第37話 4月 5日(火)絢爛な舞踏
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②清愛先輩の愛が力
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「スゴーイ! マリオ姉チャンッテ銃弾ヲ避ケルノガ得意ナFRIENDSナンダネ!」
目の前で繰り広げられている光景にコッキーの口から知能指数が低い言葉が漏れる。だがまあ俺も凄いってのには同感だ。
「ほんと……とんでもないよなぁ……」
リーナマリーは五面から一斉に発射された銃弾の壁を、たった一発の跳弾で無理やりこじ開けたのである。それはもはや魔術的な芸当だった。
確かに俺が狙われた時もこの方法は考えついたし、ノープレッシャーの状態ならば同じ事ができただろう。しかし、俺のターンでタイミングを図っていたとはいえ、即座に、自分のターンで命をかけて、成功させる自信は俺には無い。
『残り一秒! これなら行けそうだね!』
燕さんの歓声をかき消すような機械音声が部屋に流れる。
『迎撃モードレベル∞! ∞! ∞!』
「エエーッ無限大ッテ何ソレ!?」
「バグった初代ポケモンかよ……」
俺が頭を抱えた所でゴゴゴゴゥンゴゥン! と不規則な轟音が鳴り響いた。
「……ランダム?」
先輩の言うとおり、今度は全ての穴からデタラメなタイミングで銃弾が飛び出し始めた。それを見たコッキーがアワアワしている。
「アンナノ絶対オカシイヨ!」
『いや、見てみなコッキー!』
燕さんの指差す方では……まだリーナマリーは生きていた。それどころか、ランダムに降り注いでいる(ように見える)弾丸の雨の中を、踊るようにスイッチに近づいていく。タンゴ、ワルツ、コサック、フラダンス踊りの種類は様々だ。
そんなリーナマリーの姿はまるで……まるで……
「エーット……」
『最適解の動きをしているんだろうけど……』
燕さん達が言い難そうにしていたので俺が言葉を継いだ。
「一周回ってアホみたいだよな」
「……うん」「ダネー」
堰を切ったように先輩とコッキーも頷いた。まあ仕方ないよな、天才ってのはちょっと理解から外れてるもんだって言うし……
さて、静まり返る俺達とは違って、部屋の中には限界を超えたレベルですら銃弾を避けられてしまっている機械音声が狂ったように鳴り響く。
『∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞! ∞!』
しかしリーナマリーには当たらない。カポエラ、リンボーダンス……多彩な動きで銃弾の中を進んでいく。
「……」「……」『……』
静かな女性陣、これはリーナマリーのスーパーな回避行動を見ての緊張……では無いだろう。赤くなった顔、そして口からたまにププッと息を漏らしているのを見ればわかる。
「い、いやーおかげでこの階もクリアーできそうだな!」
俺は大げさにパンっと手を合わせて「ありがたやー」とリーナマリーを拝む。しかしその人が真剣であればあるほど笑いの神様は降臨するものである。
「∞なんて簡単に名乗っていいものじゃないわ!」
リーナマリーがサタデーナイトフィーバーのジャケットのポーズを決めながら言い放った言葉が聞こえた途端、女性陣の方から「ブホォッ!」という音がした。
「さ、さすがリーナマリーだぜ!」
噴き出してしまってあられもない表情をしている可能性があるコッキーや先輩達への配慮から、俺はリーナマリーの方に視線を固定して大きくガッツポーズを取る。
そして、こちらの状況などは解かりはしないリーナマリーは踊り終え、ドヤ顔で赤いスイッチを押すことに成功したのであった。
◆◆◆◆◆◆
「い、いやぁすごい動きだったな」
「フフーン、そうでしょそうでしょ♪」
一分後、俺は階段を登りながらリーナマリーと会話していた。スイッチを押したらすぐに扉は開いた。
そして、先程ツボに入ってしまったコッキー・先輩・燕さんの三人は未だに無言で顔をまで伏せながら後ろをついてきている。そんな三人を見ていると、ちょっとしたイタヅラ心がムクムクと……
「それでリーナマリーにちょっと聞きたいんだけどさ」
「あらなぁに? 気分の良い今ならスリーサイズ以外なら何でも答えてあげるわよ?」
「あれ江頭2:50の真似だよな?」
「え?」
後ろから「ブホォッ」と音がした。リーナマリーは振り返って三人を心配する。
「ちょ,ちょっとどうしたの?」
「エッ!? ナ、何デモ無イヨー?」
『い、いや本当に何でもないんだよ!?』
「……うん、何でもない」
そんな三人の姿を見たリーナマリーの感想は一言だった。
「変なの」
どうやら三人の笑いが自分の先程の動きと繋がっているとは露程にも考えていないらしい。
いやはや、天才ってのは理解力も常識から外れてくれてて助かったぜ。
そんなこんなで俺達は66階へと到着した。
◆◆◆◆◆◆
「なんだなんだ66階は、65階にあった●の代わりに漢字が書かれてるぞ?」
部屋に入ってグルリと見渡したまんまの感想がコレである。
「……2136個」
「ラブオ姉チャン凄ーイ!」
俺が「1,2,3」とやっている間に、先輩は全ての漢字を数え終えていたらしい。
「あれ、でも2136個ってどこかで聞いた数のような……」
その数字を聞いたリーナマリーが首をひねる。
「リーナマリーもそう思うか 俺もなんだよ」
実は俺もその数字には聞き覚えがあった。
「なんだっけな、FFTで2136回盗めを試みれば源氏の小手が盗めるんだったっけ?」
「公人がそう思うんならそうなんでしょ 公人の中ではね」
「……嘘はよくない」
リーナマリーからは冷ややかな視線、姉からは「めっ」とお叱りの言葉をいただいてしまったので俺は素直にごめんなさいした。
俺が頭を下げていると、横で燕さんが『ねえねえ公人ちゃん。ちょっと思いついたんだけどさ』と話しかけてきた。何だ何だ俺に対する素敵な処刑法でも考えついたのか? と思ったがそうではないらしい。
『2136個って常用漢字の数じゃないかい?』
「あーそういえばそうね!」
先程から悩んでいたリーナマリーも疑問が氷解したようだ。しかし、まだ解けていない大きな疑問が残っている。
「しかし何でこの部屋の壁に常用漢字がズラーッと書かれてるんだ?」
「ネー! ココニ何カ書イテアルヨー!?」
見ると常用漢字の謎解きに参加していなかったコッキーが向かい側で手招きしている。
近づいてみるとそこには64階の迷路の時のような重厚そうな扉があり、そこには文字が刻んであった。
『この部屋の漢字を4文字使った四字熟語を入力せよ。さすれば道は開かれん』
「これはまた楽しいことになりそうね」
リーナマリーはそう言って肩をすくめたのだった。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「焼肉定食! 時給千円! 年金生活! 田村正和!」
西園寺リーナマリー(お腹をくぅと鳴らしながら)
「馬鹿なこと言ってないで考えましょ」
(……キミトのせいで焼肉に行きたくなってきたわね)




