小説家になろうに独学者現る!
またまた小説を書かせてもらいました。今回も18000位の文字数で、皆さんの貴重なお時間を取らせないように書きました。読んでちょんまげ!
第一章 独学者現る!
ある日の午後5時頃、一人の老人らしき男が、佐世保市の某大学の最寄りの駅前でウロウロしていた。その老人らしき男は、不審な様子であった。スマホを片手に何かを呟き、はや走りしだしたと思ったら、止まり、方向を変え、またグルグルと歩き始めたりした。老人らしき男は、しばらくして三人組の大学生らしき若人を呼び止めこう尋ねた。
「お前達の大学の理事長の家はどこだ?」
三人組の若人達は、老人らしき男を凝視しながら、こう答えた。
「知りません…。」
三人組の若人達は、そそくさと去って行った。それからも老人らしき男は、大学生らしき若人に手あたり次第に同じ質問を繰り返した。
「お前達の大学の理事長の家はどこだ?」
30人くらい同じ質問をしたが、皆答えは一緒だった。
「知りません…。」
老人らしき男は、その日は諦めたらしく駅から去って行った。
次の日の午前10時頃、昨日と同じ老人らしき男が、佐世保市の某大学正門の前に現れた。老人らしき男は、昨日は持っていなかった杖を突いている。そして、ゆっくりと正門から大学のキャンパスに入って行こうとした。正門の前に立っていた警備員は、すぐに老人らしき男に気付きこう言った。
「おはようございます!」
老人らしき男は、杖を突きながら警備員に近づきこう言った。
「おう!ちゃんと仕事しろよ!」
警備員は、老人らしき男をまざまざと観察して怪しいと感じながら、こう尋ねた。
「失礼ですが…。どちら様ですか?」
老人らしき男は、答えた。
「私は、独学者だ!」
警備員は、驚き言った。
「独学者?」
警備員は、少し間を置き老人らしき男に尋ねた。
「その独学者様が、我が大学に何の用ですか?」
老人らしき男は、答えた。
「決まっとるだろ!学生達に教育を施すためだ!」
警備員は、言った。
「チョット待ってくださいね!」
警備員は、携帯電話をポケットから取り出し誰かと話始めた。老人らしき男には、警備員の言葉だけが聞こえる。警備員の言葉は以下の通りだった。
「今日、来賓の方の名前を教えてもらえますか?」
「ああ!田淵教授!多田准教授!ですね!それ以外の来賓はいませんね!」
「はい!いませんね!分かりました!」
警備員は、携帯電話を切ると、老人らしき男に尋ねた。
「お待たせしました。田淵教授ですか?」
老人らしき男は、首を横に振って答えた。
「違う!」
警備員は、また尋ねた。
「あ!失礼しました!それでは、多田准教授ですね!」
老人らしき男は、また首を振って答えた。
「違う!私は独学者だ!教授や准教授等の肩書は持たぬ!何度も言わせるな!この馬鹿たれが!」
警備員は、少し呆気にとられた。そして、少し間を置いて、老人らしき男に尋ねた。
「あなたは、学生達に教育を施すために来たと言われましたが…。アポは取りましたか?アポなしでは講義、講演等はできませんが…。」
老人らしき男は、答えた。
「何?分かった!理事長に合わせろ!今からアポを取る!」
今度は、警備員は即答した。
「それは無理です!理事長は多忙ですから!帰ってください!」
老人らしき男は、警備員を睨んだ。そして、杖を投げ捨て、早歩きで大学のキャンパスに入ろうとした。警備員は、素早く老人らしき男の後を追いかけ捕まえると、老人らしき男を大学のキャンパスから追い出した。追い出された老人らしき男は、しばらく警備員と睨み合いをし、こう言った。
「この馬鹿たれが!お前は、私の独学で得た知識を表現する機会を奪った!お前は、学生が私から多くを学ぶ機会を奪った!」
警備員は、少しも動じることなく直立不動で、老人らしき男を睨んでいる。老人らしき男は、小さくつぶやいた。
「馬鹿たれが…。」
それから老人らしき男は、大学の正門から去って行った。
次の日の午前11時半頃、老人らしき男は、大学の最寄りのコンビニに現れた。老人らしき男は、そのコンビニでタバコを買うと、外に置かれている灰皿のそばに移動した。そこで、タバコを吸いながら、学生を待ち伏せし、理事長の住所、電話番号等を聞き出そうと思っていたのである。
正午過ぎ、学生たちがコンビニにたくさん集まって来た。そこで老人らしき男は、学生達に聞き込みを始めた。老人らしき男は、40~50人の学生達に聞き込みをした。そして、理事長は、佐世保市の大和町に住んでいるという情報を得た。電話番号については全く分からなかった。老人らしき男は、スマホで大学のホームページを開き、理事長の名前を調べメモした。理事長の名前は、末次次郎だった。老人らしき男は、それ以上の情報は収集できないと思って、コンビニを去って行った。
次の日の午前9時頃、老人らしき男は、佐世保市の大和町に現れた。それから老人らしき男は、一軒一軒表札を見て回った。しかし、老人らしき男は、なかなか末次という表札を掲げている家を見つける事は出来なかった。老人らしき男が途方にくれていた時、バサバサという音がした。老人らしき男の背後にあった家の主婦が、洗濯物を干す前に衣服やタオルを振って伸ばしていたのである。老人らしき男は、佐世保市大和町は小さく人口も少ない、大学の理事長のような社会的地位の高い者は、地方の名士として地元の人々に良く知られているはずだと思った。そして、老人らしき男は、その主婦に少し大きな声で言った。
「おはよう!」
