第25話 4月 5日(火) 少年はビルを目指す
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「宣戦布告としては上等だったかな?」
万象ビルが遠ざかっていく。先輩たちと合流するため俺は森を駆け戻っていた。
「お?」
300メートルほど走ったところで三人の女子の姿が見えてきた。どうやらリーナマリーも戻ってきているらしい。俺は歩調を緩めて明るく声をかけた。
「やあやあ狙撃玄人のリーナマリーさんじゃないでスミマセン!?」
ズガンと俺の頬を弾が掠めて行った。
「全く、あんなこと考えた私が馬鹿だったわ……」
独り言をつぶやきながらリーナマリーが先輩に銃を渡す。
「……銃美味しいです」
手に持った銃が青い光に変化し先輩の身体に溶け込んでいく。やがてまだ鳴っていた先輩の腹の音が小さくなった。どうやら出したものを元に戻せば空腹が収まるらしい。
「キミト、スゴカッタネー!」
「おうそうだろうそうだろう、もっと褒めろ」
先輩に銃を返したあと、俺は両手を振って興奮しているコッキーの頭を撫でた。
「っとは言え、リーナマリーが敵さんの注意を引き付けてくれたからこそ勝てた訳なんだがな」
リーナマリーの耳がぴくっと反応する。
「俺一人じゃビルに近づくことすらできなかっただろうな」
ピクピクッ……ルイズのツンデレ並みにわかりやすい反応だな。
「あら、殊勝なのね? もっと褒めて崇め奉ってもいいのよ?」
俺の言葉で少しリーナマリーは機嫌を直してくれたようだ。振り向いた顔が少し緩んでいる。しかしそんなリーナマリーに魔の手が伸びようとしていた。
「ワーイ亀立テ擦ルー♪」「……わかった」
「冗談よ、だから両手をワキワキしながら近づいてくるのはやめてちょうだい」
二人の悪魔、先輩とコッキーからスススっと距離を取るリーナマリー。そんな微笑ましい光景をずっと見ていたかったのだが、悠長にキャッキャウフフしている暇は無い。
「事実を言ったまでだ……正直ちょっと敵の実力を舐めてたからな」
「……」「?」「そうね」
俺の言葉に先輩はうつむき、コッキーは首をかしげ、リーナマリーは頷いた。
「アウェイだったとは言え、ワタシとキミトが清愛の武器を使っても倒すのにかなりの時間を要したものね……」
俺はスマホを取り出して時計を確認する……0時50分か。
「しかもさっき倒した敵さんの話を要約すると『ククク……俺は四天王の中でも最弱……』ってことらしいぞ」
「なんかそれだと余裕な感じがするわね」
「じゃあ1番だと思ってったウルキオラが十刃だと4番目だった感じで」
「今度が絶望感が半端ないわね」
「エート……ラブオ姉チャン、ドーイウ意味?」
俺とリーナマリーの会話に理解が追いついてないコッキーが先輩に尋ねる。
「……今度貸すね」
「(カッコイイから)すぐ読み終わるぞ」「(面白いから)すぐ読めるわよ」
◆◆◆◆◆◆
俺は「さて……」と呟き、鋼の錬金術師の様にパンッと手を叩いて話題を変えた。
「それじゃあ始めるとしますかね」
「ナニヲー?」
「『戦術』会議だ。弱者が持てる最強の武器とも言うな」
俺は明るく言い放つ。しかし心の内では苦笑いを浮かべていた。本当は十分な戦力を揃える『戦略』を練りたかったんだがなぁ……。
◆◆◆◆◆◆
俺は拾った小枝でガリガリと地面に1、2、3と数字を縦に並べた。
「さてまず一番目、『目的』の確認だ。俺達の目的は何だと思う?」
「鳩山雪夫によるパ……西園寺竜王の戦闘映像の公開を止めることでしょ?」
リーナマリーが『何を当たり前のことを』とでも言いたげに答える。しかし俺は首を振った。
「違ウノ?」
「ああ、それは竜王の目的であって俺達の目的じゃない。目的ってものは参加する全員が背負えるものじゃないと意味を成さないんだ。つまりここで言う目的ってのは……」
俺は1の横に文字を書いて読み上げる。
「『俺とリーナマリーの退学を回避する』これが俺達の目的だな」
「エッ退学!? キミト悪イコトシタノ!?」
相槌のような質問をするのみだったコッキーが驚きの声を上げる。俺は「あーそうだぞー、悪そうな奴はだいたい友達だ」と適当に話を合わせながらチラリと先輩の表情を伺う。
「……」
「ジャア、コッキーモ悪者ダー♪」
「へいへいジブラジブラ」
表情に変化なし、どうやら先輩は俺とリーナマリーが竜王から退学を言い渡されていたことを知っていたらしい。ってことはあの不思議な落とし穴も先輩の作か。
