028 ケーキ 2006年 秋/関東
ハーブティが美味しいお店へ腕を組んで歩く。
『彼女』はずっと喋っている。
誰も話を聞いてくれなったのは本当みたいだね。
お店に入ってハーブティを頼む。
『彼女』はケーキも食べるらしい。
『私』は食欲は無い。
ケーキを食べ終わるのを無言で待つ。
「お昼食べなくて平気なの? 痩せてるんだから食べないと心配だよ。
ちょっと口を開けて」
何しに来たんだろう。
力が抜ける。
身を乗り出して口を開ける。
『彼女』に食べさせられる。
すごく恥ずかしい。
「うふっ」
『彼女』はすごく嬉しそうだ。
スーツ着てなにやってるんだ。
いつ泣くのか分からないだけに逆らえない。
我慢だ。
忍耐だ。
恥ずかしいのはいまさらだ。
『彼女』をじっと見つめる。
「なに?」
「可愛いなって思って」
『彼女』がちょっと睨む。
無言の時間が過ぎる。
『彼女』が話はじめるまでじっと見つめる。
「会社、先週辞めたのは言ったよね。
それで告訴状を会社に持って行きたいの」
「会社には連絡したの?」
「これからしようと思ってるの」
「勤務時間中は止めた方がいいね。
直接行くのも威力業務妨害で警察呼ばれるかも」
「いつがいいの?」
「会社の終業時間間際に連絡して、告訴状を渡したいって話して。
直ぐに渡せる所に居るから、責任者に面会したいって許可を貰って。
会社は大騒ぎになると思うから、2時間くらいは待たされるかな?
その後で、責任者不在で後日となるかな?」
「えっ、会ってもらえないの?」
「多分無理。告訴状も受け取って貰えないと思う。
内容証明郵便だっけ? それで送った方がいいね」
「なぜ? なぜ? ずるいよそんなの」
泣き出しそう。ちょっと待って。
「薬、ちゃんと飲んでる? 落ち着いて」
手を握った。
じっと『彼女』を見つめる。
「中部から出て来ているんだよね。
お金が続かない事を会社は知っているよ。
社員に動揺を与えたくないから、関東から居なくなるのを待つよ」
『私』の手をぎゅっと握る。
「どうすればいいの?」
「会社を告訴するって伝えに行くのはいいと思うよ。
だけど、内容証明郵便と変わらないとも思う。
会社に伝えに行くか、止めるかは彼女が決める事だよ」
「……会社に一緒に行こう。そのために此処に居るから」
「……分かった」
テーブルの上で手を繋いでいるのが恥ずかしい。
でも離してくれない。
覚悟は決めた。
「これから、私との関係はどうしたいの?」
『彼女』に選ばせよう。
もうそんな仲だ。
『彼女』は手を離した。
それが答えか?
すこし笑った。
会社と『私』
『彼女』にとってはどちらも無価値だ。
一緒にいるのが嫌になった。
席を立とう。
「帰らないで!」
声が大きい。
『彼女』は正面から横に座った。
腕を強く掴まれ、額を腕につけられた。
動けない。
怒り?
悲しいだけだ。
『彼女』は、子供の頃からの思い出をささやく様に話し始めた。
話を聞いてもらえない理由が分からなくて意地悪したこと。
友達が出来ない理由が分からなくて落ち込んだこと。
好きになっても嫌われて泣いたこと。
『彼女』の懺悔か?
ずっと聴いていた。
「一緒に行くよ」
ここからは『彼女』のためでは無い。
『私』のために罪を償う。




