第22話 4月 5日(火) ジャパニーズ・スナイパー ~慟哭、そして~
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
「それじゃあ賭けの対象も決まったところで状況を整理するか」
俺は枝を拾ってガリガリと地面に図面を描いていく。気持ちが落ち着いたのかコッキーと先輩も寄ってきた。
「目的地の万象ビルはここ、そして俺達がいるのが森の中、距離は約300メートルだ」
「でも万象ビルの屋上から私達を狙ってる敵がいるのよね?」
「ああ、何人かはわからないがな」
「一人ダヨー」
コッキーの意外な発言に俺とリーナマリーは顔を見合わせる。
「そうなのか?」
俺が尋ねるとコッキーは元気よく頷いて図面に四本の線を書き足していく。
「……軌道?」
すっかり仲良くなった先輩に対して「ソウダヨー」と答えるコッキー。これが先程ヘリを破壊した光線の軌道らしい。
「下カラ見テタ。燕モ間違イ無イッテ」
『大丈夫。燕さんのお墨付きだよ。』
コッキーの後ろに立つ燕さんがサムズアップして……いや違う、何であの人中指と人差し指の間から親指出してるんだ?……まあ詳しいことは考えずに放っておこう。
「ちょっと待って、それじゃあ相手は一瞬で4発射ったってこと!?」
コッキーの描いた軌道を見ていたリーナマリーが声を上げた。
「まあそうなるな」
「『まあそうなるな』って……良いわね狙撃戦童貞は呑気で」
呆れたようにリーナマリーがこちらを見てくる。俺はムッとして反論した。
「狙撃の知識くらいは持ってるぞ?」
「まさか部屋にあるゴルゴで仕入れた知識ことじゃないでしょうね?」
「ち、違うぞ!? もっと他に色々だ……そういうリーナマリーは狙撃戦を経験した様な口ぶりだな?」
「当然でしょ、6歳の時にやったわよ」
「ひえーっおっそろしい家庭だな、範馬家かよ!?」
平然と答えるリーナマリーに俺は大げさに驚いてみせる。褒められたと思ったのかリーナマリーは「おかげさまで跳弾でダイヤモンドカットくらいならできるようになったわ」と胸を張った。ふむ、ことばの意味はわからんがとにかくすごい自信だ。
「ついでに言うと清愛は……」
「……どうぞ」
ホイっと先輩に向けて差し出されたリーナマリーの掌に銃が乗せられた。いつの間にか先輩が生成していたようだ。やたらめったら長い銃、多分これが狙撃銃なのだろう。
銃を受け取ったリーナマリーが手早く銃の機構を確かめている。
「キミトもあとで清愛から貰うと良いわ。オートマチック(自動装填)方式で使い方は簡単、よーく狙って引き金を引くだけよ」
リーナマリーはそう言いながら無造作に構えてズガンっと銃を撃った。
打ち出された弾丸の行方を俺とコッキーが「おお」「オー」と見守る。するとすぐさま万象ビルの屋上から光線が発射され、リーナマリーの撃った弾丸がかき消された。
「この距離じゃやっぱりだめか。もっと近づく必要があるわね」
そんな言葉を残してリーナマリーが俺の前から姿を消した。
「うわー、めっちゃ自然なフライングスタート、俺でなきゃ見逃しちゃうぜ」
童話『ウサギとカメ』のカメのように取り残された俺は苦笑いを浮かべる。すぐに後を追いたかったのだが、コッキーの頭をなでている先輩の方に顔を向けた。
「それじゃあちょっと行ってきます。先輩、コッキーのこと頼みますね?」
「……わかった」
コクリと頷く先輩。そして手を挙げるとブゥゥゥンと青く光り「……どうぞ」と俺にも銃が手渡された。渡された狙撃銃はズシリと重く、4月とは言え気温の下がった夜の森の気温のせいか銃身は氷のように冷たくなっている。一方で俺の身体はスタート前のF1カーのように熱を持ち始めていた。
「ありがとうございます。それじゃあすぐ戻りますんで」
