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021 失意 2006年 夏/関東/中部

『彼女』からのふざけた電話から2週間程が過ぎた。

仕事は忙しいが『私』は平穏に暮らしていた。


仕事中にメールが来た。

『彼女』のメルアドだ。

名前と誕生日@で覚えやすい。

メルアド消した意味ないな。

なんだろう?

つまらない内容だと返事はやめよう。


「わたしの言動がおかしいからって会社から1ヵ月間休む様に言われたの。

 今は中部に帰って心療内科に通っているの。

 うつ病で不安で不安でしかたがないの。

 マンションの外で子供が騒いでるのが我慢できないの。

 突き飛ばしたり殴ったり黙らせたいの。

 もう我慢できないの」


なんだこれは?


「…………」


まずいまずいまずい。

これは駄目だ。

止めないと。


『私』をあんなに強く噛めるんだ。

『彼女』ならやりかねない。


席を外すときに同僚に言った。

「急用で電話してくる。ちょっと時間かかるかも」

びっくりした顔の同僚。


急いで階段に出る。

すぐに電話した。

すぐ繋がった。


「もしもし! 落ち着いて! 絶対ダメだからね! 子供のことは忘れて!

 心療内科に今日行ってほしい。先生に話聞いて貰って!

 いいね! 分かった?」


捲し立てた。


「電話ありがとう。

 あなただけだよ。

 心配してくれるのは。

 大丈夫。

 まだ何もしてないよ」


良かった。

間に合った。


「……あんまり思い詰めたらダメだよ。

 もっと悪くなるからね。

 嫌なことは考えないで。

 会社の話聞いてあげれなくてごめんね。

 本当にごめんね」


「あなたはいつも優しいね。

 そんなに優しくされたら涙がとまらないよ。

 えっえっ。

 子供、好きじゃないの」


しばらく泣いていた。


「会社の事どうしたい?

 まだ入って3ヵ月くらいだよね。

 辞める、続ける、ゆっくり考えると良いよ」


「分かった。あなたに嫌われてるけど、また電話していい?」


「いいよ」


これはしかたがない。

知らない子供とはいえ何かあってからでは遅い。

一生後悔する。

こんな『彼女』は初めてだ。

心配だな。


「そうだ、チョコ食べる? 今日家に帰ったらアマゾンで送るから待ってて」

「ありがとう。

 すごく楽しみ。

 元気出てきたかも」


「辛かったら電話して。だけど電話は夜がいいかな。昼間は仕事してるしね」


「分かった。ほんとに電話してもいいんだよね? 涙がとまらないよ。えっえっ」


次の日、チョコ1kg詰め合わせとロールケーキの写真が送られて来た。

さすがプライム。

速いな。

今回も良い仕事だ。


夜に電話で話した。


「すっごいチョコ一杯だし、フルーツのロールケーキおいしそう。ありがとね。

 ロールケーキ今日全部食べちゃう」


「え? 一本丸ごとは引くかな」


「あはは、そうだよね。うれしくて泣いちゃう。えっえっ」


かなり不安定だ。

心配でたまらない。



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