その主婦は、老人らしき男に気付き、挨拶を返した。
「あ!おはようございます!」
老人らしき男は、その主婦に世間話を吹っ掛けた。そして、老人らしき男は、その主婦の警戒心をほぐさせようと努めた。老人らしき男は、その主婦の表情から今だと思う瞬間を少し待った。そして、その時が来た。老人らしき男は、その主婦に尋ねた。
「ところで、大学の理事長の家はどこだ?」
その主婦は、答えた。
「この道を200m程まっすぐ行くとカーブミラーがあります。そのカーブミラーを右に曲がって3件目の家ですよ!」
老人らしき男は、大いに喜び、その主婦に言った。
「ありがとう!」
老人らしき男が歩き始めると、その主婦は手を小さく振った。老人らしき男は、その主婦に大きく手を振りながら、教えられた道をまっすぐに歩いて行った。老人らしき男は、目的地の家の門に着くと、先ず門に掲げてある表札を確認した。その表札には、末次と書いてあった。老人らしき男は、呟いた。
「良し!」
老人らしき男は、門を開けて家の敷地に入った。そして、老人らしき男は、玄関の前に立ってチャイムを鳴らした。すると、家の中から女性の声が聞こえた。
「はい!チョット待ってくださいね!」
しばらくすると、50代位の女性が出てきた。老人らしき男は、その50歳位の女性に挨拶し、尋ねた。
「おはよう!末次理事長のお宅かな?」
年配の女性は、老人らしき男に答えた。
「はい!おはようございます!私は、末次の家内で道子と申しますが…。」
老人らしき男は、また末次道子さんに尋ねた。
「末次理事長は、居るか?」
末次道子さんは、老人らしき男の目を見ながら答えた。
「ご存知の様に、主人は大学の理事長を任されており、この時間帯は大学で仕事をしています。」
老人らしき男は、更に末次道子さんに尋ねた。
「何時に帰って来るのか?」
末次道子さんは、老人らしき男をジロジロ観察しながら答えた。
「普段ですと、午後6時頃に帰ってきますが…。」
老人らしき男は、カバンからA4サイズくらいの封筒を出し、末次道子さんに渡した。末次道子さんは、老人らしき男に尋ねた。
「これは何ですか?」
老人らしき男は、末次道子さんに答えた。
「読めば分かる!理事長に渡してくれ!」
それだけ答えると、老人らしき男は、末次家を去って行った。
第二章 末次家でのやりとり
老人らしき男が、末次家を訪れた日の午後6:10頃、末次次郎は、大学から自宅に帰って来た。末次次郎は、大きな声で妻、道子に言った。
「道子!ただいま!」
道子は、末次次郎に背を向けたまま言った。
「あなた!お帰りなさい!」
末次次郎氏は、スーツの上着を脱ぎ道子に渡そうとした。しかし、道子は熱心に何かを読んでいる。次郎は、道子に言った。
「何だ?何を読んでいる?」
道子は、振り返り次郎に言った。
「あ!あなた!これを読んで!」
道子は、老人らしき男から次郎に渡してくれと頼まれた封筒とその中身の書類を末次次郎に渡した。末次次郎は、スーツの上着を右手で道子に渡し、左手で封筒と書類を受け取った。次郎は、ソファーに座って、先ず封筒の表面を見た。末次家の住所、郵便番号は書かれていない。中央に『末次次郎』と書いてあるだけであった。末次次郎は、敬称無しとは失礼な奴だなと思った。末次次郎は、その失礼な奴の名前はと思いながら、封筒をひっくり返して裏面を見た。そこには、『独学者』とだけ書いてあった。
次郎は、封筒を指さしながら、道子に尋ねた。
「何?これは?独学者とは、一体どこの誰だ?」
道子は、末次次郎に答えた。
「今日の午前10時頃、変な人が現れたのよ!変な人なのよ!老人を装っていたのよ!あの人はメイクして、皺や、黒ずみを作り、そして、白髪のカツラをかぶり、白い付け髭をしていたの!」
末次次郎は、道子に尋ねた。
「何?男装や女装じゃなく、老人を装っていたのか?何でそんな奴からこんなの貰うのだよ!俺は、こんなの読まないぞ!」
道子は、末次次郎に答えた。
「何となく、断れなかったのよ!そして、私は、読みましたよ!」
末次次郎は、小声で独り言を呟いた。
「訳の分からない不審者からの書類を読むなんて…。」
道子は、末次次郎の独り言を聞いて言った。
「結構面白かったわよ!」
道子のその言葉を聞いて、次郎は渋々書類を読み始めた。
『独学者より、未熟な末次次郎へ!』
【独学者の存在論1】
先ず、お前は7つの存在を知らなければならない。それは、無存在、意識存在、意思存在、意術存在、現実存在、高存在、低存在である。以下にその存在についての説明を記す。
①無存在とは何か?
無存在は万物の起源である。
無存在は、この宇宙に姿を持たない。
②意識存在とは何か?
意識存在とは、無存在から生まれた存在である。
意識存在は、自由に自己と他者を分離し認識した。
意識存在は、この宇宙に姿を持たない。
③意思存在とは何か?
意思存在とは、意識存在から生まれた存在である。
意思存在は、エゴと和を併せ持った存在である。
意思存在は、この宇宙に姿を持たない。
➃意術存在とは何か?
意術存在は、意思存在から生まれた存在である。
意術存在は、意思(エゴと和)を持ち、その意思(エゴと和)を実現する術を持つ存在である。
⑤現実存在とは何か?
人間が万物の根源であると初めて認識できる存在である。
意術存在により創造された存在である。
具体的には、時間、空間、数学、科学の法則等と、それらの法則に従がう物質や生物等である。
⑥高存在とは?
