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第31話  4月 5日(火) Lの季節

現在の所持能力

①リーナマリーの身体能力

②清愛先輩の愛が力

③狙撃手の狙撃能力

④コッキーのシャーマン能力

⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力

●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」

●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」


「キミト早漏!」


「そ、早漏でもフルメタルジャケットでもねぇよ! そもそも『早漏』自体が俺の素早さに対しての適切な言葉の選択でもねぇよ!」


 追いかけっこに一瞬で負けてご立腹のコッキーに俺はツッコミを入れる。俺達は迷路を進んでいた。


「……必死?」


 先輩のド直球に俺はうなだれた。


「必死にもなりますって……あ、そうだ先輩。64階が63階と同じ広さだと仮定した場合、この迷路を壊すのと正攻法で攻略するのどっちが早いですかね?」


 俺は前を歩いている先輩とついでにリーナマリーに尋ねた。


「……ん」


 先輩は立ち止まってしばらくあたりの壁を見渡す。やがてポツリと呟いた。


「……正攻法」


 壁をコンコンとノックしながらリーナマリーも頷く。


「清愛の言うとおりね。この壁、さっきのシャッターと同じ素材で出来てるわよ」


 それを見て俺は「いいなぁ」とため息を漏らす。


「な、なにが良いのよ? ワタシの性格のこと?」


「リーナマリーは『いい性格』だとは思うが違うっての。その見たりノックしたりで素材が解るのって便利だなって思ってさ」


「なーんか引っかかる言い方だけどワタシは『いい性格』だからスルーしてあげるわ。それで素材の判別方法だけど、清愛のはともかく私のは結構簡単よ? 叩いた物の反響から原子の結合を読み解くの」


