003 2度目 2003年 冬/関東
初めて逢った場所で待ち合わせた。
『私』は車の中で待っていた。
『彼女』は、すっと車に乗りこんで来た。
「ピンクのダウンジャケット、似合ってるね」
「ありがとう。だけど脱ぐね」
「うふっ」
笑って『私』を見る。
3万円を渡した。
「ありがとう。今日もごはん食べたいの。だけど私さん食べないんだよね?」
「コンビニに寄って、前と同じホテルへ行きたいな」
「あのホテル、すごく綺麗で良かったから」
「明日、やっと髪を切るんだ~」
楽しそうに話してる。
頷きながら聞いていた。
コンビニの駐車場へ車を置いて二人で店へ入った。
「あっ。チキン売り切れてる。残念」
「チキンって、今から揚げて貰えますか?」
『私』は店員に聞いた。
「いくつ揚げますか?」
「4個お願いします」
「私さん、そんなに食べるの?」
「持って帰れば良いよ」
「そっか。そうだね」
そして前回と同じホテルへ入った。
『私』はお茶を飲み、『彼女』は、
おにぎり、チキン、サラダ、デザートと色々食べていた。
「ずっとアルバイトしているの?」
「大学出てから会社に入ったの。一人暮らしを始めた時にね。
不動産屋で進められたマンションを借りてたんだ。
家賃が高くて払うの大変だったの」
見栄っ張りなのかな?
「会社の上司や同僚とトラブルがあったの。
人間関係が嫌になって一年ちょっとで辞めちゃった」
有名な会社に勤めていたんだ。
「それはもったいないね。大企業じゃない」
「そうなんだよね。マンションからアパートへ引っ越すのは悲しかった」
『私』は、興味を持った人の本質を知るためにある事を尋ねる。
「これまでで一番キレた事って、なにかある?」
最初に『私』の体験談を話す。
「スノボに行って車に戻ったら、ルーフにスキー板の跡が入っててキレた」
無反応。
車は興味無いみたい。
「修理に持って行ったら、25万も取られた」
「え? 私さんが払ったんだよね。許せないよね。警察行った?」
すごい喰いつき。
「白馬で、すぐに帰らないと行けなかったから泣き寝入り」
「駐車場の管理人からお金とれないのかな? わたしだったら払えない」
『彼女』は話はじめた。
「子供の頃に住んでたマンション。大人になったら貰えるとずっと思ってた」
住んでた所は『私』の通勤経路上だ。
すごく近い。
「両親、離婚してるんだ」
「えっ」
「母親に妹と一緒に連れられて、アパートに引っ越したのは辛かった。
社会人になった頃に父親が再婚したの。
しばらくして連れ子と一緒にマンションに住み始めたの」
「うん。うん? それで」
「連れ子にマンション取られちゃう」
「えっ?」
「それでね。昼間にマンションに行って、再婚相手と連れ子に出てけって言ったの」
そう、普通の人は理不尽な目にあってキレた事を話す。
当然『私』も誘導している。
しかし稀に普通では考えられない、キレてした事を話しだす人もいる。
「出て行ったの?」
「父親、警察関係の人なんだ。
お前のやった事は、ほぼ黒だ。2人への接近禁止にしてもいいんだぞって。
相手にされなかったの。マンションに住めなくて悲しかった」
「……だけど相続の時にマンションは、彼女にってなるかもしれないよ」
「……父親には絶縁されたんだ」
会社を辞めた後で、引っ越し先に困ってマンションへ行ったんだ。
普通出来るか?
変な行動力があるぞ。
気を取り直して事に及んだ。
『彼女』は今回も大騒ぎだった。
家の近くまで車で送る。
「あのさ、これからは普通に会ったりしない? 私と付き合ってほしいな」
「えっ。嬉しいかも。考えとくね」
別れ際に『私』は言った。
「いい返事待ってるね」
「分かった。メールするね」
それから数日待ってもメールは来なかった。
「どうしたのかな?」
メールを出した。
届かなかった。
そしてアダルトチャットの『彼女』の情報が消えていた。
退会したみたいだ。
『私』は、振られたんだと思った。