019 食事 2006年 春/関東
返事が来た後『彼女』のことを気にしながら日々を過ごしていた。
そしてメールが来た。
「関東に会社員の知合いがほとんどいないの。
会社での人間関係がうまくいっていなくて相談に乗ってほしいの。
また会えないかな?」
人付き合いが苦手だし、孤立しているのかな?
それより、子供のことが気になる。
子供がいれば妊娠8ヵ月くらいだ。
入社した直後だしあり得ない。
しかし直接会って確かめたい。
それに『彼女』の体調も気になる。
「いつにする?」
「今週末に会おうよ。行きたいレストランがあるの」
相変わらずだ。
『彼女』の会社の最寄り駅で食事する事になった。
『彼女』が予約したレストランで待ち合わせた。
時間より遅れ『彼女』は来た。
セミロングの髪でいつも通りのスカートだった。
「今日は会ってくれて、ありがとね」
妊娠中ではなかった。
顔色も良く元気そうだ。
やせた感じもしない。
「元気そうで本当に良かった。安心したよ」
「あなたも変わらないね」
「関東に来たのをメールで見てびっくりしたよ」
「中部で働きたかったけど関東への配属に突然決まったんだ。
関東に来るの周りから反対されたの。
介護のこともあるし、知合いもほとんどいないしね」
「そうなんだ」
「だけどね。やっと採用されたの。しがみつかないと」
「……あれから、あなたのことを時々思い出したりしてたの。
一人で関東に来たら、声聞きたいな、会いたいなって思ってたんだ。
メールが来た時すごく嬉しかったの。
優しいあなたを思い出してたら、知らないうちに返事出しちゃったの」
「迷惑かなって思っていたんだ。……そんな風に言われるとうれしいよ」
それからは職場の人の悪口をじっと我慢して聞いていた。
相談じゃなくて、愚痴が言いたかったんだね。
「中途の正社員だから、2年くらいは我慢しないとダメだよ」
「我慢できるか自信ないな。その時は相談にのってね」
「それくらいならいいよ。どこに住んでるの?」
「シェアハウスで間借りしてるんだ。息がつまりそうなの」
ちょっと想像できないな。
「2週間に1度は中部に帰ってるの。お金が大変なの」
「関東に引っ越せばいいんじゃない?」
「中部に戻りたいし、介護の人の家掃除することになってるの」
「なにかと大変だね。頑張ってるね」
レストランを出てからお金が必要かと思って聞いた。
多分断るだろう。
「いつもみたいにする?」
「ずっとあなたとだけだったから、また関係をもつのは怖いの。
それに、あれからしなくても平気だし、そういう気持ちになれないの。
それより、またごはん食べに行こうよ」
「そうだね」
『彼女』を見送った。
気が強く話好きな、いつもの『彼女』だ。
安心と共に力が抜けた。
もしかしてと思っていた子供もいない。
これで『彼女』とは完全に終わった。
これから連絡を取ろうとは思わない。
『彼女』の電話番号とメルアドをその場で削除した。
「さよなら」
駅へ向かった。