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第5話  4月 1日(金) いつか・きっと? そんなんじゃ俺の屍は超えられないぜ?

現在の所持スキル

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④そこそこの料理人の調理

⑤そこそこの魔法使いの魔法

●目標「入学式に出よう」

●詳細「新入生代表挨拶というものがあるらしいので、それを手伝えとのこと」


 俺のコピースキルは便利だが色々と欠点も多い。まずどこにスキルが上書きされるかはランダムだし……


『こらああああ! 戦え村主いいいい!』『リーナマリーさんだけ戦わせるなんてサイテー!』『四八(仮)のソフトで首斬られて死んじまえー!』


「はいはい死んだ死んだ」


 スタジアムの壁にもたれかかって戦いを傍観している(ように見える)俺に対して罵声が飛ぶ。ペットボトルも飛ぶ。ペットボトルロケットも飛んできた。俺がこれほどまでにブーブー言われているのには当然理由がある。


「なかなか……やるじゃないっ!」


 リーナマリーが俺の近くに弾き飛ばされて来た。真新しかった制服は既にボロボロになっている。しかしリーナマリーはすぐさま立ち上がり黒い塊をにらみつける。その目からは全く光は失われていない。これと対比されちゃ罵声も飛ぶよなぁ。俺が苦笑しているとリーナマリーがちょうど俺にしか聞こえないくらいの音量で話しかけてきた。


「見た感じはどう?」


「あのエウテュスの色ってイカスミパスタを食べたあとの――みたいだな」


「下品ね、せめてカリントウとでも言いなさいよ」


「お前……カリントウ製造してる人に謝れよ」


「ならキミトは全人類にゴメンナサイしないといけないわね」


「その発言はアイドルヒーローとそのファンがブチ切れるからやめとけ」


 肩の力が抜けたのかリーナマリーがフフッと笑う。俺もヘッヘッヘと笑う。傍から見れば作戦会議をしているように見えるんだろうなぁ。


「それで、残りの時間は?」


 リーナマリーが本題に入った。


「とっくに過ぎてるぜ」


「ちょ、なんでそれを早く言わないのよ!? 私ボロボロになってるのよ!?」


「アホか、キッカリ3分で動き始めたらコピーの条件バレバレになんだろうが」


 リーナマリーが「へぇ」っと意外そうな顔をする。


「……キミトも色々考えてるのね」


「どういう意味だよ?」


「もっと『俺天才~お前雑魚~』とか言ってスキルに頼り切ってる人間だと思ってたわ」


 その言葉を聞いて俺は「よく誤解されるんだよな」と笑う。そして俺が先ほどまでもたれかかっていた壁を指差しながら言った。


「『村主公人は決して天才ではありません。ひたむきなヒーロー馬鹿の活躍はこちらに座ってご笑覧ください』ってな」


「……それじゃあ見物させてもらうわね」


 リーナマリーはそう言って壁にもたれかかり、ズルズルと腰を下ろして一息ついた。かなり疲労している。それだけエウテュスとの戦いはキツかったのだろう。


「なんだカスが雑魚に交代か?」


「あぁ、起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてる」


 ズシンズシンと黒い鱗で体を覆ったエウテュスが近づいてくる。先ほどの戦いで思ったのだがエウテュスの動きは遅い。身体能力だけ見ればリーナマリーの圧勝だろう。しかし、リーナマリーの攻撃はこの黒い鱗に全て跳ね返されていた。それでも段々とリーナマリーの攻撃力は上がって来ていたので、ゆっくりと余裕を持って戦えば勝てたとは思う。だがまあこういう輩には俺のほうが確実かつ手っ取り早い。


「戦闘カテゴリーの上位二人とは言え所詮は一年レベル、この鉄壁の守りは崩せまい……さあ愉快なゴミ共、チェックメイトだ!」


 エウテュスが勝利を確信した笑みを浮かべている。


『さあリーナマリーさんの猛攻を受けきった【漆黒の守護者】カサルティリオ エウテュスが新入生二人を壁際に追い詰めました!』


「この守りで天下を取り、僕はいつか西園寺 竜王だって超えてみせる!」


 エウテュスは右腕を挙げてグッと拳を握る。なかなかに決まっているポーズと台詞だ。きっと昨日の夜から練習してたんだろうな。


『ウオオオオオオ!』『いいぞカサルティリオ エウぬぅス(噛んでる)』『やっちまえカエサルマリオ セリヌンティウス!(間違ってる)』『サルエロス頑張れー!(もはや覚える気がない)』『言いにくいんじゃボケエエエエ!』


