」
「えっ? 今から? 帰れなくなるけど一緒に泊っても良いの?」
「私」は女性か?
なにか情けないぞ。




