第27話 4月 5日(火) シャチクスレイヤー
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「ここが60階、人間エリアの最後の階なんだが……なんつーか、凄い状況だな」
「ええ、正直まだ『襲ってきてくれたほうが良かった』わね」
俺とリーナマリーは鳩山エレクトロニクス本社、万象ビルの人間エリアの状況を見て息を呑んだ。この光景を言葉で表すのなら『凄惨』だろうか。
ここまで来る途中、戦闘は一回も起きなかった。なぜなら……
『糞社長死ね死ね死ね』『機械が……どこまでも……追ってくる』『あっあっあっあっ』『カタカタカタ……ッターン』『……チッ』『この設計図を作ったのは誰だあっ!』
ここに来るまでの社員全てが、侵入者である俺達に見向きもせず、鬼の形相で仕事をしていたためだ。
「……これはひどい」
先輩が表情を曇らせている。
「??」
コッキーはイマイチ状況が分かっていないようだ。彼らを指差しながら俺達に訪ねてくる。
「ネーキミトー、何デ皆、辛ソウニ仕事シテルノ?」
『!?』『!?』『!?』『!?』『!?』『!?』
ピシッっと空気が凍る。そして俺は「あちゃー」と額に手をやった。
あーーこれはキツイ。社員の皆さんはお気の毒よ。これを言われるとキツイ。ドヤ顔で全てを賭けてますってな風に仕事をこなしてる矢先、全無視して目の前でコッキーの素朴な質問。これをやられると社員の立つ瀬がない。
「いいかコッキー、世の中には『思いどおりの自分』になれなかった鬱憤を他人にぶつけるわけにもいかず、仕事にぶつけるしか無い人種がいてだな……」
「ソーナノ?」
「ソーナンス」
俺はコッキーの肩に手を乗せて優しく言い聞かせた。背後で西園寺姉妹の会話が聞こえる。
「……ねぇ、キミトもひどい事言ってるような気がするんだけど、清愛はどう思う?」
「……まさに火に油」
『ぐぬぬぬぬ! こうなったら……社員の皆さん! 愛しいロボットちゃん達の敵をトルノデス! 倒せばボーナスですよ!?』
そこに鳩山雪夫の余計な一言が来たもんだから……
『ウオオオオオ!』
殺気立った社員が一斉に立ち上がり、机の引き出しを開けた。
「ナ、何ガ始マルノ!?」
「大乱闘社畜ブラザーズかなぁ」
社畜どもが引き出したのは、いかにも威力が有りますよって感じのゴテゴテと装飾の付いた銃だった。
「清愛、コッキーのこと頼むわね?」
社畜たちがセーフティを外しながら上に登る階段の前を固める。その様子を腕を組んだまま観察していたリーナマリーが先輩に確認を取った。
「……御意」
先輩も慣れたもので、言われるよりも早く身体から青い光を出して盾のような物を作り始めていた。
「それじゃ行くわよキミト、腕はなまってないわね?」
「ああ、先輩は柔らかかっ……」
「は? 何 言ってんの?」
「……軽かったからな!」
リーナマリーに尖すぎる目で睨まれて、俺は慌てて訂正する。
「……軽い女?」
盾を作り終えた先輩がさも悲しそうに、よよと泣く振りをする。
「そんな下ネタ大好きな生徒会役員共の天草シノみたいなこと言わないでくださいよ!?」
「来たわよ、注意して!」
リーナマリーから鋭い声が飛ぶ。見ると社畜どもがセーフティを外して、銃をこちらに構え終わったところだった。
「ウッヒャー!」
コッキーが先輩の作った盾に滑り込むのと、社畜どもがズドドと狂ったように銃を乱射し始めたのは、ほぼ同時だった。
『糞侵入者死ね死ね死ね!』『弾丸が……どこまでも……追ってくる!』『ひゃっひゃっひゃっひゃっ!』『ダガダガダガ……ッダーン!』『……チッ!』『これから地獄絵図を作るのは俺だあっ!』
「俺は右」「じゃあワタシは左ね」
俺とリーナマリーはバッと左右に飛ぶ。……先輩とコッキーは無事に盾の裏に隠れたようだ。後方からカカカカンっと弾丸をはじく音がする。
『遮蔽物のないこの部屋で躱しきれると思うなよ!? シネシネシネシネシネェ!』『弾丸は猟犬……餓死させられた犬の霊……疾走れ!』
「トリガーハッピーってだけじゃなくハッピーになる薬でも決めてんのかよっ!?」
流石にあれだけ弾幕を張られると真正面から突っ込むわけにはいかない。リーナマリーも同じなのか俺達は線対称にカーブを描きながら近づいていく。やたらテンションの高い社畜達の銃がズドドドドと火を噴くと、高級そうな机と椅子が粉々になって吹き飛んで行く。
「ああもったいない。コクヨにオカムラ、エルゴトロン……」
『道具よりも自分の心配をしやがれぇ! 壁に追い詰めたぞヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャ!』
「道具を完全に扱えてないド素人がよく言うぜ……」
俺はダダンと床、壁を蹴って立体的に敵に迫る。
「社畜殺すべし、慈悲は……ちょっとあるってな」
こういう輩を相手にする時は左右だけでなく上下も加えると効果的だと古事記にも書いてある。
『ガタガタガタガタガタ……』
近づく俺に恐怖を感じた社畜達の弾幕が怒首領蜂大往生の様に激しくなる。俺はそれを避けに避けてついに社畜達の背後を取った。
『……チックショオオオオオ!』『おしまいだぁ……ここは今から地ゴグフゥッ!?』
もう一人の社畜が口を開く前に当身を食らわせ気絶させる。
「さぁて……地獄絵図を作るんだったか?」
「楽しみね、ワタシもちょうど地獄の鬼と戦って成長したかったの」
同じく反対側から接敵していたリーナマリーが、アルカイックなスマイルを浮かべながらユラリと立っている。足元には既に2体の社畜が横たわっていた。
これはコワイ! 実際コワイ!
『アイエエエ!』『ンアーッ!』『グワー!』『アバーッ!』
社畜達は初めに恐怖の叫び声を上げ、次々と倒されていった。
最後に俺はニンニンとポーズを取りながら「ショッギョ・ムッジョ」と唱えて人間エリアの攻略を終えた。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「社畜のテンションにつられて変な言動になっちまったな」
西園寺清愛
「……コッキーちゃん紅茶飲む?」
「わたし『も』苦手なの……」