高存在とは、現実存在の中で圧倒的影響力を持つ存在であり、他のほとんど全ての存在に影響を与える存在である。
具体的には、時間、空間、数学、科学の法則等である。
⑦低存在とは?
低存在とは、現実存在の中で高存在に比べると微小な影響力しか持たない存在である。
また、現実存在の中で高存在に比べると他のほとんど全ての存在に微小な影響しか与えられない存在である。
具体的には、物質や生物等である。
存在とは、①→②→③→➃→⑤と変化して来たのだ。
①無存在の補足説明
無存在とは、自身と他者を認識できない。従って、自身から他者に影響を及ぼす事はない。また、他者の存在もないので他者から影響を受ける事もない。よって、自身のエゴや、他者が求めてくる和から完全に自由な存在であった。
②意識存在の補足説明
意識存在とは、意識を持ち自身と他者をぼんやりとではあるが認識している。この意識存在は、初めて空間と時、そして数を意識した存在であった。意識存在は、無存在よりは不自由であった。
③意思存在の補足説明
意思存在とは、自身の意思(エゴと和)を持ち他者に影響を与えようと考えていた存在である。この意思存在は、初めて科学の法則を想像した存在であった。意思存在は、意識存在よりは不自由であった。
➃意術存在の補足説明
意術存在とは、自身の意思(エゴと和)を持ち他者に影響を与える術を持った存在である。この意術存在は、初めて空間、時、数、科学の法則を創造した存在であった。また、初めて他の意術存在から影響を受けたので、意思存在よりは不自由であった。
以上
末次次郎は、この論文らしき物を読み終えて道子に尋ねた。
「おい!道子!これのどこが面白いのか?」
道子は、末次次郎に答えた。
「無茶苦茶なところよ!こんな空想するなんて…。ある意味天才よ!」
末次次郎は、道子に言った。
「馬鹿馬鹿しい!」
道子は、それを聞いて笑いだした。末次次郎もつられて笑った。次郎と道子の間に、ひと時の和やかな空気が流れたが、その後独学者の話題は出なかった。
第三章 独学者と末次次郎との初めての出会い
独学者が、論文らしき物を持って来て一週間あまり経ったある日の8時10分頃、末次次郎は大学へ出勤するため玄関のドアを開けようとした。しかし、玄関のドアが開かない。末次次郎は、玄関のドアのカギをチェックした。玄関のカギは、開いている。末次次郎は、不思議に思い少し強く玄関のドアを押してみた。すると少し開いた。隙間から誰かの手が見える。末次次郎は、玄関のドアを強く押しながら言った。
「おいおい!一体誰だ!何のためにこんな事をするのだ!」
末次次郎から見て玄関のドアの向こう側にいる男は言った。
「お前が、何の返信もしないから罰を与えているのだ!」
玄関のドアの押し合いは、しばらく続いたが末次次郎が制し、玄関のドアは開かれた。末次次郎の目の前には、老人を装った男がいた。末次次郎は、あの独学者だと直ぐに気付いた。末次次郎は、老人を装った男に怒鳴った。
「馬鹿野郎!一体何なのだ?罰とは何だ?俺はお前に何も悪い事はしてないぞ!」
老人を装った男は、末次次郎に怒鳴り返した。
「お前とは何だ!それが年長者に対する言葉遣いか?馬鹿者!年長者がわざわざ出向いて良き教えを与えてやったのに『ありがとうございます!』の返信も無いとはどういう事か?」
末次次郎は、ビックリして言った。
「年長者?お前!バレバレだぞ!老人に化けているだろ!気付かれていないと思っているのか?このヌケサク!それに、返信を出そうにも…。名前も!住所も!メールアドレスも書いてなかったぞ!俺にどうしろと言うつもりだ!」
すると老人を装っていた男は、カツラを外し、付け髭を外した。その男は、末次次郎には中年のオッサンに見えた。その中年のオッサンは、末次次郎に言った。
「今の時代は、年長者とか若輩者とか、年は関係ない!どうだ!俺様の論文は?」
その中年のオッサンは、自信満々である。末次次郎は、ビックリして直ぐには言葉が出なかった。するとその中年のオッサンは、続けて言った。
「あ!メールアドレス書き忘れていた?」
末次次郎は、すぐに突っ込んだ。
「ヌケサク!メールアドレスを書き忘れただと!返信が出来る訳ないだろ!それにお前の論文はクソだったよ!」
その中年のオッサンは、急いで持っていた鞄からメモ帳を取り出すと、メールアドレスの様なものを書きだした。そして、つい先程迄の態度を豹変させ末次次郎に言った。
「理事長!理事長!すいませんでした。これをどうぞお受け取り下さい!」
末次次郎は、その中年のオッサンの豹変ぶりに驚き、ついついそのメモを受け取った。その中年のオッサンは、こう呟き去って行った。
「万物は、互いに影響しながら流転し、変化する。」
第四章 独学者と末次道子とのメールでのやりとり
独学者と一悶着あった日の午後6時半頃、末次次郎は帰宅した。そして、いつもの様に7時に妻(道子)と食事を取り始めた。食事中に色々な話題が出たが、末次次郎にとっては他愛もないものと感じられ、聞き手にまわる方が多かった。しかし、末次次郎が食事を終えた時、道子は言った。
「中年のオッサンが来たわよ!名前は、聞いても教えてくれなかった…。」
次郎は、尋ねた。
「誰だ?」
次郎は、まさかあの独学者を名乗る男ではないかと思った。そして、末次次郎は、道子に尋ねた。