俺は『簡易的なワープ装置か何かかなぁ』などと思いを巡らせながら数字の2を指して話を進める。
「そして2番目、退学を回避するために考えるべきなのは『手段』だな」
「……交渉材料?」
先輩が首を傾げながら囁くような声で訪ねてくる。
「さすが先輩、そのとおりです。ここでいう手段ってのは……」
「『竜王の戦闘映像の公開を止めること』ね?」
俺は「正解!」と頷いて2の横にリーナマリーの言葉を書き加えた。さすが学業も優秀な西園寺姉妹、理解が早くて助かるぜ。
「次ハー?」
俺は3の文字をコンコンと叩く。
「最後に考えるべきなのは『方法』、いちばん大事な所だな」
「キミトは竜王から平和的に解決しろとか言われた?」
俺は首を横に振った。
「なるほど……」
どうやらリーナマリーも竜王から方法の支持を受けたりはしていないようだ。やがてリーナマリーが顔を上げ真顔で俺に質問してきた。
「つまり清愛に爆弾作ってもらって万象ビルごとふっ飛ばすのも有りってことね?」
「有りなわけねーだろ。常識で考えろせいぜい説得か、優しい言葉に銃を添えての説得ぐらいだろ」
「……常識?」
不思議そうな顔をする先輩。
「キミト悪党ー」
何気に韻を踏んでいるコッキーの言葉を「へいへいアルカポネアルカポネ」と受け流す。
「まあどうやって『説得』するかはその時になったら考えるとしてだな……鳩山がいる場所はどこなんだ?」
「ビル最上階に位置する社長室でしょうね」
「相談をしたつもりだったんだが随分と確信的な物言いだな? それに今時の社長室ってビルの中くらいの階にあるもんじゃないのか?」
リーナマリーがスカートのポケットからスマホを取り出して何かを確認し始める。
「いいえ、鳩山エレクトロニクスの社長室が変更になったという情報は入ってきてないわ」
「……うん」
見ると先輩もスマホを出して確認していた。
「どういうこった?」
いくらなんでもインターネットに社長室の場所が転がっているとは思えない。そんな俺の疑問に対してリーナマリーが答えを教えてくれた。
「西園寺家に専用のイントラネットがあるのよ。そこにはありとあらゆる書物があって、建設会社から手に入れた万象ビルの竣工図や改修工事の図面もあるってわけ」
「ホエー」「西園寺、おそろしい家!」
リーナマリーはムッと口を尖らせる。
「っというよりは西園寺竜王個人が恐ろしいのよ。今回、私達を送り込んだのだって『この戦力なら十分勝てる』と計算してのことよ」
「そうなのか?」
確かに思い返してみると、非常にマズイ状況であったにも関わらず竜王の顔に焦りの色は無かった。
「そうよなんたって竜王は……」
そこまで言いかけてリーナマリーは口をつぐんだ。そして一瞬、先輩とアイコンタクトを交わす。
「ん?」
俺はそのアイコンタクトの意味を考えようとしたが、リーナマリーが話を進めて来たので一旦諦めざるを得なかった。
「ゴホン……ま、まあとにかく! この『4人』なら十分だと踏んだのよ、竜王は!」
「あれ? 4人って想定外っぽいコッキーも入ってるのか?」
「ワーイ!」
喜ぶコッキー、そして意外そうな俺の顔を見て、リーナマリーは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「もちろんよ。わざとコッキーに情報を流して私達のあとを追わせるくらいの事はするわ」
俺は「はぁ」と感心してしまう。竜王には未来でも見えてんのかね。
「なんというか……竜王の話をしていると目の前の巨大建造物が子供用のジャングルジムみたいなもんに見えてくるなぁ」
俺は立ち上がって背伸びをしながら万象ビルを見上げる。そんな俺の肩をポンと叩いてリーナマリーが微笑んだ。
「ま、『世界最高のヒーロー』のお墨付きなわけだから、楽しんでいきましょ」
「……なんか『世界最高のヒーロー』って言葉に含みがあるような気がするんだが?」
「そう? 気のせいじゃない?」
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「いつか西園寺家のイントラネットを覗いてみたいもんだな」
村主 公人
「そういえばコッキーは利害関係もないのに同じ目的を背負ってくれてるのか……」
「よし、この件が終わったら美味しいケーキでも作ってオ・モ・テ・ナ・シだ」




