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第7話  4月 2日(土) 江迎っぽいボックス

現在の所持スキル

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④そこそこの料理人の調理

⑤カサルティリオ エウテュスの黒い鱗

●目標「入寮しよう」

●詳細「皇樹高校『世界樹ユグドラシル寮』へ引っ越しせよ。ただし今日の占いコーナーが不穏なことを言っているので注意が必要だ」


「あー先輩? 申し訳ないんですけど地上に返してくれませんか?」


「……」


 宮殿で向かい合ってから何分が経過しただろうか。俺はただひたすら先輩に語りかけていた。沈黙は金に対して雄弁は銀と言うが、今はとにかく会話のとっかかりが欲しいところだ。そこから交渉に話を持っていきたい。


 ちなみに最終手段として力づくという選択肢もあるが……この先輩から伝わってくるオーラが明らかに強者のソレなのであまり下手なことはしたくない。所謂『あいつワシより強くね―?』状態である。


「今日中に引っ越しの準備終わらせたいんですよ」


「……」


「明日は構内を見て回る約束があるんで」


「……」


 しかし先輩は反応を返してくれない。銀色の髪一本すら揺れない。動いているのは瞬きをしている瞼くらいなものだ。デーモンな小暮さんに蝋人形にされたわけでもあるまいに……


「トランクも寮の中に置きっぱなしだし早く戻らないと」


「……」


「まあ大したもんは入ってないんですけどね」


 俺がタハハと笑った所でやっと先輩が反応を返してくれた。僅かだけ口を開き「……大丈夫」と囁くような声を発する。


 すぐさま俺は「何が大丈夫なんですか?」と質問する。すると先輩が王座から立ち上がった。銀髪がサラリと揺れ、特注品の白磁の様な左手が俺に向かって伸ばされる。幻想的とすら言えるその動きに、俺はまるで頬を愛撫されているような錯覚を起こす。


「……いっしょ」


「『いっしょ』?……どういうことなんですか?」


 ポーっとする頭でなんとか俺は言葉を絞り出す。もう一人の冷静な自分が「なんかヤバイ」警報を鳴らしている。もう一人の自分は「どこでもいっしょ?」などと馬鹿な事を言っている。


「……」


 先輩はスゥっと息を吸い込んだ。


「キミトさんはわたしとここから学校に通うという意味です言い換えるならば同棲という意味ですもちろんこれはただ一緒に住むというわけではなくゆくゆくはキミトさんとわたしが結婚する前段階としての同棲です本当はこんな事しなくても初めてあの曲がり角でぶつかった時から相性抜群なことは解っているんです今朝の占いでも蠍座の人は運命の人と出会えるって言ってましたしね所で話は変わりますが結婚式は和装と洋装どちらがお好みですかわたしとしてはキッチリと決めたスーツのキミトさんも見たいのですが紋付袴のキミトさんも想像するだけで頬が緩んでしまいますそして結婚式では互いの家族だけではなくお世話になった人々いいえ全校生徒をお呼びしましょう私たちはきっと幸せな夫婦になれますよ父も母も妹も喜んでくれるはずです衣食住については気にしなくても大丈夫ですよこう言っては何ですがわたしもヒーローとしてそこそこの蓄えはありますですがあえて希望を申し上げるとすればマンションではなく一軒家に住みたいですね大きくなくても構いませんその二人の愛の巣を見上げて幸せそうなキミトさんの横で大きくなったお腹をこれまた幸せそうな顔でさする私が見えますよ子供はもちろん一姫二太郎ですよく勘違いされるのですがこれは姉と弟一人づつという意味ですいえキミトさんがもっと欲しいというのであれば野球チームでもサッカーチームでもラグビーチームでもわたし的にはオッケーですペットは犬もいいですけど猫もカワイイですよねいっそのことどちらもという選択肢も有りだと思いますちなみにわたしをペットにしてもらっても構いませんよきっと素敵なペットになりますたっぷり愛情を注いでくださいねもしもキミトさんが是非にというのであれば逆にわたしが飼い主になってあげてもいいですちなみにご趣味はなんですかわたしは読書と裁縫と料理です読書は基本的になんでも読みますが特に恋愛小説を読みますね愛すると男女が結ばれてハッピーエンド素敵ですよね胸が暖かくなります逆にホラーは苦手です他には意外に思われるかもしれませんが漫画も結構読むんですよ最近だと俺様ティーチャーがお気に入りですでもコレは恋愛漫画ではありませんねすみません裁縫については昔から厳しくしつけられてきましたので例えキミトさんが制服をボロボロにしてしまったとしても一晩あれば新品同様のピカピカにしちゃいますただし制服のボタンは特注の発信機付きなものにしてもよろしいでしょうかよろしいですよね別にキミトさんが浮気をするとかそういう事は考えておりませんむしろ1番の理由はキミトさんの好きなもの好きな風景をわたしも見てみたい聞いてみたい知っておきたいという理由からです料理については趣味というよりは特技の粋だと自負しています昔から相手の胃袋をつかめと言われていますしね当然得意料理は肉じゃがです定番ですねですがキミトさんがお望みとあらばフランス料理のフルコースだって作っちゃいます毎朝ホカホカのご飯に湯気を立てる味噌汁そして肉じゃがを食べてごちそうさまをしたキミトさんが歯を磨いてカバンを持って靴を履いて玄関に立ってわたしに対してオイデオイデするのですよわたしがなぁにアナタと近づくと素早く唇を奪っていってきますと爽やかな笑顔と涼やかな声を残してキミトさんはおでかけ残されたわたしは呆然としたあと頬を赤らめてもうっと言うのですそしてここでトラブル発生キミトさんがお弁当を忘れていますわたしはすぐさまキミトさんの会社へお弁当を届けるのですが同僚や上司に冷やかされてキミトさんは苦笑気味わたしも申し訳ないなぁと思いつつも皆さんからお熱いねおしどり夫婦なんて声をかけられてまた頬を染めてしまいますああでもおしどりは毎年相手を変える糞鳥でしたそうですねここは一夫一婦制の白鳥に致しましょうそうしましょうそして夜になってキミトさんがただいまの声とともに帰ってきたらわたしはおかえりなさいませと出迎えます食卓に用意されているのは全てキミトさんの大好物です今日は何か良いことがあったのかとキミトさんは首を傾げるのですがわたしは微笑みながらこう答えるのですわたしはキミトさんにあったその日その時その瞬間から今までもこれからもずっと私には良いことが続いているのですよっとそんな私をそっ後ろからと抱きしめるキミトさん俺もだよという言葉にわたしもキュンキュンしてしまいますそしてわたしはキミトさんの手に自分の手をそっと重ねて新婚三択を囁きます新婚三択とはご飯にするお風呂にするそれともというものですねキミトさんは最後に一番好きなものを食べるタイプですので一緒に食事一緒にお風呂ときまして最後に1番の大好物わたしをベットの上でペロリとですが先ほども申し上げたとおりキミトさんの希望によってはわたしがキミトさんをペロリと言えこういう場合はペロリではなくペロペロとキャンディのようにキミトさんのうまい棒を」