「誰だ?まさか独学者を名乗る男ではないよな?」
道子は、笑いながら答えた。
「そうよ!面白い人ね!あなたのメールアドレスを教えてくれって言ってきたのよ!」
末次次郎は、驚きながら道子に尋ねた。
「まさか!まさか!俺のメールアドレスを教えていないよな?」
道子は、笑い続けている。末次次郎は、道子に大きな声で怒鳴った。
「馬鹿野郎!何であんな奴に俺のメールアドレスを教えたりしたのだ!」
道子も、大きな声で次郎に言った。
「お・し・え・て・ま・せ・ん!私のメールアドレスを教えたの!彼と私は、今日からメル友よ!」
末次次郎は、道子に尋ねた。
「まさか!奴からのメールがもう届いたのか?」
道子は、末次次郎に答えた。
「嫉妬しているの?もう受信したわよ!面白かった!」
末次次郎は、道子に言った。
「見せろ!」
道子はスマホを取り出すと、末次次郎に手渡した。そして、道子は言った。
「別に不倫している訳じゃないもん!」
次郎は、独学者を名乗る男が道子に宛てたメールを読み始めた。
『独学者より、美しき末次道子様へ!』
【独学者の存在論2】
はじめに
私の【独学者の存在論1】を読んでくれてありがとう!以下に現実存在についての私の考えを記します。
①意術存在が創造した現実存在『高存在(時間、空間、数学、科学の法則等)』について
ほとんど全ての人間は、高存在を普遍的で変化しない存在だと認識していますが、私は違うと考えています。意術存在の持つ意思と術は、流転し変化(進化、退化)すると考えているからです。意術存在は、初めに高存在と物質を創造したのですが、それだけでは満足せず、生物を創造しました。
「なぜ、一緒に全ての物質や生物を創造しなかったのか?生物は、なぜ長い時を経て進化しなければならなかったのか?初めからこの現実存在をこの様に創造する意思はあったのか?意思はあったが、術の不備でしょうか?」
私は、この現実存在を創造した意術存在は、全知全能の神ではなく、生物や人間と同様に進化、退化するものだと思います。故に、高存在も流転し変化(進化、退化)すると考えているのです。
②意術存在が創造した現実存在『低存在(物質、生物等)』について
私は、物質も生物等も意術存在が創造した低存在だと考えています。ただ、物質と生物等は、異なります。物質は、高存在に完全に支配され意思はほとんど持ちません。しかし、生物等は、種によって意思を持つ度合いは異なりますが、物質よりは自由意思を持っています。
物質と生物等の違いは、まだあります。それは、物質には死がありませんが、生物等には死があります。その代わりに生物等は、子孫(自己複製)を残すことができます。
これまでの私の説明で、賢い道子様は、ある疑問を持ったと思いますがそれも説明しましょう。疑問は以下の通りでしょう。
私の説明:「物質は、高存在に完全に支配され意思はほとんど持ちません。」
疑問:ほとんどという事は、微小は意思があるの?
私の答え:私は、全ての現実存在は意思を持っていると考えています。そうでなければ、何かに影響を及ぼす事は出来ないからです。全ての現実存在が、他者に影響を与えているので意思はあると思います。賢い道子様は、また疑問をお持ちになられたと思いますが、「どの程度の意思があれば、生物なのか?」←これは、誰にも分らないでしょう。
私の説明:「生物等は、子孫(自己複製)を残すことができます。」
疑問:なぜ、生物等と書かれてあるのか?等は、省いて良いのではないか?
私の答え:現在、「生物とは、子孫(自己複製)を残すことができる。」という定義が定説になっています。つまり,DNA(遺伝子)を次世代に受け継いでいける物が生物であるという事です。賢い道子様はご存知でしょうが、ウイルスという物が世の中に存在します。現在、ウイルス自体は、自己複製能力を持っていないことが明らかになりました。ウイルスは生物なのか非生物(物質)なのかということで、私は、生物だと認識しています。物質と生物の線引きは難しいのです。そこで、等と付けたのです。
以上
末次次郎は、全てを読み終えてから道子に尋ねた。
「彼のどこが面白いのか?こんなの馬鹿げている!」
道子は、末次次郎に答えた。
「ぶっ飛んでるところよ!」
末次次郎は、怒り書斎の中に引きこもった。
第五章 独学者の素性と末次次郎の変化
独学者を名乗る老人を装った男と末次家との出会いが会った週の週末の日曜日は晴天だった。末次次郎は、なんとなく庭に出て、青空を見上げていた。末次次郎は、呟いた。
「眩しい!しかし、休日は太陽の光を浴び、青空の美しさに引きこまれるのが良い!」
すると末続次郎の背後から誰かのワザとらしいくしゃみがした。独学者を名乗る老人を装った男だ!独学者を名乗る老人は、言った。
「誰か私の噂をしているな!私は知を求めるものの青空!末次次郎!お前の青空ではないがな!」
末次次郎は、振り向いて言った。
「何故お前がここにいる!何の用だ?」
独学者を名乗る老人を装った男は言った。
「我が親愛なる末次道子さんの許可を得てここに参った。お前は邪魔だ!出て行け!」
末次次郎は、叫んだ!
「この家は俺の家だぞ!出て行けとは何事だ!出て行け!」
独学者を名乗る老人を装った男と末次次郎は、押し合いへし合いし、互いにこう叫びあった!
