第36話 4月 5日(火) リーナマリー様はすりぬけたい 天才たちの戦闘頭脳戦
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②清愛先輩の愛が力
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
『対象測定……迎撃モードレベル……9』
「フッフッフ、キミトの4.5倍なんていい判断じゃない」
機械音声を聞いたリーナマリーが不敵に笑う。
「また弾丸が飛んで来るかもしれないから皆は階段の方にいてちょうだい」
「ハーイ!」「……わかった」『無理するんじゃないよ?』
女性陣が素直にお返事、一方俺は質問を質問で返した。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
まあリーナマリーがそう言うならそうなんだろう。世界一安心できる『大丈夫』だ。そして前を向いたままリーナマリーは右手で三本指を立てる。
「何だそれ? 実践的な目潰しか?」
実践で有効な目潰しの方法は2種類あると聞いたことがある。1つは5本の指で目を払いにいく方法。コレは当てやすいがダメージは低めだ。そして2つ目は3本指の中指を鼻筋のリードとして、人差し指と薬指で潰しに行く方法。コチラは当てにくいがダメージは絶大である。
「ち、違うわよ! コレだけの時間があればスイッチが押せるって言ってんの!」
リーナマリーが振り返って右手を左手で指差しながらプリプリし始めた。
「……3時間?」
「いやいや先輩、そんなわけ無いでしょ。リーナマリーの実力をあまり舐めないでください……3日だよな」
いの一番にボケる先輩。そしてボケ乗った俺に対して、リーナマリーからツッコミが入る。
「世界の果てまでぶっ飛ばすわよ? そんなに時間かかったら動画の再生回数が1億超えちゃうわよ」
「ジャー30分?」
コッキーからだいぶ現実的な数字が出たのだが、リーナマリーは「チッチッチ」と指を振った。
「惜しいわね、正解には割る600が必要よ」
『っということは3秒かい?』
リーナマリーが腕を組んで満足気に頷く。
「そのとおり。でなきゃあんな自信満々なポーズしないわよ」
自信満々なその姿にコッキーが「オー」と感嘆している。
『ねぇ公人ちゃん、本当に大丈夫なのかい?』
心配そうな燕さんが俺に耳打ちをしてきた。
「リーナマリーが『大丈夫』って言ったんですし大丈夫だと思いますよ」
俺は階段へ腰を下ろしながら答える。
『おや、意外と信頼してるんだね?』
俺は苦笑した。どうやら他人から見た俺とリーナマリーの関係は信頼関係が希薄に見えるらしい。俺は階段から頭を出してリーナマリーを見やる。
「こういう場合、俺の実力はリーナマリーに遠く及びませんからね」
「……そうなの?」
俺の言葉は先輩にとっても意外だったらしい。ちょこんと右隣に座って俺の説明を待っている。
「えーっと、簡単に説明すると、まず俺もリーナマリーも答えに到達する点では同じです。だけど俺が答えを100個作り出すのが得意なのに対して、リーナマリーは答えへの道を100通り導き出すのが得意なんですよ」
『へー』
出会って一週間ほどだが割りと的を得た分析だと自負している。これは性格や知能レベルの違いというよりは、持っているスキルの差から来る考え方の違いである。
「ラブオ姉チャン、ソーナノ?」
左隣に陣取ったコッキーが俺の頭越しに先輩と会話する。
「……リリーについては、そう」
「すでにリーナマリーの目にはスイッチを押した自分の姿が映ってんだと思うぞ。だから『大丈夫』って言ったんだ」
俺の話を聞いた燕さんがカッカッカと笑う。
『公人ちゃん、まるでリーナマリーちゃんのファンみたいだねぇ』
「……あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「フェッ!?」「……!?」『ええ!?』
三人を驚かせた後、俺は「冗談ですよ」と笑う。そんな会話をしていると部屋の方から声が聞こえた。
「それじゃあ……行くわよ」
視線を戻した先ではリーナマリーが両手を床につけてクラウチングスタートの構えをとっていた。
そして、リーナマリーの三秒間が始まった。
◆◆◆◆◆◆
走り出したリーナマリーに呼応するかのように『ゴゥン!』という轟音が部屋を震わせた。三方向から撃たれた銃弾がリーナマリーに向かって殺到する。
「……避けれる?」
先輩が俺の肩を人差し指でトントンと叩く。
「無理ですね」
俺は視線を前に向けたままスパッと答えた。
「ソーナンダ?」
『公人ちゃんなら「こんなの朝飯前です。できない奴は皇樹高校に入る資格ゼロですよ」とか言いそうなもんなのに』
「二人して俺の事を何だと思ってくれてんですか」
『ゴメンゴメン。公人ちゃんは裏表のない素敵な人だったね』
「まったく……ってあれ?」
さて、話を部屋の中に戻す。リーナマリーは走るために握っていた左手を緩め、その中にある何かを右手に受け渡したところだった。
「マリオ姉チャン何カ取リ出シタヨ!?」
『何だいありゃ!? 金属みたいに光ってたけどあんな小さいモンでどう防ぐってんだい!?』
驚く三人の横にあって、俺だけは「ああ、なるほど」っと、リーナマリーの手の中にある物の察しがついた。そして俺の予想通り、リーナマリーが銃弾の数メートル前でピタリと止まる。
「まあそうするよな」
予想的中である。
「ハァッ!」
リーナマリーは素早く手を動かしたあと、ダッダッダっと大きく三歩後方に退く。
「ラブオ姉チャン後退シテルヨ!?」
『おいおいおい、マズイんじゃないのかい!?』
不思議な行動に狼狽する二人。先輩は先輩で祈るように手を合わせた。
「……リリー……」
しかし、リーナマリーは神すら恐れぬ行動に出る。
「よしっ!」
そう言って銃弾の壁に突っ込んだのである。
「……ッッ!?」『……ッッ!?』
あまりにもショッキングなリーナマリーの行動にコッキーと燕さんが顔を覆って声にならない悲鳴を上げている。
「大丈夫だって、見ろよ」
俺の言葉に先輩は顔を上げる。そこには元気に走り回るリーナマリーの姿が!
「……すり抜けた?」
そう、リーナマリーは無事に銃弾の壁を突破したのだった。
「ドドドドドウシテ!?」
「落ち着けコッキーよく見るんだ。まだ終わってないぞ。それどころか……」
俺の声を遮って合成音声が部屋に響く。
『迎撃モードレベル10! 10! 10!』
そしてガガシャンっと音。
『ちょっ!? 天井と床に穴が出てきたよ!? これじゃ四面どころか五面楚歌じゃないのさ!?』
燕さんの言うとおり、部屋の中には前右左の壁に飽き足らず、天井や床にまでに無数の●が現れていた。
しかしそれを見てもリーナマリーは速度を緩めない。むしろ加速していく。そして相も変わらず自信満々なセリフが聞こえてきた。
「フッフッフ、良いじゃない。皇樹高校 勉強一位、西園寺リーナマリーの実力、見せてあげるわ!」
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「まあ予想はしてたしアレしか方法がないのは確かなんだが……マジで実践でやるかね普通?」
村主 公人
「覚えてないかもしれないけど俺は5位、ほぼ全問正解でこの順位だ」
「っていうか100点満点の科目で新しい解法見つけて120点取るような奴に勝てるわけ無いだろ! いい加減にしろ!」