先輩に頭を下げたあと、俺も森に姿を消……そうと思ったのだが急ブレーキ、足を止めた。
なぜなら森にグゴゴゴゴゴゴゴゴという低い音が鳴り響いたためだ。
俺が「な、なんだ!?」と辺りを見回していると後ろからトサッという音がした。
「……もうだめ」
「ラ、ラブオ姉チャン!?」
振り返ると先輩が膝をつき、その横でコッキーがオロオロしている。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄ろうとする俺を手を上げて静止する先輩。
「……大丈ブイ」
手でピースサインを作って先輩が微笑む。しかし、もともと磁器のように白い肌は一層白くなり、頬のみが紅くなっている。要するに普通の状態ではないことは明らかだ。
そして再びグゴゴゴゴゴゴゴゴという低い音。今度ははっきりと聞こえた。すぐ近くだ。
「ん、待てよ?」
この二回目の音を聞いた時、俺はある事に気づいて首をひねった。
「これって……腹が空いた時の音か?」
コッキーもどこかで聞いた音だと思っていたのだろう。「ア、本当ダッ!」と言ってポンっと手を叩いた。
「……えーっとつまり」「……鳴ッテタノハ」
そして俺とコッキーは低い音の発生源と思わしき人物に目を向ける。その人物は観念確かのように「……はぁぁぁ」と大きくため息を付いたあと、今度はスゥっと大きく息を吸い込んだ。
「あ、これやばい流れだ」
俺の一言が引き金となり、先輩のマシンガントークが始まった。
「えーそうですよわたしですよもっと言えばわたしのお腹の音ですよ驚かせてしまってすみませんわたしのスキルは凄い物を出すとそれだけカロリーを消費するのです本当は我慢したかったのですが今日はヘリもジェットパックも狙撃銃も出して耐えきれずこんな恥ずかしい姿を見せてしまってもうお嫁に行けませんですのでキミトさん後生ですからお嫁に貰ってくだ」
「わーっストップストップ先輩!」
俺は慌てて長台詞モードに入った先輩を止める。先輩の横にいたコッキーは口を開けてポカーンとしている。そりゃそうだろう。このテンションは普段の先輩からは想像しろって方が酷だ。俺も最初見たときは頭の中のウォーズマンが「………こ…こわい………」とか「ウギャアキン肉マーン!!」とか情けない声をあげてたもんだ。
「大丈夫です。だれも恥ずかしい姿だなんて思ってませんよ。な、コッキー?」
「ウ、ウン! ラブオ姉チャンガ頑張ッテタ証拠ダヨ!」
「……本当ですか?」
涙を浮かべながら聞いて来る先輩に対して、俺とコッキーはコクコクコクコクと水飲み鳥のように頷きまくる。
「もちろんです! コッキーも言ったとおりアレは『先輩の頑張り』を証明する音です。ヘリがなければここまで来るのにもっと時間がかかっていたでしょうし、狙撃銃が無ければ万事休すでした!」
「サンキューラッブ! フォーエバー ラッブ!」
「……うぅ」
「えぇ、ですから先輩は一切、なーんにも悪くないんですって」
涙ぐむ先輩を俺は必死に励ます。そして以外に冷静な俺の脳みそは『そういえば確かに雲の宮殿作ったあとに超特盛りパスタ食べてたなぁ』と先日のことを思い返していた。
◆◆◆◆◆◆
「……ありがとうございます」
俺とコッキーのテニス以上のコンビネーションによって、先輩は何とか落ち着いてくれたようだ。
「それじゃあ『先輩の作ってくれた』狙撃銃を使ってちゃっちゃと万象ビルへの道を切り開いてきますね!」
「行ッテラッシャーイ!」
「……お気をつけて」
俺は『』の部分を強調しながら先輩たちに手を振って、今度は本当に森の中に姿を消した。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「先輩を泣(鳴)かせた罪は重いぞ」
コッキー・ニャンゾイ
「ラブオ姉チャン大丈夫?」
「ソノ辺ニ生エテル草食ベル?」