「出て行け!」
すると、騒ぎに気付いた末次道子が出てきた。そして二人にこう言った。
「あなた達二人とも出て行って!近所迷惑だから!」
独学者を名乗る老人を装った男は、言った。
「道子さん!それはないでしょ!自分から呼んでおいて!」
末次次郎は、言った。
「何?俺に出て行けだと?ふざけるな!」
末次道子は、二人の男の言葉を聞き入れず、こう言った。
「あなた!家の中に入って!そして、松本さん!あなたは帰って!主人が留守の時にまた呼ぶから!」
二人の男は、しばらく末次道子様の様子をうかがった。道子は鬼の形相である。そして、渋々末次道子様に従った。
独学者を名乗る老人を装った男は、ブツブツ呟きながら帰って行った。末次次郎は、家の中に入り、道子に話しかけた。
「お前は、あいつの素性を知っているのか?」
道子は、言った。
「ええ!私が見知らぬ男とメル友になるとでも思っているの?私も調べたのよ!」
末次次郎は、しばらく唖然とし、道子に言った。
「あいつは、松本と言うのか?」
道子は、答えた。
「そうよ!松本幸徳!黒髪町に住んでいるのよ!」
末次次郎は、言った。
「どうやって調べた?」
道子は、答えた。
「あんな変装してるのよ!すぐにわかるわ!私の佐世保市に住む全ての友達に、老人を装った男についての情報を知らないか尋ねたのよ!私の人脈を軽んじないでね!」
末次次郎は、言った。
「あいつがおかしな奴だということは分かっただろう!あいつは不審者だ!何故?何故家に呼んだ?」
道子は、答えた。
「先ず、あの人は近所の評判が良いこと!そして、あの人には、同情の余地があること!」
末次次郎は、言った。
「道子!お前は、あいつの事をどこまで知っている?あいつについて知っていることを全部話せ!」
道子は、面倒くさそうに言った。
「さっきも言った通り、彼の名前は、松本幸徳!黒髪町に住んでいるの!45歳よ!真面目で犯罪歴は当然なし!近所のイベントにも積極的に参加していて、近所の皆から評判良し!職業は、介護士…。あとは…。そのくらいよ!」
末次次郎は、言った。
「道子!お前は、あの人には、同情の余地があると言ったな!あれについては何だ?」
道子は、また面倒くさそうに言った。
「あの人は、あれでも成績優秀で、良い大学へ行けるはずだったのよ!しかし、母子家庭だった為、金銭の工面ができずに大学に行けなかったの…。裕福なあなたの家庭と違ってね!」
末次次郎は、暫し沈黙し、こう言った。
「俺の人脈でも調べるよ…。」
それから、末次次郎は、黒髪町に住んでいる11人の知人に松本幸徳についての情報を教えてくれとメールを送信した。夕方までには、次々と返信のメールがきた。返信されてきたメールの要約は、『松本幸徳は、真面目で警戒しなければならない人物ではない。大学に行けなかった事は、可哀そうだ!』等だった。それらのメールを読んで、末次次郎は、呟いた。
「彼には、同情の余地がある。しかし、俺に対するあの態度はなんだ…。」
末次次郎は、夕飯の支度をしている道子に近づき言った。
「あいつの素性は分かった。可哀そうで同情する面もある。しかし、家に招いて話しを聴くほどではないだろ?大学に金銭面を工面できずに行けない人たちは、今の日本にも大勢いる!」
道子は、答えた。
「ええ!そうよ!大学に金銭面を工面できずに行けない人たちは、今の日本にも大勢いますよ!しかし、独学で勉強し、突拍子もないことを論じる人は少ないわ!あなたの口癖を忘れたの!『日本の学生は、先生の講義が終わって質問する時間を設けても誰も積極的に質問しない!先生と議論するなんて彼らには考えられないことなんだ!失敗し、恥をかくことを恐れてはいけない!これでは駄目だ!』ってね!」
末次次郎は、すぐに道子に言った。
「おい!道子!あいつのメールアドレスを教えてくれ!俺は、あいつのメールアドレスが書かれたメモを捨ててしまったからな…。」
道子は、夕飯の支度を中断し、スマホを持って来て末次次郎に渡した。末次次郎は、自分のスマホに松本幸徳のメールアドレスを登録し、道子に返した。道子は、ニコニコしながら言った。
「何をするの?松本さんにメールするの?」
末次次郎は、言った。
「ああ!あいつをチョット教育するのさ!」
第六章 チョットした教育のつもりが…
末次次郎は、夕食を終え書斎に戻った。そして、独学者を名乗る松本幸徳に以下のメールを送信した。
件名:チョットした教育
内容
私は、大学の理事長をしている。そう!教育者だ!君との出会いを振り返ってみると、君の態度は最低だ!礼を欠いている!私と道子を釣り針に掛けようとしたのだろうが、あまりにもひどい!道子はともかく、私は君が謝罪し、このようなことを行った意図を説明しなければ、一切君に聞く耳を持たない!礼儀をわきまえよ!
