017 親子 2005年 秋/中部
「お金は渡すけど誓約書は書いてほしい」
「分かった。便箋でもいいかな?」
「いいよ」
「コンビニで買ってくる。帰らないでね」
「帰ると思う?」
「そうだね。行ってくる」
子供連れの母親はこちらを気にしているようだ。
2歳くらいの子供を見る。
溜息がでた。
『彼女』が戻ってきた。
誓約書を書いてハンコを押している。
「これでいいかな?」
文面を読む。
「金銭の追加請求はしないと書いて。
それと、処置した日に、私に連絡すると書いて」
「分かった」
出逢ってから3年くらい経つのか。
色々振り回されたな。
書いている『彼女』の顔をじっと見る。
もう見ることはないだろう。
喫茶店を出て銀行へ一緒に歩いた。
「喫茶店にいた母親、聞き耳たててたよね。
どう思われてたのかな?
すごく嫌だったの」
「あまり気にはならなかったけど」
「そうなの?」
子供が気になっていたけどね。
公園があったので二人で入った。
誰もいないな。
『彼女』にお金を渡し誓約書を受取った。
「こんなことになるとは思わなかったの。
病院で終わったらメールするね。
関東でも元気で。
さよなら」
「体に気をつけて。
さようなら」
帰るのをずっと見ていた。
子供のことは実感がない。
悲しくならない。
罪悪感があるだけだ。
公園を後にした。
週末の雨の中、自問自答しながら車で関東に帰った。
明日は誕生日か。
最悪の気分だな。
十日ほどすぎ『彼女』からメールが来た。
「今日すませました。体調は悪くありません。
あなたは心配して電話やメールしたいと思うけど、もう連絡しな」
メールを削除した。




