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027 喫茶店 2006年 秋/関東

気は進まないが会社へ乗り込む。

見た目が全てだ。


特別な気持を自覚するために、セミオーダースーツは

夏用、冬用一着ずつ作っている。

それを着て行こう。


最近、靴とネクタイ買ってないな。

途中で買おう。


乗り換え駅のブランドショップで、

4万くらいの靴と2万くらいのネクタイを買う。

その場で靴は変え、ノーネクタイで居たのを新しく締める。


「急用で必要になったんです。

 旧い靴は持っていけませんので、

 申し訳ないですがお店で処分して頂けませんか?」


年配の店員さんは凄い笑顔で、声を掛けられた。


「かしこまりました。頑張って下さい」


「ありがとうございます」


一礼した。

プロポーズか彼女の両親に会うと思われたのか?

心が痛い。

精神が削られる。



『彼女』からメールが来ている。

あわてて返事をする。


「もうすぐ着くから待ってて」


すぐに返事が来た。


「返事がなかったから不安だったの」


続けて来た。


「待ってるね」



駅に着いた。

すぐに『彼女』へ電話した。


「着いたよ。お店はどこかな?」


説明を聞いて喫茶店を見つける。

土曜日だからか混んでるな。

店内を見回す。

なんだろう?

見られてるよ。


奥の席から手を挙げて『彼女』は急いで来る。

『私』は、手を振りながら近づく。

泣き出しそう。


「来てくれてありがとう」

「約束だから来たよ」


『彼女』は背が低く『私』の肩くらいまでしかない。

一緒に席に戻る。


メニューはどこだろう?


「お店を出たいの」

「え? 急いで来たから何か飲みたいよ?」


「泣きながらメールしてたから、

 ウエイトレスさんに「大丈夫ですか?」って声かけられたの」


「ええっ?」


「もうすぐ来てくれるから平気ですって答えたの」


出たい。

すぐ出よう。

たまったもんじゃない。


伝票を掴んでレジへ急ぐ。

失敗した。『彼女』はあわててついて来てる。


お金を払う列に並ぶ。

『彼女』が、ぎゅっと腕につかまる。

ちらっと見ると『彼女』はじっと見ている。

『私』は大丈夫と頷く。

安心したのか、はにかんで笑った。


そっと周りを見る。

ウエイトレスや店員、他のお客、特に女性の視線が刺さる。

どうなるのか知りたいギャラリーが沢山いる。

ほんと勘弁して。

もう許して。

お腹が痛い。

この店、二度と来れない。


あんなに敵意のこもった女性の視線は初めてだ。

言葉として伝わってくる。

『私』は無実だと訴えたい。


一緒に歩く。


『彼女』はつかまっていた腕を組んできた。


「ハーブティーが美味しいお店知ってるんだ。あなたを連れて行きたいの」

「いつもお任せだね」


歩きながら『彼女』は胸元を広げた。


「あなたが選んでくれたネックレス大事にしてるんだ。

 つけてるの見てほしいの」

「似合ってるね」

「ありがとう。すごくうれしい」

「だけど、奥まで見えてるよ」

「…………」


なぜか胸を腕に押し付けてきた。

ほとんど服で分からないけどね。


「この鞄もお気に入りでいつも使ってるんだ。買ってくれてありがとね」


「凄く格好いいよ。出来るサラリーマンって感じだね」


「会社に連れて行ったらみんな驚くと思うよ」



楽しそうだね。

ずっと喋ってる。

一人で不安だったんだ。



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