第33話 4月 5日(火) 恐怖体験のほうが好きだった
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②清愛先輩の愛が力
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「結構早く移動してるな」
壁を挟んで向こう側にいるネズミを透視しながら俺はまた一つ通路を塞いだ。
『ハハッ! ピカッとしたヒラメキを持った僕を捕まえようったってそうは行かないでチュウ!』
コンクリの壁を作っている最中、背後をネズミが煽りながら通り過ぎた。振り返ると普通の視野の範囲にはネズミの姿はなく、透けている壁の向こうを走るネズミの姿をかろうじて捉えることができた。
「待テー!」
その後をコッキーが追う。
「方角は北か。燕さんの方だな」
『ネズミはアタシを人間だと誤認して方角を西に変えたよ!』
「もうすぐそっちと合流するわ!」
「……もうすぐ北側通路閉鎖」
メガネを通じて次々と情報が入ってくる。その情報を頭のなかで描く地図に落とし込んでいき、俺はニヤリと笑った。
「よーし後は煮るなる焼くなりコロ助なり、自由にやらせてもらうぜぇ」
◆◆◆◆◆◆
「……北側通路閉鎖」
「サンキュー先輩、俺の方も閉鎖完了だ」
『ネズミと壁を挟んで平行に移動、コッキーと挟み撃ちするよ!』
「オッケー任セテ燕!」
「逃してもワタシが補助するから思い切りやりなさい!」
『そんなに僕を捕まえたいのカイ!? 全くスーパースターも楽じゃないネ!』
作戦は最終段階に進んでいた。俺と先輩により幅を狭められた迷路の中でネズミが必死に逃げ回る。
「なぁにがスーパースターだよ……」
俺は苦笑して自分の作った壁にもたれ掛かった。俺の仕事はここで終わり、あとは元気なコッキー達に任せよう。
「それにしても参ったな、メガネと壁を作っただけでこの空腹か……思ってたよりも先輩のスキルってのは使い所が難しいもんなんだな」
俺はズゴゴゴゴゴとゴジラのような音を鳴らす腹を撫でながらため息を付いた。
「……大丈夫?」
メガネから聞こえてくる先輩の声にはお腹の音が混じっていない。
「先輩は平気なんですか?」
「……経験や勘である程度」
「えーっとつまり、先輩なら効率よく作れる分だけ消耗が少ないってことですか?」
「……うん」
「なるほどなぁ……っとそれよりネズミ捕りはどうなってんだ?」
俺の位置からだとコッキー・燕さん・リーナマリーのネズミ捕りの様子は透視しても見えない。なんとか物理的に見えないもんかと首を伸ばした。
「ンボフッ!?」
そろそろ曲がり角の向こう側が見えそうだぞ……ってところで衝撃! そして俺の視界がムニョンとしたもので塞がれた!?
「終ワッタヨキミトー!」
ウッキウキなコッキーの声と共に柔らかな2つの感触がムニムニと顔に押し付けられる。
「プァッ!?」
俺は少しだけ開放された鼻から大量に息を吸い込む。少しだけ甘い香りがした。
「褒メテ褒メテ!」
しかしコッキーは攻撃(?)の手を緩めない、どころか頭の後ろに手を回してぎゅーっと抱きしめられた。コッキーは体格に似合わずとてもご立派な柔らかいものを持っている。それが形を変えてフニムニペニと俺の口と鼻を塞いでくるものだから……
「し、死ぬ! モガッ! モガーッ!」
俺はペシペシとコッキーの背中をタップした。
『はいはいコッキーその辺で離してやりな』
「エー?」
審判……じゃなくて燕さんのブレイクによって、俺が意識を手放すちょっと前にコッキーが手を離してくれた。俺はゼーハー言いながら新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。
「なにしてんの?」
遅れてやってきたリーナマリーが怪訝そうな面持ちで俺達のことを見ている。
「か、感動の再開ごっこをやってるだけだよ!」
「たかが数分の別行動で何言ってんだか」
照れ隠しに顔を赤くして声を荒げる俺を見て「やれやれ」と肩をすくめるリーナマリー。
「あれ? そっちこそ先輩はどうしたんだ?」
「……壁戻し」
リーナマリーが答えるよりも早く先輩から通信が入る。
「あ、そうか、作ったものを戻せば空腹も収まるんだったか」
そう言って俺は後ろの壁に手をつけて青い光を自分の体に戻していく。それと共に段々と手足に力が入るようになってきた。
「よし、これで少しは動けるようになったな」
確かめるように手をグーパーしたあと俺は立ち上がった。
◆◆◆◆◆◆
「へーこれがネズミの持ってたカードキーかぁ」
迷路を歩きながら俺は白地に●でマークの描かれたカードを眺めていた……見れば見るほどヤバイマークだよなぁ……
「いや、持ってたというか着いてたというか……なんて言ったら良いのかしら」
隣を歩いているリーナマリーが「アハハ」と笑った。
「なんだリーナマリーが言い淀むなんて珍しい。コッキーが終わらせたのにカードはリーナマリーが持ってきたことに関係あるのか?」
「えーっとまあ子供の夢的な面でね……色々あったのよ」
『耳の中に埋め込んであったのさ』
俺が「うーん?」と首をひねっていると、こっそり燕さんが耳打ちしてくれた。
「あーなるほど」
俺は色々納得した。そしてその絵面を思い浮かべないように努力した。
「それにしてもコッキーはよくネズミを捕まえられたな」
鼻歌を歌いながら前を歩いていたコッキーが「よくぞ言ってくれました」とばかりにグルンと振り向く。
「ヘッヘー頑張ッタヨー!」
「おー偉い偉い……っでどうやったんだ?」
両手を上げてピョンピョン跳ねているコッキーの頭にポフポフ叩きながら俺は燕さんとリーナマリーに聞いてみた。すると燕さんが『フッフッフ』と笑った。
『そりゃあもうアタシとコッキーのゆゆうじょうぱぱわー!!の勝利だね』
その横でリーナマリーが肩をすくめる。
「本当に呆れちゃうわよ。あんな場面で二人同時にスキルをレベルアップさたんだから」
「………………………………………………………………は? スキルのレベルアップ?」
俺は聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまう。しかしリーナマリーはさも当然の事を話すかのように言葉を続ける。
「そうよスキルのレベルアップ、さっきも言ったじゃない」
「え? えーっと……」
確かに記憶に検索をかけると、リーナマリーの『へー、キミトにもコピーできないものがあるのね。でもまあきっと多分その内できるようになるわよ』という言葉はヒットする。しかし……
「アレってマジにあることなのか!?」
思わず叫んでしまった俺の横でコッキーと燕さんがウンウンと頷く。
「ウン良ク解カンナイケド、コッキー強クナッタヨー」
『アタシもよく解らなかったけど、コッキーはよりアタシの能力を引き出せるようになったし、アタシはテニスコート以外でも時間を止められるようになったみたいだね』
「キミト……まさかアナタ知らなかったの?」
俺はしばらく口をポカーンと開けていた。そして何とか一言、言葉を絞り出したのだった。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「ア、アンビリーバボー……」
西園寺リーナマリー
「それにしてもあのネズミ……絶対にゆるさないわよ」
「ワタシの……を……だなんて」




