表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クロの秘密道具店

作者: なな

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 授業の予鈴が遠くに聞こえる。あたしは頭を軽く振ると不安な気持ちを絶ち切り、必死で足を回転させた。


 バックグラウンドには、走馬灯のように流れる、数分前の記憶。

 牛ほどの大きさの荷物を運んでいたおばあさん、ぎゃんぎゃん泣き喚く迷子、目の前で倒れた妊婦さん。

 あたしはいつもこうだ。時間とか場所とか関係なく、助けを求める人に出会う。またあたしもお人好しだから、無視できない。そうやって、何度痛い目をみてきたか。


 今回は……もうダメだ。間に合わない。始業まであと三分。ここから教室までの距離は……考えたくもない。


「もう、サボっちゃおうかな……」

どうせ間に合わないんだ。それなら、と、あたしは体の向きをくるりと変えた。

「こんなときは……やっぱり、あそこだよね」


 行き先はいつものとこ。学校の裏にある、小さな店。

 従業員は一人。チビでアホで生意気な子どもだけど、顔立ちだけはいい男の子。


「やっほー、クロ、いる?」

あたしが店内を覗きこむと、案の定クロが一人、椅子に腰かけていた。

「いらっしゃ―…………あんなぁ……お前、今日は学校じゃねぇのか?」

「んー、サボっちゃった。ってか、クロだってサボってんじゃん!」

「さ、サボりじゃなくて休養だよ!ってかクロって呼ぶな!猫じゃねぇんだから!」


 相変わらずのちっこい体で凄まれても、全く怖くない。なんて言葉は心にしまい、あたしはそこらへんにあった椅子に座った。


「はいはい、クロスケ様?ところで客入りはどうなのかしら?」

「うぐっ……まぁ……ぼちぼち……?」

「嘘言うなって。こーんな狭くて暗い店、人なんて来ないでしょ?内装だけは立派な応接室みたいだけど、椅子だってガタガタいってるし。大体、看板なしでどんな物好きが来るってのよ」

「……椅子がガタついてるのは、お前の体重のせいじゃ……」

「は?」


 クロはビクッと肩を震わせると、「いや、何でも……」と俯いた。


 そろそろ紹介したほうがいいよね。この男の子はクロスケ。名字は知らない。一人でこの店を切り盛りしている(というほどの客はいないけど)。……あぁ、それから大事なのがこの店について。


「……あっ、そういやお前に良いの見つけてきたぞ?」

「え、なになに?」

「このスプレーだ!その名も『人避けスプレー』!これでお前の頼られ体質も、治せるんじゃねぇか?今ならたったの十二万九千八百円!にーきゅっぱ!」


 そう、こういう変な道具(あたしは『秘密道具』と呼んでいる)を仕入れ売るのが、この店なのだ。しかし秘密道具は便利ではあるが、大抵欠陥が多い。


「……ねぇ、それって友達や家族にも避けられるんじゃ?」

「ん?おう、そうだな?」

「じゃあダメじゃん!大体高すぎ!高校生に払えるわけないし!」


 そうあたしが反論すると、クロはきょとんと

「値段の問題なのか?じゃあお試しってことで使ってみるか?」

「ちーがーう!もー、だから仲良い人には避けられたくないっていうか……はぁ、クロは友達いないから分かんないのか……」

「まぁまぁ、とりあえず一回」


 あたしがさらに言い返そうとした瞬間、クロはスプレーをあたしに向け、しゅっ、と吹き掛けた。

「あっ、バカ!だからあたしは――」

「大丈夫!これだけじゃお代は要らねぇから……ん?」


 クロは小首を傾げると、一歩、後ろに下がった。


「……どうしたの?」

「え、いや、なんていうか……」


 また一歩。嫌な予感しかしなかった。


「ねぇ、クロ?どうしたっていうの?」

「あー、その……なんだか、一緒にいたくない感じ……?」

「完全にスプレーの効き目でしょ……」


 最悪だ。なんかもう、最悪だ。

 効果があるのは実証できたけど、そんな嬉しくもなんともない。


「クロ?この効き目はいつまで続くの?」

「あー、えっと、たぶん一時間くらいですかね……?」

「……なぜ敬語」

「なんか、ごめんなさい……そういう気分になってきたんです……」

「人避けスプレー、恐ろしい子……」


 どうやら人をビビらせ、遠ざける効果らしい。一体どんな魔法がかかっているのか知らないが、これは困ったことに……いや、待てよ。


「どうせ学校サボってるし、行くところないんだった……」

「え?」

「……クロスケくん?」

「は、はひっ!?」

「……喉が渇いたなぁ」

「今すぐ!!」


 クロは超高速で裏に回ると、麦茶を出してきた。


「……お腹も空いたなぁ」

「……すぐに!」


 今度は……カレーライス。……カレーライス?

 と、クロを見てみると、すすり泣きながら「おひるごはん……」と呟いている。これには流石のあたしも遠慮しておいた。


「……じゃあクロ、しょうがない。これ、100円あげるから、お茶菓子買ってきなさいな」

「ひっ、ひゃいっ!!」


 情けない声を出して走っていったクロに、あたしは何とも言えない優越感に唸りをあげていた。



 一時間クロを弄んだ後、スプレーの効果は切れ、クロにとっても怒られた。

 それから学校のサボりについて、母親にも怒られた。散々な一日だった。


本当に勢いで書いた作品です。書き込み甘いのは、どうか見逃してください……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