30分後、末次次郎宛てに松本幸徳から返信のメールが来た。
件名:誠に申し訳ありませんでした。
内容
謝罪します。誠に申し訳ありませんでした。理事長や奥様を釣り針に掛けるようなことをしてしまった意図については、私にはこの世の中において、私の存在感が軽すぎるという思いがしていて苦しんでいるからだったのです。何か私の存在感を高める方法はないか?そう!あなたの様な知識人と対等に議論できる様な存在になれば、私自身が感じていた存在感の軽さを払拭できるのではないか?そう考えたのです。
この世の中は、不思議なものです!私も45歳!礼儀は知っています!その礼儀をわきまえていたらあなたとこういうメールはできなかったでしょう。私の論文もどきの文章も読んで貰えなかったでしょう。
申し訳ございませんでした。これからあなたや道子さんに付きまとわず、生きていきます。
それでは、失礼します。
末次次郎は、呟いた。
「やけに素直だな…。」
そして、末次次郎は、大きな声で妻道子を呼んだ。
「おい!道子!こっちに来なさい!」
道子が書斎に入ってくると、末次次郎は松本幸徳のメールを道子に読ませた。そして、言った。
「わりと素直な奴だったよ!これから我が家に付きまとわないとさ!」
道子は、言った。
「やっぱり真面目な人なのよ!私は、彼とメル友をつづけます!」
末次次郎は、唖然として言った。
「メル友を続ける?何故だ?」
道子は、答えた。
「あなたこそ何故彼を弟子にしないの?彼はあなたの求めていた弟子よ!」
末次次郎は、また唖然として言った。
「俺が求めていた弟子?」
道子は、答えた。
「あなたの口癖!『日本の学生は、先生の講義が終わって質問する時間を設けても誰も積極的に質問しない!先生と議論するなんて彼らには考えられないことなんだ!失敗し、恥をかくことを恐れてはいけないのだが…。これでは駄目だ!』この口癖を忘れないでね!彼は失敗し、恥をかくことを恐れず、大学の理事長に相対したのよ!無礼なとこもあったけど、そこはちゃんと見てあげてね!」
それだけ言うと、道子は書斎を後にした。末次次郎は、呟いた。
「あいつを弟子にするのか?俺には荷が重すぎる…。あいつらに任せようか…。」
末次次郎は、スマホを手に取り、7人の知人に大体同じ様なメールをした。メールの内容は以下の様な内容だった。
件名:独学者を名乗る変な男
内容
独学者を名乗る変な男と出会った。彼には、同情すべき面と、学問への取り組みについて私が評価せざる得ない面を感じる。彼の話を聞いてくれないか?
次の日の朝、末次次郎が朝食を取りながらスマホをチェックすると『件名:独学者を名乗る変な男』についての6件の返信があった。その6件は全て独学者を名乗る変な男と会っても良いという返信だった。末次次郎は、俺の人徳のおかげだと認識した。それから、末次次郎は、道子に返信してきた6名に独学者を名乗る変な男の論文らしきものをメールで送信するように言付けた。
道子は、言った。
「はい!はい!分かりました!彼にチョットした教育を施す為の準備ね!」
末次次郎は、一瞬不快そうな顔をしたが、何も言わずに大学に出勤した。
その日の夕方、末次次郎は、家に帰るとすぐに書斎へと歩んで行った。そして、スマホのメールを確認した。今朝、独学者を名乗る変な男と会っても良いという返信は6件だったが、やっぱり会えないという断りのメールが3件あった。末次次郎は、独学者を名乗る変な男の論文らしきものの評価が低すぎるからだろうと感じた。残りの3件も本当は断りたかったのかもしれない。しかし、俺の頼み事を無下にできない。チョット申し訳ないとも感じた。
夕食時、末次次郎は、道子と食事をしながら言った。
「あいつに厳しい教育を課すよ!先生は、俺じゃないけどね!」
道子は、尋ねた。
「本当に?先生は誰なの?」
末次次郎は、答えた。
「本当だよ!長崎市の某大学の本間教授、池坊准教授、そして田村准教授だよ!来週の土曜日午前中にお願いしようと思う。あいつにその日は明けておけとメールしてくれ!そして、また自分の考えを磨いておけとな!」
道子は、ニコニコ笑いながら言った。
「はい!はい!分かりました!」
末次次郎は、夕食を終えるとすぐに書斎に入り、3人の教授、助教授らに電話を掛けた。
3人とも、来週の土曜日午前10時に末次家に来てくれるとの事だった。末次次郎は、大きな声で道子を呼び、言った。
「あいつに来週の土曜日午前10時に家に来いとメールしろ!それと、あいつの存在論1の用紙を持って来い!それとお前に宛てた存在論2のメールを俺のメールに転送しろ!」
道子は、またニコニコと笑いながら言った。
「はい!はい!分かりました!」
道子は、すぐに存在論1の用紙を持って来て末次次郎に手渡した。そして、こう言った。
「メールは、転送しましたよ!」
末次次郎は、スマホを確認し、こう言った。
「ああ!受信したみたいだな!」
道子は、尋ねた。
「何をするの?」
末次次郎は、答えた。
「あいつをボコボコにしてやるんだ!その準備だよ!」
末次次郎は、改めて存在論1と存在論2を読んだ。そして、感想を箇条書きで、PCのワード文章に書いていった。その感想は短く他愛もないもので、以下の通りだった。
ワード文章
1.神ながらの道か?彼が新宗教を立ち上げようとしている様にも考えられる。
2.無存在→意識存在→意思存在→意術存在→現実存在と変化してきたというが、何故この様な絶対証明不可能なことを考えて吹っ掛けてきたのか分からない。
3.2の疑問への答えは、逃げ道を作る為ではないか?論破されようとしたら、信じる者は救われるみたいなことを言い出せるようにしているのではないか?
