第3話 4月 1日(金) とってもシビル・ウォー
現在の所持スキル
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤そこそこの魔法使いの魔法
●目標「入学式に出よう」
●詳細「新入生代表挨拶というものがあるらしいので、それを手伝えとのこと」
『人のスキルで取ったトップは楽しいか!?』
『なにガンつけてんだよオラァァン!?』
『おいおいまさか俺達のスキル取られちまうのかよwwwwww!?』
入学式に向かう途中、俺は新入生の野郎三人に絡まれていた。
「目つきが悪いのは元からだっての。それにストックできるスキルは5個までだからお前らの『スプーンを曲げる能力』『喋るパンを作る能力』『3秒だけ顔が福山雅治になれる能力』なんていらねえよ」
初日からコレかよ、と俺はため息をついた。コピースキルというのはヒーロー業界では毛嫌いされている。そりゃそうだろう。今まで自分が苦労して育ててきたスキルをほぼノーリスクで再現されるんだからな。優秀なスキルなら不満爆発だろうし、大したスキルじゃないならそれを自覚させられてツライし、嫌われる要素しか無い。
だからこういう事はよくあることなのだ。
『てめぇ! 人のスキル勝手に分析してんじゃねえぞ!』
『!?』
『ザッケンナコラー!』
襲いかかってくるしょうもない三人を見て俺は苦笑した。
「やれやれ、相手のことくらいよく調べてから来いよ」
『ヒッ!』『ブッ!』『デッ!』
一瞬で距離を詰めてそのまま三人にデコピンを食らわせる。まあ戦闘カテゴリーじゃない奴らならこんな程度だろう。
「キーミートー? 朝っぱらから4日前の私の力で何をドヤ顔しているのかしらぁ?」
俺が「オッケー!」と叫びながらどこからか取り出した帽子でズボンのホコリを払っていると、背後から聞き覚えのある殺気が漂ってきた。銅鑼の音が脳内に響き渡く。恐る恐る振り返ると……
「げぇっ!? リーナマリー!?」
そこには腰に両手を当ててこちらを見ている戦闘2位、勉強1位、人気1位、スポーツ1位の西園寺リーナマリーの姿があった。俺は「自分の力を勝手に使うな」と怒られるのかと身構える。しかし、リーナマリーは俺とノビている三人を交互に見て事情を察したらしく、大きなため息をひとつ付いた。
「コピースキルも大変ね」
「……リーナマリーは嫌じゃないのか?」
意外な言葉と態度に俺はリーナマリーをまじまじと見る。するとリーナマリーの表情が少し曇った……ような気がした。
「私のスキルを忘れたの? 例えキミトが追いついてもすぐに突き放してやるわ」
そう言いながらリーナマリーはスマホを操作する。
「どうするつもりだ? ま、まさか警察を呼ぶつもりか!? ま、まて俺は無実だ一発だけなら誤射だ!」
「違うわよ、皇樹高校の制服着た生徒をこのままにしておけるわけないじゃない。救急車を呼んでるの」
「……それはそれで、たかが喧嘩の後始末にしては大げさなような気がするんだが」
「大丈夫、今から来る救急車に乗っているのはうちの生徒よ」
「えぇ……?」
リーナマリーの言うとおり、皇樹高校の方から救急車がかっ飛んできて三人をテキパキと回収していった。
「医師免許とか持って無さそうなツギハギ顔の黒医者とかいたけど大丈夫なのか?」
「大丈夫、バッタの能力持った改造人間にされたりしないからアレはまだ穏便な方よ」
「それ完璧に悪の親玉じゃねぇか! そんなのまで通ってんのか」
俺の言葉にリーナマリーはキョトンとしている。
「それはそうよ。皇樹高校はハゲタカファンドの社長や連続殺人鬼に代表されるダークヒーローだって育ててるんだから」
「はぁ……そりゃまた間口の広いことで」
「ヒーローの日本語訳は主人公だから問題ないわ。さ、行きましょ。入学式に遅れちゃうわ」
「へーい」
そう言って歩き始めたリーナマリーの隣に並ぶ。
「ところで学園長の娘なのにリムジンとかに乗ってないのか?」
「当たり前でしょ。私のほうが早いし、わざわざ運転手を危険に巻き込む必要はないわ」
つまり、リーナマリーはたまに誰かに襲われるらしい。ん? ちょっと待てよ?
「ってことはいま一緒にいる俺も危ないんじゃ?」
俺の心配を他所にリーナマリーが天使のような笑顔でニッコリと微笑んだ。
「大丈夫、キミトがそんなにヤワじゃない事はこの前戦った私が一番良くわかってるわ」
「……お前は俺のカーチャンかよ」
◆◆◆◆◆◆
校門をくぐったところに組分け表が掲示されていた。俺は自分の名前を探す。えーと鬼百合 カリ……鷹田 熱斗……コッキー ニャンゾイ? 面白い名前だな。
日本だけでなく全世界からヒーローにふさわしい人物をスカウトしてきているためか国際色豊かな名簿となっている。
そんな名簿の中でやっとこさ俺の名前を発見した。A組と書いてある。そして『す』の俺のちょっと上に『さ』の西園寺リーナマリーの名前も発見した。
「なんとなくわかってたけどヤッパリ同じ組か」
「成績優秀者はA組にまとめられるものなのよ」
「あー公人くんだー☆」
リーナマリーの言葉にかぶせるように上からマホが降ってきた。
「よぉマホ、マホは何組だった?」
「当然A組だよ☆」
急に話に割り込まれて不機嫌そうな表情のリーナマリーに気づいていないのかそれとも意図的なのか、マホはグイグイと俺との距離を詰めてくる。
「あら、どなたかと思ったらチンチクリンの魔法少女さんじゃない?」
リーナマリーは物理的にも話し的にもマホと俺の間に割り込んできた。それを見たマホが薄く笑う。
「胡桃マホだよ。胸ダルンダルンオバサン」
あ、これ完璧にわかっててやってる。女って怖い……しかしリーナマリーも負けてはいない。腕を組んでフンと鼻で笑う。
「あらフルフラットさん。そんなこと言って良いの? 雨が降ったときにこの凹凸のある体の下で雨宿りさせてあげないわよ?」
実際にリーナマリーの胸は豊満であった。マホなら二人くらいは雨宿りができるだろう。
「いらないよーだ☆」
舌を出す仕草こそ子供っぽいが、目の奥に宿る炎は情念を持った女のそれである。俺は空を見上げて時がすぎるのを祈った。
そして一日どころか一分千秋の思いで時が過ぎ、やっとこさチャイムが鳴ったので二人の戦いはそれでお開きとなった。
「あー寿命が一年は縮んだぜ」
■目標「入学式に出よう」
■経過「やっとこさ式が始まってくれた」
胡桃マホ
「クッお姉ちゃんは大きいのになんで私だけ……☆」
「あーあ☆ それにしても新入生代表挨拶☆ 私もやりたかったなぁ……」




