第23.5話 ワタシの期待を超えてゆけ
生きのびろってことよ
「埒が明かないわね」
万象ビルの屋上に陣取る狙撃手との銃撃戦が始まってから六十三発目の弾丸を射出したあとワタシはため息を付いた。
「一発が光線の雨をすり抜けても決定打にはならない……いや、むしろ当たりの弾丸だけを見極められているのかしら?」
ズガガガガガンっと六十八発目の弾丸を射出、六十七発目だけがかき消されずに飛んだが万象ビルの上空に大きくハズレてしまった。
「……どうやら予想はハズレというわけではないようね」
そう言って私は目を細めて集中しはじめた。
「こうなってくると跳弾の正確性を上げる必要があるわね……」
ワタシの心が、深く静かな深海へと沈んでいく。急激に成長するとき、または成長しなければならないと感じた時、ワタシはいつもこのような感覚に包まれるのだ。
「……」
ワタシはカッと目を見開いて銃を構える!
ズガガガガガ『ガ』ンっと言う音が森に鳴り響き、二発の弾丸が万象ビルに向かって飛んでいく。
「あっ、間違えた」
飛んでいく2つの弾丸を見てワタシは苦笑した。
「正確性を上げる予定だったのに、成長する方向間違っちゃったか」
正確性ではなく弾丸の数が成長してしまった。生まれた時から発現していたこのスキルだが、まだ完璧に使いこなせているわけではなく、たまにこういうポカをする。
「今度は間違えないようにしなくちゃ……」
過去には走り高跳びで跳躍力を成長させるつもりが走るスピードが成長したこともあったっけ。
「……フッ!」
再び集中した後、ワタシはズガガガガガガンっと弾丸を発射した。
「よーしよしよし、上手くいったわ。これでワタシの勝利は確定、さすがワタシね」
……とはいえ先程の成長スキルの操作ミスは恥ずかしかった。照れ隠しに誰かさんみたいに頭をかく。
「そう言えばキミトは何やってるんだろ? まさかヤラれちゃったなんてことはないと思うけど」
ワタシの言葉に呼応するように万象ビルを挟んで向かい側の森からズガンという射撃音が聞こえてきた。
◆◆◆◆◆◆
ワタシは腰に手を当てながら「やーっと動き始めたわね」と発射された弾丸の行方を見守っていた。
現在万象ビルに向かっていっている弾丸は三発だ。二発がワタシ、そして一発がキミトのものだ。どちらの弾丸も正確に万象ビルの敵に向けて飛んでいっている。
「読み通り……やっぱりキミトは敵の能力をコピーしたのね」
ワタシの二発より正確に飛んでいくキミトの弾丸を見てフッフッフと笑う。
「でも残念ね、この勝負、ワタシが貰うわ!」
万象ビルの屋上からそれぞれの弾丸に向けて光線が発射される。
「それも読み通りよ!」
ワタシが発射した二発の弾丸が空中でぶつかり合う!
「弾丸同士の跳弾、これでチェックメイトよ!」
これによって一発は万象ビルの方向から大きく軌道がずれた。しかし、もう一発はより正確に、より速く敵を撃ち抜く軌道に乗った。
「さて、キミトの方……は?」
勝利を確信したワタシの目に飛び込んできたのはグネグネとありえない軌道で光線を避ける弾丸の姿だった。
「な、なによその動き、フザケてるの!?」
目を凝らすと……弾丸の後方に極細の糸がついている。
「アレで撃った弾丸を操作してるの!?」
ワタシは改めてキミトの持つコピースキル、そしてキミトのスキルを使いこなすセンスに舌を巻いた。
「で、でも同じ弾丸なら先に撃ったワタシの方が着弾は速いはず!?」
そうだ、しかもキミトの弾には糸がついており蛇行している。これは明らかな減速要因でありワタシの弾丸が遅れをとるとは思えない。
……しかし、胸騒ぎがする。いや、予感がしているのだ。
どちらが万象ビルの屋上にいる敵を倒すことができるのかという勝負、この勝負に……ワタシが負ける。そんな予感がワタシの体の中を駆け巡り、ふと、笑みがこぼれた。
「おかしな話ね、超がつくぐらい負けず嫌いのワタシが、そのことを期待してるなんて」




