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幸せな未来  作者: 火車轟
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第一回

 部屋の天井、一角をじっと見つめる。

 明るく輝いている部屋でもその一角は必ず暗くなっている。

 

 まるで本物の悪意がそこに巣食っているように。

 死の誘惑がそこから湧き出しているように感じてしまう。

 目を背けようとするが、そこを凝視してしまう自分がいた。何か呻き声がそこから湧き出てくるような。その暗闇が、逆に私を見つめているような。

 視線を感じるのだ。


 最近、つとにその暗闇からの視線を敏感に感じる。疲れているのだろうか。

 疲れている?俺が?

 会社ではお荷物扱い。まるで腫れ物にでも触るように扱われているのに。ストレスなんて全く無いような部署に配属され、毎日無為に過ごす日々だというのに。俺はここで役に立っているのだろうか。俺がいなくてもここの仕事は順調に回っていくのではないか。皆俺を厄介者だと考えているのではないか。給料泥棒。声にならない、目からのコンタクト。早くいなくなればいいのに。まだしがみついているのか。まったく往生際の悪い奴だ。死ねばいいのに。

 

 あぁ、そうか。俺は疲れているんだ、と今感じていることを頭で反芻してやっと自覚をする。

 部屋の暗がりからは相も変わらず。俺を手招きしている手が見える。早くおいで。こちらに来い。早くこちらに来て楽になろう。お前の居場所はもうここしかないのだから。


 声にならない声が頭の中に響き渡る。あぁ、くそっ。そんな声聞きたくもないのに。

 進退窮まっているのがまだわからないのか?もうここにしかお前の居場所はないのだよ。良いではないか。もう十分、自分のしたいことをやってきただろう。その行為がその後、どういう結果を及ぼすのかも知っていてそれでもお前はやめなかった。お前のしてきたことの報いを受ける時が来たのだ。


 蠅の羽音が頭の周りをぐるぐる回っている。

 ブーン、ブーン。

 うるさい、と手で払うがその音は止まない。

 

 ここしかないのだ。早く腹をすえて覚悟を決めろ。ここしかないのだよ。お前の居場所は。

 

 がっくりとうなだれた俺の肩をさする手の感触。誰なのか、そんなこともどうでも良くなっていた。次から次に不安な思考が頭の深奥から溢れてくる。目を瞑る。真っ暗な視界の中からも容赦なく俺を責め苛む声と手。耳を塞ぐ。口を開けてアーと叫ぶ。


 いつだったろう?俺がもう既に狂っている、と自覚をしたのは。ついさっきかもしれない。前の会社を、辞めた際?学生時代?もっと子供の頃だった時分?

 そう…俺は狂っている。心が渇ききっている。何かへの渇望。欲望。欲求。抑えられない私欲。金に狂い、女に狂い、物欲に狂い、人間関係を渇望し、裏切り、裏切られの繰り返し。

 人生は勢いでどうにかなると思っていた。勢いのまま、進学し、就職し、結婚し、子供ももうけ、家を建てる。全て勢いのまま。なるようにしかならねーだろ人生なんてよ、と俺はいつも思っていた。場辺り的な刹那的な生き方しかできない。

 そして、気がつけば目の前に終着点が唐突に現れた。

 声にならない声に怯え、有りもしない幻想に心を掻き乱され、そのたびに場当たり的な薬に頼り、やっと自我を保てた、思った次の瞬間にまた、声にならない声が聞こえてくる。

 もう勘弁してくれ。もう十分だろう。俺はもう限界だ。

 どうすればお前は満足するのだ。俺の命が欲しいのか。こんな箸にも棒にも引っかからないどうしょうもない男の魂なんて、糞の役にもたたないだろう。

 「どうする?」

 突然、空気を正しく振動させたはっきりした声が耳元で囁いた。

 「どうするの?」

 幻聴ではない。誰かが俺に話しかけている。

 

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