尾行
「今日は休みにする!」
エリックの宣言により、この日、訓練も狩りもしないことになった。
たまにこういう日があるのを、ティスティアは不思議に思っていたが、そんな日はティスティアは、街で買い物したりして、楽しんでいた。
エリックは、そういう日は、どこかに消えてしまうのだ。
エリックはいったいどこに行っているのだろう?
その疑問に、ティスティアは今日こそ解明してやろうと思っていた。
エリックの事は色々知りたい。
決してストーカーじゃないからね!
街に出かけるとエリックに言い、宿を出て、宿の出口が見える辺りに隠れた。
暫くすると、エリックが出てくる。
町外れの方に向かった歩くエリックを、一定の距離を空け尾行するティスティア。
今にも潰れそうな一軒のカフェの前で、エリックは止まり、店に入っていく。
看板には、店の名はなく、楕円の薬の様な模様があった。
意を決して店に入るティスティア。
「結局入ってくるのね」
笑いながらエリックがこちらを見ていた。
「え?!バレてた?」
動揺するティスティア。
「宿のの前から、ずっと気がついてたさ。まあいいよ。着いて来い。」
店の奥のテーブルに座り、ウエイトレスに、
「俺はいつもの!で、こいつにはハーブティーを。」
「いつもの?」
「ここのハーブティーは、美味いぞ。心を落ち着かせてくれる。」
暫くすると、良い香が漂ってきた。
「お待たせ致しました。」
ウエイトレスは、ティスティアの前にハーブティーのカップを置き、エリックの前には、ワイングラスと、炭酸水のボトルと、1つのカプセルを置いた。
「なにそれ?」
「俺が吸血鬼なのは、分かってるよね?」
「当たり前でしょう!」
「俺が血を飲んでるの見た事ある?」
ここでティスティアは、不思議に思った。エリックと同じ部屋で寝泊まりするようになって数ヶ月。
確かにエリックが血を飲んでるのを見た事はない。
大昔、吸血鬼は、人の生き血を飲むと言われ、迫害されていたという。でも、今はされていない。
「気がついたかな?そう、全てこのカプセルのおかげさ。ここは吸血鬼御用達のカフェでね。どの国にも、系列店があるのさ。」
そう言い、ワイングラスに、炭酸水を半分くらい注ぐ。そして、カプセルをポトンと落とす。
「乾燥血液製剤」エリックが言う。
「血液製剤?」
「家畜の血液を成分劣化させずに、乾燥したものさ。これを溶かして飲むのさ。大昔、はるかご先祖様が、人の生き血を飲まないでどう過ごすか研究した。そして、人の血液じゃなくても、生きていく事が出来ることを証明したのさ。だか、家畜に噛み付くのは、吸血鬼のプライドが許さない。で、家畜の血液をこうしてカプセルにして、ワインのように飲むことで、吸血しなくても、吸血鬼として存在出来るようになったのさ。
それから吸血鬼は、迫害されなくなって、魔族として認められ今に至る。」
「で、その研究されていたのが、ドラクロア伯爵初代で御座います。」
突如、エリックではない男性の声がした。驚くティスティア。
「初めまして、店長のギリアと申します。坊ちゃんのパートナーのティスティア様ですね?」
「え?坊ちゃん?パートナー?!」
「坊ちゃんは、ドラクロア伯爵家二男であり、我がドラクロアカンパニーの社長のご子息です。単独行動の坊ちゃんが、パーティを組んだと聞きまして、会ってみたいと思っておりましたが、いつも1人でお越しなのでチャンスが無く、ようやくお会いできました。」
ギリアと名乗った男が言う。
慌てティスティアは、
「ティスティアです。初めまして。」
と挨拶する。
「坊ちゃんはやめてくれよ〜もう15なんだし。」
「いえいえ、私にとって、坊ちゃんは永遠に坊ちゃんです。」笑いながらカウンターの奥に下がっていく。
「ドラクロアカンパニーって?」
ティスティアが聞く。
「うちの会社だよ。吸血鬼の為に色々やってるんだよ。このカフェもそのうちの1つさ。基本キョウ帝国から出ない吸血鬼だけど、全員が出ない訳じゃないからさ。こういう施設が必要なのさ。」
そう言いなから、ワイングラスに口をつけるエリック。
「ゴメンなさい。探るようなことして。」
「いいよ。わざわざ言う事も無いかと思ってたけど、気になったんだよね?まあ、悪い事してた訳じゃないから、安心してくれ。」
笑いながらエリックは飲み干した。




