023 相談 2006年 秋/関東
『彼女』が落ち着いてからは、思い出したくないだろうとそっとしていた。
仕事は忙しいが平穏な日常が戻ってきた。
1ヵ月ほど過ぎて『彼女』からメールが来た。
会社辞めたのかな?
「関東に戻って来てるの。困ってるから相談に乗ってほしいの」
戻って来たんだ。
良くなっているといいな。
返事を出した。
「何に困ってるの?」
返事が来た。
「会社辞めたら会社と上司と同僚をパワハラで訴えるんだ。
刑事と民事裁判準備してるの」
なんだこれは?
「…………」
なにを考えているんだ?
理解できない。
心療内科に通っているよね。
すごく泣いていたよね。
そもそも、会社に入って半年くらいだよね。
勝てないでしょ。
時間とお金の無駄だよね。
えっと、ちょっと待って。
返事思いつかないぞ。
「それでね。パワハラの状況説明上手く書けないんだ。見てほしいの」
続けて送って来てるし。
どうする?
また近所の子供になにかすると困るし、最初だけ手伝うか?
そのやる気を、別の会社への就活へ充ててほしいな。
そっちに上手く誘導出来ないかな?
お金がないから訴えるのか?
会社からいくらか貰えないか?
なにかないか?
メールじゃ話にならない。
くそっ。
階段へ移動した。
『彼女』へ電話した。
「もしもし」
「電話かけてくれたんだ。ありがとう」
「今話しても平気?」
「仕事しなくても良いって言われてるから平気だよ。
ちょっと移動するね。待ってて」
「手早く話すよ。
会社って中部と関東を介護のために往復している事知ってるの?」
「知らないと思うよ。なぜ?」
「身内の介護があるから中部勤務希望したんだよね?
それがあるから関東ではシェアハウス借りているんだよね?」
「そうだけど」
「入社時に中部勤務を希望した理由をもう一度会社に説明して、
中部に帰ってた時の旅費を請求してみたら?
それと関東の家賃は会社でいくらか負担して貰えると思うよ」
「旅費と家賃は、会社に言ってみるね」
「だめだったら、会社を紹介してくれた所とか、
労働基準監督署へ相談すると言ってみて」
「分かった」
「あとさパワハラで訴えるって言っても、状況が解らないから手伝えないよ。
それより会社との示談を考えた方が良いよ。1ヵ月分多く貰うとか」
「示談はしたくないんだ。会社には1200万くらい請求する予定だし」
「……そうなんだ」
「電話ありがとね」
裁判するには額面が必要だけど。
それにしても、半年勤めてないのにこの金額ですか。
普通勝てないでしょ。
なぜ、理解できないのかな?
周りの人は、やめるように忠告しなかったのかな?
嘘つき呼ばわりするくらいだから、相手にしていないのか。
「彼女」は納得するまで突き進みそうだ。
あ~考えがまとまらないぞ。
『私』は『彼女』と、どうなりたいんだ?
前と同じ関係に戻りたいのか?
今更それは無いな。
だけど、たまにあの時の子供を思い出す。
消してしまった命。
嫌っていても強く求められたら拒絶出来ない。
『彼女』への罪を償いたいんだ。
溜息が出た。




