第29話 4月 5日(火) コ(以下略)
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
『クイズマジカルポッポアワーとはクイズであル!』
部屋の天井から機械で作られた音声が降ってくる。
「なんか仮面ライダーのナレーションみたいなのが始まったな」
「あっそう、行きましょ」
リーナマリーが声を無視して上の階へと続く階段に向かおうとする。
『ダメでス!』
しかし分厚い鉄のシャッターがガラガラガラっと降りてきて、扉の前を塞がれてしまった。
「なっ!?」
それどころか次々にシャッターが降りてきて四方を囲まれてしまった。
「……厚さ1メートルのミスリル」
シャッターに近づいた先輩が冷静に素材を分析している。俺の隣までバックステップで戻ってきたリーナマリーがチッと舌打ちをした。
『クイズに正解しなければ上は行かせませン!』
「イジワルー」
『意地悪ではありませン! 創造主の神意に従っているだけでス!』
「『創造主』ってことはあんたもロボットなのか?」
「そうなの?」
「ああ、確か狙撃手も鳩山をそう呼んでた」
『そのとおりでス! クール・エスケイプと申しまス!』
やたらテンションの高いAIこと、クール・エスケイプは丁寧に挨拶をした。
「はいよヨロシク。それでクール・エスケイプさんよ、さっきの発言なんだが、正解すりゃ上に行かせてくれるのか?」
『もちろんでス!』
待ってましたとばかりにクール・エスケイプはピンポンピンポンと効果音を鳴らす。
「ドースルノ?」
「そりゃやるしかねぇだろ」
「そうね。最悪の場合、私が頑張れば余裕だしね」
「ヒューやっぱり勉強一位は言うことが違うねぇ」
「いや、キミトも勉強5位なんだから頑張りなさいよ」
俺がリーナマリーを冷やかしていると燕さんが驚きの声を上げる。
『えっ? 公人ちゃんって頭いいの!?』
「一・応・な」
俺は苦笑いをしながらそう返した。リーナマリーがそれを見て微笑む。
「まあ清愛も勉強得意だし、このメンツなら大丈夫でしょ」
『それでは第一問!』
「スタァァァップ!」
デデンッと音がしてクイズが始まりそうになったので俺は慌てて待ったをかけた。
『な、なんでス!?』
「ルールを確認させてくれ。クイズは何問出て何問答えれば良いんだ?」
「あ、そう言えばそうね。これで百問だったり一万問だったりしたら……壊したほうが早いかもしれないものね」
『……チッ 察しが良いですネ』
クール・エスケイプは舌打ちして『ピポパポ』と音を鳴らし始める。どうやら俺の嫌な予感は間違いではなかったようだ。
「……危ない」
「油断も隙もありゃしないわね」
西園寺姉妹がホッとため息をつく。しばらくしてクール・エスケイプは『チーン』と電子レンジのような音を立てた。
『クイズは5問、一人づつ答えてもらいまス! 全問正解しないと通しませン!』
俺は口から小さく「ゲッ」と声を出してしまった。
「コッキー答エルノー?」
『おや、アタシも入ってるのかい?』
コッキーが頭を抱え、燕さんが自らを指差して苦笑する。
『もちろんでス! 何しろ作られてから初めてのお客様でス! 小さな子供や魂だけの存在でも見逃しはしませン!』
クール・エスケイプが喋ってる内にもう一つ椅子がせり上がってきた。
「いや燕さんは椅子いらねぇだろ」
『そっちのほうが盛り上がるじゃないですカ!』
俺は余裕の表情でツッコミを入れながら、内心でダラダラと冷や汗を垂らしていた。俺やリーナマリーや先輩はともかく、燕さんとコッキーの実力は全くの未知数だ。この二人に難しい問題が来たらヤバイ……
◆◆◆◆◆◆
『それでは第一問! そこの金髪ボインのネーチャンから!』
クール・エスケイプの発言に場の空気が氷点下まで冷えた気がした。
「……すわよ」
「へいへーい! クール・エスケイプさんよ。それセクハラじゃね!?」
ドスの利いた声でリーナマリーがつぶやいたのを見て、俺は慌てて場をなごませるために道化けた。
『どちらかと言うと女性AIなのでセーフでス!』
「……なわけないでしょ」
「コ、コワイ」「……ふぅ」
まだドスを利かせているリーナマリーを見てコッキーが涙目に、先輩がため息をついている。
「ほ、ほら俺達には時間が無いんだろ?」
俺はそんなリーナマリーを必死になだめた。ここで口喧嘩が始まっちまったら、余裕で1時間はかかっちまう。それだけは絶対に避けなければならない。
「……しょうがないわね、それじゃあ質問をどうぞ、クール・エスケイプの『お婆ちゃん』」
リーナマリーは憤懣やる方ないと言った表情だったが、息を一つ入れ、クール・エスケイプに質問を促した。嫌味が混じっていたのには目をつぶろう。いや、目をつぶってくれ! 俺は神に祈った。
『それじゃあリーナマリーの『お嬢ちゃん』にはスペシャル難しい問題をプレゼントでス!』
俺は頭に手をやる。どうやらリーナマリーの嫌味の弾丸はクール・エスケイプの気にしてるところを的確に射抜いてしまったらしい。嫌味の次元大介かよ。
「こりゃヒドいのが来そうだな」
そしてクイズマジカルポッポアワーが始まったのだが……
『ホルムアルデヒド測定法の精密測定法の名前を5つ答えるのでス!』
「①DNPHカードリッジ捕集・HPLC法
②ほう酸溶液捕集・AHMT吸光光度法
③TFBAカードリッジ捕集・GC/MS法
④DNPH含侵チューブ・HPLC法
⑤TEA含侵チューブ・吸光光度法でしょ?」
ピンポーン
『クッ!? ……第二問! そこの爆乳幽霊! 次の5つの英単語を和訳せヨ!
