第24話 4月 5日(火) (イカサマ)技の二号
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③狙撃手の狙撃能力
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
ズガン!
「よーしよしよし良いぞ良いぞ!」
俺はダイハードのマクレーン刑事のようにブツブツ呟いていた。リーナマリーの射撃に合わせて糸を付けた弾丸を放つ、ここまでは予定通りである。
「さーて敵さんははじめてのおつかいのスタッフみたいに黙って見ててくれるかな? リーナマリーで手一杯になってると嬉しいんだが……」
弾丸が発射地点から万象ビルまでの8割の距離を駆け抜けた時、夜空に浮かぶ万象ビルの屋上が光った。どうやら見逃してはくれないらしい。
「ヒューッ包茎みたいな過敏な対応! 充電が十分じゃないってのに、それじゃ薄いのしか出ないぜぇ!?」
俺は「えらいハリキリ☆ボーイだぜ」と苦笑しながら弾丸に付けた糸をピンと弾く。すると弾丸が生き物のように動き光線をヌルリと避けた。
「方角良ーし速度良ーし! ヨーソローってやつだね」
俺は動かした弾丸を再び操作して万象ビル屋上へと進める。しかし同時にリーナマリーの方から撃たれた弾丸が向かっているのがコチラからも見えた。
「タイミングは少し向こうの方が早いか」
このまま行くと着弾は先に撃ったリーナマリーのほうが早いことは火を見るよりも明らかだ。しかし、そんなことは百も承知、そしてそれはリーナマリーも同様だろう。
「だが当然黙って負ける俺じゃないぜぇ?」
そう呟いたところで再び万象ビル屋上が光を放った。最後に残っていた万全な状態での光線銃が俺に向けて火を吹いたのである。
「あ、ヤバイなこりゃ」
弾丸と、俺に向かって光線が一直線に向かってくる。狙いは正確、そして何よりもこちらの最も嫌がる絶妙なタイミングでの射撃である。
「マリオカートのゴール寸前でトゲゾー甲羅の音が聞こえはじめた気分だぜ。迂闊に動けばそれが弾丸に伝わり虎の子の一撃が大きくブレて軌道修正が不可能になってちまう。だけど、動かなければ俺の体が真っ二つだ」
まいったな。狙撃での勝負ははっきり言って俺の負けだ。能力こそコピーできたが、一番重要な経験の面で敵さんとは大きな開きがあったようだ。俺は迫ってくる光線を見て苦笑した。
「ウルトラマンのスペシウム光線みたいなもんだな、勝負を決めに来やがった……だが!」
俺はそう言って右手を思いっきり手前に引いた! それに反応するかのように万象ビルの屋上で何かが動く、そしてその何かがガツンと狙撃手にぶつかった!
「射撃で負けるなら別の強みを押し付けるまでよ!」
俺は万象ビルに向かって走りはじめる。万象ビルの屋上から「なん……だと!?」という声が聞こえ、絶命していたビッグフットと共に狙撃手が落ちてきた。
「左手の糸を弾丸に、右手の糸を投げる瞬間ビッグフットに、いわゆるひとつの隙きを生じぬ二段構えってやつだ!」
とどめの一撃を叩き込むため俺は狙撃手に向かって跳躍する!
狙撃手は「終わりだ」などとつぶやきながらも体にまとわりつくビッグフットを剥がして投げ飛ばし、一丁だけ持っていた銃を俺に向かって構える!
「だがワレだけでは終わらん! キサマも一緒に道連れだ!」
「ブリーチの一護みたいな台詞はいた割には足掻くじゃねぇかよ!」
俺は仮面ライダーのように右足を伸ばして狙撃手を狙う。
「最後の一瞬までワレは働き続けるのだ……創造主のために!」
「戦いにおいて最も重要なもの……それは諦めの悪さだ。つまり何が言いたいかって言うとその根性、嫌いじゃないぜ!」
俺の伸ばした足が、狙撃手が銃の引き金を引くよりも一瞬早く体にめり込んだ!
「グッァ!?」
跳躍した勢いのまま狙撃手ごと、俺は万象ビルの3階部分に突っ込んだ!
◆◆◆◆◆◆
「ビビビガガガ……こっここまでか……」
「そうしてくれると助かる」
万象ビル3階の、会議室だろうか? 机が並ぶ部屋の壁にもたれかかった狙撃手を俺は対峙した。狙撃手の体は上下に分断され、腹の部分から伸びたコードがバチバチと音を立てている。そしてその背からは八本の腕が生えていた。
「なるほど、腕が八本もあったから一気に四発の光線を撃てたのか」
先程はとどめを刺すことに夢中で気づかなかった。手をポンと叩いて納得している俺を見て狙撃手がフッと笑う。
「ガピピ……腕が立とうが何本あろうがワレは負けた……男、キサマの作戦目的と名前はなんだ?」
「作戦目的? そんなの竜王の戦闘映像拡散阻止に決まってるだろ」
「ほう……ピピピ……そうなのか」
「え? アンタあんだけ俺達に攻撃しておいて目的すら知らなかったのか?」
「ピガガガガガガガ……ああ、ワレ達は創造主の命令を着実に遂行しているだけだからな」
「俺『達』ってことは、アンタみたいな優秀なロボットがまだいるってのか?」
「……」
狙撃手はもはや喋る力も残っていないのか、無言で頷いた。
「…………」
そして狙撃手は無言のまま俺の顔をじっと見てくる。それは何かを待っているようだった。
「ああそうか、作戦目的と名前だったな」
「……」
狙撃手の顔が僅かに上下した。
「うーん…………」
俺は少し考えたあと短く答え、万象ビルに突っ込んできた時に開けた穴から夜の闇に姿を消した。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「めでたしめでたし」「村主公人」
ブラスト エイト
(村主公人、めでたしめでたし……創造主にデータを送るか?…………いや……これは退職祝いだ……ワレだけの思い出に……し……よう)
「……ピピガガッ……ツーッツーッツー…………」