末次次郎は、このワード文章を保存せず消した。末次次郎は、こんなものに感想なんて最初から無理だったんだと思ったのである。無駄な時間を過ごしたとも思った。そして、来週の土曜日に集まってくれる教授、准教授達もそう思っているだろうとも思った。そこで3人の教授、准教授達に対してお礼の土産品や昼食は御馳走を準備するように、道子に言わなくてはならないと思い、リビングへ行った。道子はリビングで、スマホを操作していた。末次次郎は、言った。
「何をしている?」
道子は、答えた。
「メル友とのやりとりよ!」
末次次郎は、言った。
「誰とだ?」
道子は、言った。
「ひ・み・つ!」
末次次郎は、呟いた。
「まったくお前は…。」
そして、末次次郎は少し大きな声で道子に言った。
「おい!道子!来週の土曜日に来て下される教授、助教授に佐世保名物の何らかの土産品を買っておいてくれ!それとその日の昼食は、御馳走を頼むぞ!」
道子は、頷きながら言った。
「はい!はい!」
末次次郎は、道子に背を向けると、また呟いた。
「はい!はい!準備完了!」
第七章 独学者の死
独学者を名乗る男、松本幸徳にとっての決戦の日が来た。末次次郎、道子、そして他の教授、助教授にとってはそうは思えない日だったが…。独学者を名乗る男、松本幸徳は、老装ではなくキチンとしたスーツで、9時に末次家に現れた。末次次郎は、憮然とした表情で独学者を名乗る男、松本幸徳に言った。
「早すぎる!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、末次次郎に言った。
「道子様に遅刻しないでねと言われましたので…。」
末次次郎は、言った。
「道子は、本間教授、池坊准教授、そして田村准教授を迎える準備をしている!お前は、道子を手伝え!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、素直にその命に従った。
9時50分頃、本間教授、池坊准教授、そして田村准教授が末次家に到着した。末次次郎は、笑顔で三人の客人と挨拶を交わし、リビングに招き入れた。そして、その三人の客人に独学者を名乗る男、松本幸徳を紹介した。
「彼が、独学者を名乗る男、松本幸徳だ!」
本間教授は、独学者を名乗る男、松本幸徳に挨拶と自己紹介をした。
「おはよう!私は、本間正です。生物学を研究しています。」
次に、池坊准教授が、挨拶と自己紹介をした。
「おはよう!私は、池坊義男です。専門は数学です。」
最後に、田村准教授が、挨拶と自己紹介をした。
「はい!おはよう!田村宏です。専門は日本文学です。」
末次次郎は、三人の客人をソファーに座るように促がした。道子が素早くお茶を入れて持ってきて、三人の客人に言った。
「粗茶ですが…。どうぞ…。」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、テレビの前に準備されていたホワイトボードの前に立ち、ペンを握った。そして、「スー」と息を吸い「フー」と息を吐いて、言った。
「それでは始めます!」
すかさず、本間教授が手を挙げ言った。
「君の存在論1と2はもう読んだよ!今日は同じ内容?」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、答えた。
「はい!大体同じです。」
池坊准教授も手を挙げ言った。
「大体同じなら聞かないでもいいでしょう?」
田村准教授は、少し笑いながら言った。
「先ず私たちからの感想から行こうよ!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、答えた。
「どうぞ!」
その答えを受け、本間教授は二人の准教授達を見ながら言った。
「私から行こうか?」
二人の准教授達は頷いたのをみて、本間教授は、話し始めた。
「私は生物学を研究している。具体的には、外来のスズメバチの研究ですよ!君は、生物倫理学というものを知っているよね?外来のスズメバチの研究ではあまり問題とされないのだが、生物学は、倫理に縛られている。具体的に一例を挙げれば、『クローン人間を創造しても良いか?悪いか?等を考えることですよ!』私は、こういう学問があることは良いことだと思う。どんな学問をやる上でも倫理が必要だと思う。これらは、学者とはどうあるべきかとの姿勢を問う事になるからね!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、言った。
「私のどこが、あるべき学者の姿勢を欠いているというのですか?」
本間教授は、また話し始めた。
「私は、絶対証明不可能な仮説を安易に立てるのも良くないと思うよ!私は、新たな宗教はいらないと思っているからね!カルトになるかもしれないしね!科学的に考えて世の中を見てほしいよ!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、小さな声で呟いた。
「倫理は、宗教からの影響を受けています。」
本間教授は、また話し始めた。
「それでは、君の存在論は、新たな宗教なんだね?科学的には、絶対証明不可能なものなんだよね?天国や地獄の様にね…。それでは、私の様な生物学者を呼んで自説を聞いてもらう必要は無かったのにね!私の君への評価は0点だよ!以上!」
末次次郎は、少し笑いながら池坊准教授を見て言った。
「次、お願いします。」
池坊准教授は、一呼吸おき、話し始めた。
「結論から言うと君の論は、0点!数学的に証明してもらえなければ、私は信じない。私は、数学は、量・構造・空間・そして変化の研究と思っているし、多くの数学者達もそう定義していると思う。君の言う存在の変化等は、全部数学的に証明されなければならない。例えば、君の思う無存在から意識存在への変化をどう数学的に表すか?私は、君に聞いてみたい!さあ!答えてみて!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、答えた。
「まだ、数学的な証明の段階まで煮詰めていません…。ただ!数学的に証明できないだけで真実では無いというのはおかしいと思います。ダーウィンが進化論を唱えた時、完璧な数学的な証明がなされていたでしょうか?」
池坊准教授は、また一呼吸おき、話し始めた。
「君は、ダーウィンと同じレベルの学者か?笑わせるな!」
末次次郎は、また少し笑いながら田村准教授を見て言った。
「次、お願いします。」
田村准教授は、小さな声で言った。
「君は、大きくズレているね!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、言った。
「ズレ?」
田村准教授は、話し始めた。
「生きとし生けるものは、全てズレを持つ。そしてそのズレは、同じ種でも異なる。」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、恐る恐る尋ねた。
「何ですか?そのズレとは?」
田村准教授は、笑いながら話し始めた。
「認識のズレだよ!自身、他者達等の自らを取り巻く世界を正しく認識できず、正しい認識と自らの認識との間にズレを持ってしまうということだよ!ちなみに一番ズレが大きくなりやすく、同じ種なのに大きく異なるのは、人だよ!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、好奇心を持って尋ねた。
「認識のズレは、本当に生きとし生きるもの全てにあるのですか?」
田村准教授は、話し始めた。
「あるさ!正確に認識するには、八百万の感覚と八百万の能力を持たなければならない。だから、生きとし生けるものは、全て認識のズレを持つ。」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、また好奇心を持って尋ねた。
「何故人は、一番認識のズレが大きくなりやすいのですか?」
本間教授が、手を挙げ話し始めた。
「それは私から答えよう。人は大きな脳を持ち、色々なことに興味を示し、色々なことを想像する。君の様に認識のズレが大きい想像もね!まあ!人とその他の生物の違いは、大きな脳を持っているかどうかだ!付け加えるならば、器用に道具などを作る能力があるかないかだ!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、言った。
「同じ人という種でも認識のズレが大きく異なるのは、何故ですか?」
本間教授が、また手を挙げ話し始めた。
「一人一人取り巻く環境が異なること!その人の能力や努力!そして偶然事故にあったなどの不運や、奇跡的に宝くじに当たるなどの幸運等!これらも同じ人という種でも認識のズレが大きく異なる要因だよ!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、頷いた。それを見た末次次郎は、言った。
「学者というものは、認識のズレを微小にすることが仕事だ!神が持つと言われる正確な認識とはいかないまでもな!もう独学者などと名乗るなよ!さあ!もういいだろう!帰りなさい!」
独学者を名乗る男、松本幸徳は、その言葉に素直に従い末次家を出て行った。
第七章 独学者の復活
松本幸徳は、黒髪町のある団地の部屋にいる。もう夕方になり暗くなっている時間帯だが、松本幸徳の心と同様に部屋は暗い。松本幸徳には、もう独学者を名乗る気はない。松本幸徳の頭の中にあった理想の独学者は、死んだ!松本幸徳が気晴らしに音楽を聴こうとスマホをのぞき込むと、一通のメールが届いていた。末次道子からのメールだった。内容は以下の通りであった。
件名:負けないでね!