・The best is often the enemy of the good
・A stitch in time saves nine
・Ask, and it shall be given you
・A rolling stone gathers no moss
・Shame is worse than deathさあ、どうでス!?』
『えーっとこれは諺が多いね。
・最善は善の敵であることが多い
・今日の一針 明日の十針
・求めよ さらば与えられん
・転がる石に苔むさず
・恥は死よりも悪いかい?』
ピンポーン
『バカナッ!? ……だ、第三問! そこの銀髪のおっとりネーチャンに問題でス! 西海道の国名を全て答えるのでス!』
「……筑前筑後豊前豊後日向肥前肥後薩摩大隅壱岐対馬琉球」
ピンポーン
『だ、だだだだ第四問! そこの性悪男子! 奈良時代の年号を全て答えヨ! これは難しいでショ!?』
「えーっと確か……和銅、霊亀、養老、神亀、天平、天平感宝、天平勝宝、天平宝字、天平神護、あとは神護景雲、宝亀、天応最後に延暦で良いんだよな?」
ピンポンピンポーン
『ホ、ホワー!?』
リーナマリーだけでなく他の三人にも次々と正解されてしまったクール・エスケイプが謎の言葉を発している。
「燕さんよく答えられましたね」
『フッフッフ、テニス選手にとって英語なんて必修科目さ。清愛ちゃんもよく古い国名なんて知ってたねぇ』
「……今、時代劇を書いてますので」
先輩が照れくさそうに頬を染めた。その横でリーナマリーが不思議そうな顔をしている。
「キミトこそ何で年号なんて覚えてたのよ?」
「学者並みの知能も持ってる俺に対して失礼なやっちゃな。まあそれ抜きにしても学校でもらった本は国語便覧も含めて全部暗記してんだよ」
「なにそれコワイ、心に闇がありそうね」
「ほっとけ、俺はむしろリーナマリーの答えが何一つわからなくて恐怖を覚えたんだが……」
「そうかしら、ちなみに①~③がアクティブ法、④~⑤がパッシブ法に分類されるわよ?」
「あーそーゆーことね 完全に理解した(わかってない)」
俺は意味不明な説明を続けようとするリーナマリーを遮って、最後の回答者に顔を向けた。ココまでは順調なんだがなぁ。
「カチンコチン……」
最後の回答者は分かりやすく固くなっていた。心配した先輩がコッキーに声をかける。
「……大丈夫?」
「ゼ、全然大丈夫デゴザル!」
『ゴザル!?』
燕さんが素っ頓狂な声を上げた。付き合いの長い燕さんでも初めて聞く語尾だったのだろう。
『フッフッフ、そんな固くなってたら脳みそも固くなって答えられなくなるですヨ!』
そんなコッキーの様子を見てチャンスと考えたのか、クール・エスケイプはすぐさま最終問題へと移った。俺は内心で「せめて英語の問題が来い!」と強く念じていたのだが……
『かつて中東にあったハンニャコッタ共和国の最後の大統領のフルネームを答えるのでス!』
「誰か解るか?……」
「フルネームはちょっと難しいわね」
「……無理」
『……』
俺と西園寺姉妹が顔を一斉に曇らせた。ハンニャコッタ共和国なんて俺でも「ああ、そういえば数年前にそんな国もあったなぁ」ってくらいの認識の、小さな滅びた『独裁』国家である。そして更に厄介なことに、そこの大統領の名前はめちゃくちゃ長いのだ。
つまり、1番の難問をコッキーにぶつけられてしまったのである。
「…………」
『フッフッフ、どうですどうでス?』
黙り込んでしまったコッキーを煽るクール・エスケイプ。
「これは、負けたかな?」
俺がそうつぶやいた次の瞬間……
「ドラゴンファイナルテイルズポケットウォッチトリガーモンスターズダンジョンエクスカリバーパズマリタクティクス……」
驚いたことにコッキーがスラスラとハンニャコッタ共和国の大統領のフルネームを並べ立て始めたのである。
「……」「……」「……」
俺と西園寺姉妹は「夢かな?」と口をあんぐり開けながらその様子を眺めていた。
『……』
一方で燕さんの表情は厳しくなっていく……なんでだ?
「ロマンシングイナヅマチョコアークフロンティアジャンプサガパラサイト」
コッキーの解答はまだ続いている。
「ディアモモタロウハーツストライク……………」
そして最後に数秒言葉に詰まったあと、ゆっくりと、絞り出すように締めくくった。
「……ニャンゾイ」
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「!?」
(もはやクールでも何でもない)クール・エスケープ
「うっそでしょお前!?」
「嘘だと言ってよ、コッキー」