 上級生側の観客席は盛り上がっている。そこに冷水をぶっかけたのは前に進み出た俺である。


「『いつか』なんて夏休みの宿題前にした小学生みたいなこと言ってんじゃねぇ。だからお前は三年になっても雑魚なんだよ」


 シーンとなるスタジアム。


『コノガッキャアアアア!』『離せ! 乱入して右ストレートでぶん殴る!』『お前まだ自分が死なないとでも思ってんじゃねえだろうなああああ!?』


 一拍置いてから上級生の席から大絶叫。それだけ今の自分の現状に不満を持った上級生がいたのだろう。俺の後ろでリーナマリーがため息をついている。


「明日からのキミトの靴箱が楽しみね。きっと靴の中に大きめのカレーパン入ってるわよ」


「ひどい先輩だなー」


 俺はしれーっと流しながらエウテュスに近づいていく。近くで見上げると結構でかいな。


「よぉアンタ、守りに重要な要素って知ってるか?」


「はぁ?」


 エウテュスは眉をピクリと動かす。


「質問を質問で返すぞ糞野郎。釈迦に説法って知ってるか?」


 俺は『疑問文には疑問文で答えろと皇樹高校で教えているのか?』と言い返したかったがグッとこらえて話を続ける。


「まあ聞けよ、愚者は喋り賢者は聞くだ。守りに必要なのは体のチームワークだ。右腕、左腕、右足、左足、そして脳、全ての器官の統率を取って心を守る。それが鉄壁ってもんだ」


 鼻で笑ったエウテュスが俺に右拳を振り下ろしてくる。


「ならテメェは何も守れやしない雑魚虫じゃねぇか! そのヤワな手足で何を守る!? それでよく僕にふざけたセリフをはけた(ボキッ)……ギャアアアアアッ!?」


 エウテュスの言葉は途中で悲鳴に変わった。なぜなら俺がエウテュスの右拳を殴り飛ばしたからだ。握りしめていた親指の一本くらいは逝っただろう。


「目には目を、黒の鱗には黒の鱗だ。同じ硬さの物体同士が衝突すればより強く、より早いほうが勝つ。所謂『握力×体重×スピード=破壊力』ってやつだな」


 俺はエウテュスの黒の鱗をコピーして右手に纏わせ、リーナマリーの身体能力で殴ったのだ。先ほどまでの戦いでエウテュスよりリーナマリーの方が身体能力が高い事はわかっている。体重じゃ負けているがそれ以外ではトリプルスコアくらいの差はあるだろう。


 のたうち回るエウテュスに近づき、俺は「さて、アンタはいつか西園寺竜王を超えると言ったな……」と笑って掌を伸ばす。


「俺 は も う お 前 に た ど り 着 い た ぞ」


 俺がグッと拳を握りしめるとエウテュスの顔が恐怖に歪んだ。


「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」


 カサルティリオ エウテュスの悲鳴がスタジアムの空に響き渡ったあと、滞りなく入学式は始まった…………ようだ。


◆◆◆◆◆◆


「ちょっキミト痛い痛い……痛いって言ってんじゃないの!」


「おいバカ動くな怪我人、傷薬ってのは染みるもんグェッ!」


 リーナマリーのつま先がドボォっと俺の腹部に刺さる。先ほどの戦いからまた成長したのか想像以上に痛い。


 結論から言えば俺は入学式には出席できなかった。ボロボロになったリーナマリーをスタジアムの医務室まで運んだためである。それでも「まだ時間はある」とすぐにグラウンドに戻ろうとしたのだがスタジアムのセキュリティを乗っ取ったリーナマリーに鍵を閉められ治療行為の手伝いを命ぜられて今に至るというわけだ。


「それにしてもキミトがあのカサルティリオ エウテュスを倒すなんてね」


 傷薬を片付けていると後ろでポツリとリーナマリーがつぶやいた。俺は振り向いて疑問に思っていたことを聞いてみる。


「とは言ってもあのままお前が戦っても勝てただろ?」


 しかしリーナマリーは首を振る。


「ううん、それじゃ私の負けなの」


「トンチみたいな話だな」


「あの戦いには私じゃなくてキミトに勝ってほしかったのよ」


「……どういう意味だ?」


 リーナマリーは口を開いて何かを言いかけた。しかし、すぐさまフッと笑って首を左右に振る。そして「……なんとなくそうしたかったのよ」とだけ言って手に持ったリモコンを操作した。結局、俺の質問に対するリーナマリーの明確な解答は無く、医務室にはガチャリと扉が解錠された音だけが響いた。


■目標「入学式に出よう」

■結果「極上の新入生代表挨拶を行った」

カサルティリオ エウテュス

「僕を『声に出して読みたくない名前ナンバーワン』とか言ったやつは誰だ!? 粛清してやる!」


「クッ……高2の夏に膝に矢さえ受けていなければ……」

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