「長いわよ!」


「ぎゃふん」


 ゴスンっという音が雲の宮殿の中に響く。いつの間にか先輩の後ろに出現していたリーナマリーが痛恨のチョップを喰らわせたのだ。


「……いたい」


「清愛、急に饒舌になるクセ、キモチ悪いから治しなさいって言ったでしょ!?」


 頭をおさえて恨めしげな視線を向けている清愛と呼ばれた先輩に対して、リーナマリーは腰に両手を当てて言い放つ。加害者のくせにすげぇ態度だな。「死んだあんたの家族だって、きっとそんな事は望んでいないはずよ!」とか言っちゃうタイプなのか?


「……ひどい」


「ヒドいのは清愛の方じゃない! 人のものを勝手に取ろうなんて!」


 王座の近くで言い争ってる二人に対して「おいなんか俺の人権がヒドい目にあってんぞ」とツッコミを入れる。するとリーナマリーがくるりとコチラを向いた。そしてツカツカと俺との距離を詰めてきた。つま先とつま先が向き合ってできた幅は数センチ、ロケット型の胸が俺の胸板でムニュンと潰れる。


「フンよく言うわよ! 清愛のスキルにあてられて鼻の下カピパラみたいに伸ばしてたくせに」


 スキル? って言うことは先ほど頭がポーっとしてきていたのは先輩のスキルが作用した結果らしい。いや、それだけとも言い切れないか。そのスキルを知っているリーナマリーがこう言ってるわけだしなぁ……俺はそこまで考えて話を逸らすことにした。藪をつついてヤマタノオロチを出すこともあるめぇよ。


「あー、ところであの清愛って先輩はリーナマリーの知り合いなのか?」


「えっ!?」


 俺の急な質問にしどろもどろになるリーナマリー。「そんなことはどうだっていいでしょ」とか言い出さないあたり真面目で素直だよなぁ。


「いや知り合いというか何というか、生まれた時からの知り合いというか……」


 後ろで先輩が「……わたしモテカワガール」と呟く。それをキッと先輩を睨んだリーナマリーの口から衝撃の言葉が零れ落ちた。


「姉さんは黙ってて!」


「え……姉さん?」


 俺が単語を復唱すると、リーナマリーは『しまった』という感じで口に手をやる。そのあとすぐ観念したのか「バレちゃったかぁ」と言ってため息をついた。


「キミト、紹介するわ。西園寺 清愛せいあ、私の姉よ」


「……え?」


 一拍置いてやっと言葉の意味が理解できた俺の「えええええええ!?」という声が雲の宮殿に響き渡った。


■目標「入寮しよう」

■経過「この人がリーナマリーの姉さんだって!?」

西園寺 清愛

「……2016文字の告白……届いた?」


「……リーナマリー……祝いに来てくれた?」

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