第33・7話 ガチ勢は怒らせてはいけない
「三番目はワタシ、西園寺リーナマりーよ。正直ちょっとアレなことをやってるから……あのその……キミトには内緒にしてくれると助かるわ」
『リーナマリーちゃん!』
「はっ!? え、ツバメ!?」
いきなり現れたツバメの姿に速度が緩みかけた。しかしワタシはまた速度を上げる。
「コッキーっと一緒だったんじゃ……」
ここまで言いかけてワタシはこの状況から導き出される一つの可能性に気づいた。
「テニス以外でも時が止められるようになったのね?」
『お、流石だね』
ツバメがにやりと笑う。どうやらワタシの理解力を試していたらしい。ツバメのこういう所はキミトに似ていると思う。
こういう挑戦には受けて立つのがワタシだ。ワタシはそう思った理由をツバメにクドクドと説明し始めた。
「コッキーの悲鳴を聞いたツバメがそれを放っておいてワタシの所に来るわけ無いわ。でもツバメは瞬間移動みたいな速さでここに来た。っとなると答えは1つ『テニス以外でも時が止められるようになったツバメはコッキーの安全を確保。その後ワタシにしてほしい事があってここに来た』そうでしょ?」
『いやー本当にもう、公人ちゃんといいリーナマリーちゃんといい、優秀でお姉さん助かるわぁ』
ツバメが満足気にカッカッカと笑った。
「それで何をすればいいの?」
ワタシはすぐさま本題に切り込む。
『次の角を曲がった向かいの壁にネズミが刺さってるから処理をお願いしたいんだよ』
「それはまた……自分の牙が頭に刺さるバビルサみたいなことになってますね」
ツバメの説明にワタシは首をかしげるばかりだった。
◆◆◆◆◆◆
『ふざけんなクソッタレ! なんでスーパースターの僕がこんなBUZAMAな姿を見せなきゃならないんだヨ! これあのクソ犬とかそこら辺の奴がする格好だロ!』
到着すると、そこにはなぜか歯が壁に刺ったネズミの姿があった。その近くにはソレを眺めるコッキーの姿もある。
『おー刺さってる刺さってる。作戦は成功だな』
「ほ、本当に無様な格好ね」
あまりにも変な格好をしているネズミの姿を見てワタシは少し笑ってしまった。
「ア、燕! マリオ姉チャン!」
ワタシとツバメに気づいたコッキーがパァッと顔を明るくさせる。
「見テ見テー! 燕ト頑張ッテ捕マエタヨー!」
そのコッキーの台詞をかき消すような甲高い声が迷路に響く。
『ハハッ、だが残念だったナァ! カードキーは僕の耳の中に埋め込まれているのサ! どうだい? スーパースターの僕を……』
ワタシはその声を無視しながらコッキーの頭を撫でる。
「偉いわねコッキー、それじゃあキミトの所に行って一杯褒めてもらいなさい」
「エッ、デモ?」
微笑むワタシの後ろから、これまたニコヤカなツバメの声が聞こえた。
『大丈夫だよコッキー、後はリーナマリーちゃんに任せな』
「ウ、ウン……行ッテキマース」
少し躊躇していたコッキーだったが、私達の笑顔の裏にある『配慮』を察したようだ。ツバメに促されてタッタカターっとキミトの元に走っていった。
「賢い子ね」
その様子を見てボソッとワタシは呟く。ネズミはまだ騒いでいる。
『何が賢いだよバーッカ野郎どもガ! 僕のカードキーを取り出す解決の糸口すら見つけられてねーだろーガ!』
ワタシはネズミの頭をガッと掴んだ。
『ハ、ハハッ何をするのサ?』
「良いことを教えてあげるわクソネズミ」
指にゆっくりと力を入れる。
『アダダダイタイイタイイタイ!』
「ワタシは舞浜の遊園地が大好きなの」
『だったらなおさら僕にこんな事をするなんてオカシイダロ!?』
ネズミの言葉を無視して静かにゆっくりと語る。
「その中でもアナタがほざいていた『クソ犬』が大好きでね?」
頭に食い込んだ指の先からバチバチと音が鳴りはじめた。
『ヤ、ヤメアババババ!』
「許せないわ……ええ許せないったら……」
ワタシは一気に力を込める。
『キャー! スーパースター殺しイイイイイ!』
「たとえ格好と声が似ていたとしても……アンタなんかあのキュートなワンコのご主人様として認めないんだからあああああ!」
空中でバキャーンと砕けた破片の中から、ワタシはカードを判別しシュパッとキャッチした。
「全てのテーマパークを制覇した女の子を舐めないことね」
そう言ってワタシはキミト達のいる方角へと歩き出したのだった。