内容:
負けないでね!私は昼食の準備で、あなたと主人達の話を直接聞くことはできなかったけれど、大体の内容は主人から聞きましたよ!負けてはいけませんよ!
あなたは、「大きくズレている。」と言われたみたいだけど、そんなこと気にしなくてもいいわよ!あなたは、主人達が理想とする学者とは大きくズレているかもしれない。しかし、私にとっては、魅力のある大きなズレ、そう個性を持ったメル友よ!
返信してね!バイバイ!
松本幸徳は、疲れ切っており、末次道子に返信のメールを作成できなかった。松本幸徳が末次道子のメールを読んで1時間位経った後、松本幸徳のスマホが鳴った。見知らぬ電話番号だった。松本幸徳は、スマホの電話をとると、こう言った。
「もしもし!誰?」
電話の相手は、言った。
「もしもし!誰だと思う?」
松本幸徳は、相手の声を聴いて言った。
「道子さん!道子さんじゃないですか?」
電話の相手は、言った。
「正解!」
松本幸徳は、尋ねた。
「どうして私のスマホの電話番号を知っているんですか?」
末次道子は、答え、話し始めた。
「私の人脈を侮らないでね!まあいいわ!そんな事はね!それよりもあなた負けちゃだめよ!確かに人は皆、自身、他者達等の自らを取り巻く世界を正しく認識できない生き物よ!想像力がマイナスに働き、大きくズレる事もあるからね!でも、マイナスの面だけではないわよ!想像力がプラスに働き、真に近づく事もあるのよ!自身、他者達等の自らを取り巻く世界を正しく認識するにも想像力は必要だからね!ズレを恐れてはいけない!ズレを恐れると何もできないわ!」
松本幸徳は、小さな声で言った。
「しかし、私にはもう独学者を名乗り、自説を発表できないですよ!」
末次道子は、また話し始めた。
「別に独学者を名乗ってもいいのよ!私には、あなたへの提案もあるのよ!それもこの電話をかけた理由よ!あなた小説家になりなさい!」
松本幸徳は、驚いて言った。
「小説家?私には美しい日本語表現でフィクションを書くことはできません!それに書いても売れませんよ!」
末次道子は、笑いながら話し始めた。
「純文学じゃなくてもいいのよ!その他でいいの!また、売れとはいっていないわよ!」
松本幸徳は、驚いて尋ねた。
「どういう事ですか?」
末次道子は、また笑いながら話し始めた。
「インターネットで、小説を投稿するのよ!想像力を大きく羽ばたかせ、ズレを楽しむのよ!良い人生は、ズレを楽しめるかどうかにかかっているのよ!」
松本幸徳は、戸惑いながら言った。
「そうですか…。でも一人も読者がいないかも…。」
末次道子は、即答した。
「私が読むので、一人は読むわよ!あなたの小説で、私はズレを楽しむのよ!わくわくするわ!」
松本幸徳は、また戸惑いながら言った。
「そうですか…。分かりました…。それではそろそろ失礼します。」
末次道子も電話を切る挨拶をした。
「それじゃ!またね!あ!投稿したら教えてね!バイバイ!」
松本幸徳と末次道子の電話での会話が終わって直ぐに、松本幸徳は部屋の電気をつけ、スマホをいじり始めた。そして、『小説家になろう』というサイトを見つけた。誰でも小説を投稿できるらしい。松本幸徳は、呟いた。
「ズレを楽しむ事は、本当に良い人生かな…。」
更に松本幸徳は、小説を書けばズレを楽しむ事が出来るかなと考えた。松本幸徳は、その他の色々な疑問等を考えたが、らちがあかなかった。松本幸徳は、少し大きな声で言った。
「よし!小説を書くぞ!ペンネームは『独学者』、処女作のタイトルは『小説を書こうに独学者現る』内容は決めてないが…。」
これは、フィクションです。私は、独学者ではありません。もっと勉強しなければなりません。皆さんのように書ければ…。ええい!ルサンチマン(無力感からくる歯ぎしり)を超越し、超人になるんだ!
また、投稿するまで…。さらばじゃ!