表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

028 ケーキ 2006年 秋/関東

ハーブティが美味しいお店へ腕を組んで歩く。

『彼女』はずっと喋っている。

誰も話を聞いてくれなったのは本当みたいだね。


お店に入ってハーブティを頼む。

『彼女』はケーキも食べるらしい。

『私』は食欲は無い。


ケーキを食べ終わるのを無言で待つ。


「お昼食べなくて平気なの? 痩せてるんだから食べないと心配だよ。 

 ちょっと口を開けて」


何しに来たんだろう。

力が抜ける。

身を乗り出して口を開ける。


『彼女』に食べさせられる。


すごく恥ずかしい。


「うふっ」


『彼女』はすごく嬉しそうだ。


スーツ着てなにやってるんだ。

いつ泣くのか分からないだけに逆らえない。

我慢だ。

忍耐だ。



恥ずかしいのはいまさらだ。


『彼女』をじっと見つめる。


「なに?」

「可愛いなって思って」


『彼女』がちょっと睨む。


無言の時間が過ぎる。

『彼女』が話はじめるまでじっと見つめる。


「会社、先週辞めたのは言ったよね。

 それで告訴状を会社に持って行きたいの」


「会社には連絡したの?」


「これからしようと思ってるの」


「勤務時間中は止めた方がいいね。

 直接行くのも威力業務妨害で警察呼ばれるかも」


「いつがいいの?」


「会社の終業時間間際に連絡して、告訴状を渡したいって話して。

 直ぐに渡せる所に居るから、責任者に面会したいって許可を貰って。

 会社は大騒ぎになると思うから、2時間くらいは待たされるかな?

 その後で、責任者不在で後日となるかな?」


「えっ、会ってもらえないの?」


「多分無理。告訴状も受け取って貰えないと思う。

 内容証明郵便だっけ? それで送った方がいいね」


「なぜ? なぜ? ずるいよそんなの」


泣き出しそう。ちょっと待って。


「薬、ちゃんと飲んでる? 落ち着いて」


手を握った。

じっと『彼女』を見つめる。


「中部から出て来ているんだよね。

 お金が続かない事を会社は知っているよ。

 社員に動揺を与えたくないから、関東から居なくなるのを待つよ」


『私』の手をぎゅっと握る。


「どうすればいいの?」


「会社を告訴するって伝えに行くのはいいと思うよ。

 だけど、内容証明郵便と変わらないとも思う。

 会社に伝えに行くか、止めるかは彼女が決める事だよ」


「……会社に一緒に行こう。そのために此処に居るから」


「……分かった」


テーブルの上で手を繋いでいるのが恥ずかしい。

でも離してくれない。



覚悟は決めた。



「これから、私との関係はどうしたいの?」


『彼女』に選ばせよう。

もうそんな仲だ。



『彼女』は手を離した。



それが答えか?


すこし笑った。


会社と『私』

『彼女』にとってはどちらも無価値だ。


一緒にいるのが嫌になった。


席を立とう。



「帰らないで!」



声が大きい。

『彼女』は正面から横に座った。

腕を強く掴まれ、額を腕につけられた。

動けない。


怒り?

悲しいだけだ。


『彼女』は、子供の頃からの思い出をささやく様に話し始めた。


話を聞いてもらえない理由が分からなくて意地悪したこと。

友達が出来ない理由が分からなくて落ち込んだこと。

好きになっても嫌われて泣いたこと。


『彼女』の懺悔か?


ずっと聴いていた。



「一緒に行くよ」



ここからは『彼女』のためでは無い。


『私』のために罪を償う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