020 突然の電話 2006年 初夏/関東
『彼女』のことを忘れる事に決めて1ヵ月が過ぎていった。
相変わらず仕事は忙しかったが、他の女性と食事や飲みに行くようになった。
仕事中に着信をバイブが知らせてきた。
誰だろう?
名前出ていないけどいいか。
「もしもし」
「仕事中にごめんなさい。良かった。出てくれて。わたしです」
『彼女』だ。
油断してた。
「ちょっと待って」
席を外し階段まで出る。
「どうしたの? なにかあったの?」
「もう耐えられないよ。どうにかなりそう。
会社でパワハラとイジメにあっててすごく辛いの」
「えっと、仕事中じゃないの? 電話してても平気なの?」
「体調悪いって早退しちゃった」
「じゃあさ今日ごはん食べに行こう。そこで話聞いてあげるよ」
「ごはんより、明日から休みだよね。あなたと一緒にクアハウスに行きたいの」
「……クアハウス? 温泉みたいなとこなのかな? 分からないけど」
「そんな感じだよ。ちょっと遠いけど」
「泊りで行くの? ……同じ部屋でもいいの?」
「…………うん。いいよ」
「ちょっと考えさせて」
これは『私』だけが泊まるやつだな。
思わせぶりな態度は一番嫌いだ。
一緒に泊まる気もないくせに。
あれだけ体を重ねて来たのに騙せると思っているのか?
『彼女』なら『私』に、したいとハッキリ言うはずだ。
こういう扱いをするのか。
『彼女』は泊まらずに急用が出来たと帰るだろう。
やっていられない。
他の男とでも行けばいい。
「……急に宿泊予約できないんじゃない?」
「すぐ聞くね。また電話するね。うふっ」
おいおい本気か。
席に戻りかけたらすぐに電話が。
「泊まれるって。行こうよ。行こうよ」
「うん、分かったよ。ホテルでしてからクアハウスへ行こう」
「え~~……もういいや」
切られた。
普通切るか?
ま~言ってる事ひどいし切られるか。
初めて断ることに成功した。
結果オーライだ。
『彼女』の事はどうでも良くなった。
気分よく仕事に戻った。
その日の夜になって『彼女』の電話番号だけは名前を復活させた。
今さら『私』の電話番号メルアドは変えられない。
気楽に知らない番号の着信出れなくなるとこだった。




