誘い
誰だ?
ここには俺しかいないはずなんだが。
誰だ?
得体の知れない恐怖が背中を這いずり回る。
「どうしたいの?」
また声だ。
振り向けばすぐにわかる事なのに振り返ることが出来ない。
俺は耳を塞ぎ目を瞑り背中を丸めた。これ以上自分の狂気に自分が振り回されるのは嫌なのだ。誰だか知らないが消えてくれ。
「あなたがどうしたいのか。聞いてるのよ。」
黙ってくれ黙ってくれもうほっといてくれ
俺はもう死にたいのだ。
「わかった。死にたいのね。」
俺はビクッとした。何故俺の心の中の声がわかったのか。
「どうするのかしら。自殺でもする?」
「死にたいというのなら、あなたの命、私の勝手にしても構わないよね。」
何を言ってるのだ。俺の命だ。こんな訳のわからない存在に好き勝手にさせるか。
「でももうどうしようもないところまできちゃってるんでしょ。」
うるさい。いつ死のうが何しようがそれは俺の勝手だ。お前が介在する余地など無い。
「でももう詰んでるじゃない。」
うるさい。
俺は目を開けて振り返りながら叫んだ。
そこには。
何もいなかった。誰もいなかった。
幻聴?
「幻聴ではないわ。あなたにはまだ私の姿は見えない。私と契約しましょう。」
契約?また何をわからないことを。
「そう。契約。あなたはこの世界では詰んでる。もうおしまい。何をやっても無駄。でも私と契約すればやり直せるチャンスが出てくるかも知れない。」
チャンス?何がだ。この世界?やり直せる?何をだ。
「どうする?」
混乱してる思考に容赦なく押し入ってくる声。
なんの契約を?
「簡単よ。私の世界に来て私の兵隊になる。それだけ。」
簡単ではない。なんの話だ。
「私の世界ではもう何年も何百年も何千年も戦いが続いてるの。その戦闘を担ってくれるモノを探してる。あなたは私のお眼鏡にかなった。どうする?勿論働きに応じた報酬は約束するし条件を満たせばこの世界に戻ってくる事も出来る。」
「どうする?」