第32話 4月 5日(火) Missing Mouth
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②清愛先輩の愛が力
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「前は気づかなかったけどやっぱり腹が減るもんなんですね」
「……うん」
俺は先輩と分担してメガネを作りだしていた。1つ作るたびに腹の中からオニギリ一個分くらいのエネルギーが抜けていく気がする。やはりこういう特殊な物にはエネルギーを多めに使うんだろうか?
「それじゃあ皆かけてくれ」
俺はコッキーと燕さんにメガネを手渡す。
「ちょっとキミトなんで私だけ瓶底眼鏡なのよ!?」
「あ、それは俺が作ったんじゃないので文句は先輩にどうぞ」
「……イエーイ」
「替えてちょうだい!」
「……やだ」
「じゃあ清愛が今つけてるウェリントンメガネで我慢してあげるわ!」
リーナマリーの伸ばした手が空を切る。意外と運動神経のいい先輩がバックステップで避けたのである。
「……拒否」
「なんですってー!?」
ギャンギャンやり合い始めた西園寺姉妹をよそに、アンダーリムのメガネをかけているコッキーが頭の上に?マークを浮かべている。
「コレデ何スルノー?」
「フッフッフ、リムの横に付けておいたボタンを押すがいい!」
『えーっと、これかい?』
燕さんがハーフリムの上に付いたボタンを押す。コッキーも真似をして押す。すると……
『……おーっ!』「スッゴーイ!」
二人が感嘆の声を上げた。
「スケスケー!」
「ちゃんと壁だけ透けてるか?」
『あ、本当だ公人ちゃんの服は透けないんだね』
こちらを見た燕さんは冗談半分に『残念だねぇ』と笑った。
「……本当に残念」
リーナマリーとの口喧嘩を終えた先輩が、無念の情をため息と共に吐き出している。どう返答して良いものか迷った挙句、俺はスルーして話を進めた。
「さ、さてと、それじゃあニャンコ大作戦を始めるとするか!」
「は?」「……ニャンコ?」「コッキー達猫ニナルノ?」『アタシはどちらかって言うとタチだけどね』
「えぇ……まさかの不評に驚きを隠せないんだが……っていうか燕さん、さりげなく爆弾投下しないでください反応に困ります」
『悪い悪い冗談だよ』
カッカッカと笑う燕さん……俺は臆病なので「言ったことじゃなくてタチだって部分が間違いなんですよね!?」とは聞けなかった。
「それでその……ニャンコ大作戦ってのは何なの?」
「さすがリーナマリー+瓶底眼鏡、真面目だな」
「割るわよ?」
「頭じゃなくてメガネであることを祈りたいもんだなぁ……えーっとニャンコ大作戦ってのは簡単に言えばネズミ捕りって意味だ」
『ネズミ捕りってーと、あのトムってネコがよく挟まれてるやつかい?』
「……トムアンドジェリー」
「違うでしょ」
年長の二人組に対してツッコミを入れているとリーナマリーが正解を答えてくれた。
「あの警察が夜にやってるやつのことね?」
俺は指をパチンと鳴らしてリーナマリーにニッコリと微笑んだ。
「さすが瓶底眼鏡、真面目だな」
リーナマリーがギロリと睨んでくる。顔の高さまで掲げられたゲンコツには鉄板も砕けよとばかりに力が入っているように見えた。
「ワタシは暴力的なツッコミは嫌いなの。だからふざけるのはそれくらいにしてくれると助かるんだけど?」
流石にこれ以上「さっき光線銃撃ってきたじゃねぇか」とか煽ってるとぶん殴られて『神ってる』にされそうなので、俺は素直に説明を始めた。仏になるにゃまだ早いからな。
「わかったよ。それじゃあ簡単に説明するぜ……」
◆◆◆◆◆◆
「キミト、聞こえる?」
迷路の入口側に到着したリーナマリーの声が聞こえる。メガネには透視機能の他に通信機能もついているのだ。
