015 説得 2005年 秋/中部
家で産婦人科を検索した。
女性の先生がいいかな。
口コミも読もう。
『彼女』と『子供』の事を考える。
過去の結婚と子供のことは聞けなかった。
何があったんだろう?
あんなに産むのを嫌がるなんて。
可哀そうな事をしてしまった。
避妊はしていたんだけどな。
あんなに激しく求められたらどうしようもない。
『彼女』は『私』に何を求めていたんだろう。
お金?
快楽?
孤独だったのかな?
やりきれない。
産婦人科の名前と場所をメールで送った。
『彼女』から、時間と産婦人科の前で待ち合わせの返事が来た。
「産んでほしい」
メールが出せない。
ここまでショックだとお腹は痛くならないのか。
体に力が入らない。
月曜日に会社を休み、待ち合わせ場所に行った。
『彼女』を説得できないか考えよう。
無理だ。
離婚して子供を父親に渡しているのだ。
諦めよう。
体が冷たくなった。
待ち合わせ時間になると、すぐ近くから『彼女』が現れた。
隠れていたのか?
「予約してくるからここで待ってて」
産婦人科の外で待たされる。
なんだこの扱いは。
『私』だけが悪いのか?
そうだったな。
これが『彼女』だ。
外で待っていると『彼女』が呼びに来て診察室へ連れていかれた。
よく分からないがエコーの画像を見せられた。
女医から言われた。
「2ヵ月ですね」
「産まないからね」
すぐに『彼女』は言った。
『私』は絶望した。
『彼女』から、これからの事を話したいと喫茶店に誘われた。
ガラガラだ。
2歳くらいの子供を連れた母親しかいなかった。
先払いのためカウンターで注文した。
「さっきの女医さん、わたしのこと笑ったの。あそこは絶対にいや」
「笑われたのは、私だよ」
絶望した顔はそんなに見れないだろう。
「病院は、わたしが探すから」
「分かった」
「それと病院は全部わたし一人で行くから着いて来ないで。もう会いたくないの」
「…………それでいいの?」
「それと」
「あなたに言う事があるの。
病院の費用と慰謝料で100万円払ってほしいの」