「説明してもらって悪いが意味がわからない」


『右に同じく』


 あっけらかんと意味不明なことを言うリーナマリーに、俺と燕さんはため息をついた。


「そう? 音を覚えれば良いだけだから簡単だと思うんだけど」


「それが簡単だと言えるのは少なくとも変人級の理系知識と絶対音感を持った人間だけだと思うぞ」


 俺はリーナマリーには聞こえないように独り言をつぶやいた。その間に皆の話題は先輩の素材判別方法に移っている。


「ラブオ姉チャンノ場合ハ?」


「……なんとなく?」


「!?」『!?』


 ある意味リーナマリーよりもえげつない言葉が先輩の口から飛び出した。俺達の口からエクトプラズムが出そうになっているのを察したリーナマリーが先輩のフォローに回る。


「一応補足するわね。清愛はスキルの特性上、昔からそういう訓練を積んできたのよ」


「な、なるほど経験や勘ってわけか。俺のスキルじゃ身体能力や特殊能力や知識はコピーできても、そういうのはコピーできないからなぁ」


 俺の言葉にリーナマリーは意外そうな表情をする。


「へー、キミトにもコピーできないものがあるのね……でもまあきっと多分その内できるようになるわよ」


「へーいへい」


 リーナマリーのものすごい適当な慰めの言葉に、俺も適当な相槌を返した。


◆◆◆◆◆◆


「さーて迷路の出口まで来たわけだが」


 思っていたよりも迷路の難易度は低く、数分で俺達は出口にたどり着くことができた。しかし……


「大ッキナ扉ー」


 小さなコッキーが重厚そうな金属製の扉を見上げるている。そうなのだ。迷路を抜けた先には大きな扉がデーンと(多分)65階へと続く階段の前に鎮座していたのである。


「セイッ!」


 リーナマリーが躊躇なく扉に向かって前蹴りを放つ。しかし扉はビクともせず、リーナマリーの足がガイィィィンっと弾かれてしまった。


「ヒューッ恐ろしく頑丈な扉だな」


「……厚さ3メートル」


 すぐさま先輩が扉を分析してくれた。要するにこの扉は62階で降りてきたシャッターの三倍以上の防御力を持っているということだ。


「それならハンター試験のトリックタワーみたいに扉の横の壁を壊して」


「……全面」


 先輩が「ここから……ここまで」と言った感じに人差し指で部屋をグルリと示してくれる。その範囲は部屋の全般に渡っていた。いい方法だと思ったんだけどなぁ。


「要するに窓も空調もないこの部屋の壁・床・天井全てに金属製の板が埋め込まれているってことか?」


「……そう」


 先輩が頷くのを見たリーナマリーが肩をすくめる。


「この厚さだと清愛の出せる最硬度の物質を私が使っても1時間はかかるわね」


「1時間で何とかなるってのも凄いな……」


「とはいえそんな方法は現実的じゃないわ。もっと別の方法を探さないと」


『おや? この扉の取っ手の上にあるのはなんだい?』


「ア、本当ダ!」


 そうこう言っている内に燕さん達が何かに気づいたようである。


「何か見つかりましたか?」


『ココ、ここだよ』


 扉に近づいて燕さんが指差した所を見る。なるほど、確かにカードキーをかざすような場所がある。そしてその場所には●を3つ組み合わせた謎のマークが描かれていた。


「誰かここに来るまでの間にこういうマークの入ったモノ、たぶんカードかなんかだと思うんだけど、見たか?」


「……」先輩が首を横に振る。


「見タ?」『見てないねぇ』コッキー達も見てないらしい。


「トランプカードなら50階に来る途中に武器として使ったわよ◆」


「なにヒソカみたいなこと言ってんだよ」


 俺は「はてさて」と言って考え込む。かざす場所はあれどモノは無し。かと言って人間エリアへと続く扉はロックしてしまったので戻って探すのも不可能。やっぱりあの扉を壊すしかねぇのかなぁ……


(そよっ)


 その時、俺の顔を微かな風が撫でた。


「ん? なんで風が?」


 この部屋は窓も空調もなかったはずだが? この中の誰かがすかしっ屁をする可能性は低いだろうし……


「アッ!?」


 俺が顔を上げるよりも早くコッキーが声を上げた。


「どうしたの!?」


 コッキーが俺達が通ってきた迷路の出口を指差す。その方向をリーナマリーが睨む。


「何カイタ!」


「追うわよ!」


 こういう時のリーナマリーの決断は早い。声を置き去りにして走り出していた。


『リーナマリーちゃんは剛毅果断だねぇ』


「むしろ猪突猛進じゃないですかねぇ……」


 俺は迷路に消えたリーナマリーを見て、ため息を付いた。


「それでコッキー、コチラの様子を伺っていたのはどんな奴だった?」


 俺は第一発見者であるコッキーに向き直って尋ねる。まずは情報を収集しておかないとな。


「ンーットネ……チョットシカ見エ無カッタケド、RATミタイダッタ!」


『RAT? ってネズミのことかい?』


「ソダヨー、ネズミネズミ」


 コッキーは身振り手振りをあわせて教えてくれた。どうやら身長は50センチほどらしい。


「ふーむ、そのネズミが扉を解除する何かを持ってるってことなのか?」


「……たぶんそう」


 先輩がそう言って扉のカードをかざす場所を指差す。俺はそこに描かれた●を3つ組み合わせた謎のマークをしばらく凝視してポンっと手を叩いた。


「あーなるほど!」


 言われてみれば舞浜の遊園地にいるミッ●ーのマークにそっくりだ。


「ってことはこの階ですべきことは迷路クリアじゃなくて『迷路の中を高速で動くネズミを捕まえろ』ってことか」


「な、なるほど……だから甲高い声でハハッって笑いながら走ってたのね……」


 振り返るとリーナマリーが戻ってきていた。ハーハー肩で息をしている。


「……リリー大丈夫?」


 先輩の言葉にリーナマリーは苦笑する。


「し、心配ないわ。ただちょっと相手が早すぎただけ」


「リーナマリーが素直に負けを認めるなんて珍しいな…‥俺と二人でやってもキツそうか?」


「そうね」


 リーナマリーは息を整えながら頷いた。


「さっきは早いって言ったけど……逃げ方は私からただ離れるだけだったんで何度か袋小路に追い込んだのよ。でも……そこからが大変で……どうもこちらの動きを読んで……躱されてる感じだったわ」


「マジか。ネズミはネズミでも青いハリネズミ系か」


「マジよ。でも追い詰めてからの動きは黄色いネズミの電光石火かもね」


 俺は天を仰いだ。身体能力最強のリーナマリーでもキツイとなると……どうするべきか。俺は頭をフル回転させはじめる。今持っているスキルと皆の実力を考えて……目標を達成するためには……俺はしばし両手の人差し指を側頭部に当てて考え込んだ。


 ぽくぽくぽくちーん。


■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」

■経過「よっしゃ皆ちょっと耳を貸してくれ、利息つけて返すから」

村主 公人

「甲高い声でハハッと鳴くネズミの国か……」


「いつか恋華を連れて行ってやりてぇなぁ」

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