「OK聞こえる、先輩達の準備はどうだ?」
「……ばっちし」「イイヨー!」『ドーンと任せなさい!』
迷路の中で所定の位置についた三人の返事を受けて、俺達はリーナマリーの合図で作戦行動を開始した。
「じゃあいくわよ! 3・2・1……GO!」
◆◆◆◆◆◆
「頑張ッテネー!」
「おう、コッキーも頼んだぞ。まずは絶対にネズミを迷路から出さないようにしてくれ」
入り口すぐのところにいるコッキーと会話を交わした後、俺はデタラメに迷路を走り始める。走り始めてすぐ、迷路の真ん中あたりで出口側から同じように走ってきたリーナマリーと鉢合せた。
「いたか?」
「まだ合ってないわ」
作戦の第一段階は迷路の中のネズミを見つけ出すことである。
「わかってると思うが、あくまで最初は見つけることだけが目的だからな?」
「私は料理する時も手順をすっ飛ばしたりはしないタイプよ?」
「そりゃ安心だな」
そう言って俺達は別れた。俺は南、リーナマリーは西に向かって走る。
透視で迷路全域を見渡すことができれば楽なのだが、この迷路に使われている壁は特殊な構造で作られているためか、一枚透視するので精一杯となっている。
そのため、入口と出口に先輩とコッキー、北側の分岐点に燕さんを配置し、俺とリーナマリーが迷路の中をランダムに走り回るというフォーメーションをとっているのだ。
◆◆◆◆◆◆
しばらく走り回ったところで俺は赤い洋服に身を包んだ二足歩行の黒いネズミと出会った。すぐさま皆に連絡を入れる。
「公人から全員に発信、南東側にネズミ発見」
『ハハッ僕を捕まえに来たのカイ!』
ネズミの身長は50センチほどで、声は甲高い。
「本当におっそろしい姿と声なロボだな……」
俺は冷や汗を垂らした。これはヤバイ、言い逃れできない! 完全にミッ●ーだ!……いや待てよ。俺は視線を相手の顔に移した途端、考えを改めた。顔はネズミ男だ……これなら……なんとか関係ないと言い張れるか!?
『ハイテク・ランニングマシンで鍛えた僕の本気狩レッグで電光石火サ!』
「あ、ちょっと待てコラ!」
俺が「ネタ多すぎだろツッコミきれねぇよ……」とか考えている間にネズミはラビリンスへエスケープしはじめた。
「しょうがねえ一か八かだ!」
俺はそう言ってネズミを追いかけ……ることはせず。先輩のスキルを使ってまず近くの通路をコンクリで塞いだ。
「よぉーし、でかくて精密な銃とかは無理だが、これくらいなら俺にも作れるな」
「それでも凄いですよさすが公人さん普通の人にはできないことを平然とやってのけるそこにシビれるあこがれるぅって奴ですね後もう少しの練習と多大なる愛を持てばきっと私が前に作った雲の宮殿すら作れるでしょうついでに言うなればその多大なる愛は私とともに育むことになればグッドグッドグッドで」
「清愛うるさい発情するのは後にして!」
久しぶりの先輩の長台詞モードにリーナマリーのツッコミが入った。声が少し弾んでいることからリーナマリーが全速力でこっちに向かっていることが解る。
「少シ移動シタヨー」『同じく、ネットの範囲を狭めるよ』
コッキー達からも次々と通信が入る。
作戦は第二段階に移行しつつあった。リーナマリーの話によるとネズミは追い詰められない限りは、俺達から逃げるようにプログラミングされているらしい。なので今度はジワジワとネズミの行動範囲を狭めていくのだ。
「さーて、ミッ●ーの逃げ道は……」
俺はメガネのボタンを押して透視機能をオンにした。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「俺達はトムほど甘くないぜぇ?」
西園寺 清愛
「……透視能力強化できないかな?」
「……やめとこ、リリーにバレたらコワイし」




