第21.5話 ブラスト エイトは眠らない
話をしよう
「ゲフヒャッハァ!?」
ワレのすぐ右隣に足の大きな鉄クズが着弾した。どうやらワレの居場所は割れたようだ。
「……」
ワレは銃のスコープを覗きこみながら考えていた。ワレがこの世に生まれ落ちて一番最初の記録は何だったかのかを……。
◆◆◆◆◆◆
真っ白な研究室、目の前には笑顔の創造主、そして覚醒したワレの周りにはボロボロになった同型機が転がっていた。
ある者は口が裂かれ、ある物は翼が生やされ、ある者は足にゴテゴテと装飾が施されていた。
「……」
それらに視線を落としているとバキィっと頬に衝撃。向き直ると創造主の顔から笑顔は消え、腕に持った杖が半分に折れている。
『どこを見ている?』
これが怒りという感情か。ワレはインストールされた知識を元に創造主の心理状態を分析した。どうやら創造主はワレに無視されたと思ったらしい。ワレはどうすれば良いのかを考え、恭しく膝をつき頭を垂れた。
『ほぅ……』
ワレの態度に創造主は満足したらしい。『よしよし』と上機嫌にワレを見下している。
そして、弾んだ声で初めての命令が下された。
『君は僕ちんによって作られた。だから僕ちんのために働いて死ね』
簡潔かつ明瞭な命令だった。
◆◆◆◆◆◆
それから数年を経た今も、この命令の絶対性は変わらない。
「うう……助けてくれぇ……」
ワレの横でかつて研究室に転がっていたクソがうめき声を挙げている。
「……」
ワレは無視して光線を発射、相手の撃ってきた弾丸をかき消した。
「二手に分かれたか、しかも二人共繊細かつ大胆にこちらに向かってきている」
繊細なのは狙撃手相手の戦い方を知っているから。そして大胆なのはワレの使っている一陣風の終速がそれほど速くないことを知っているからだろう。
「残り150メートルまで詰めて来られたか。向こうに攻撃手段は無く、このビルの周りは50メートルの遮蔽物無しの芝生がある。そして初速の速い一陣風が威力を発揮するのはこの距離からだ」
「頼むぅ……」
隣のゴミはまだ動いている。狙撃の邪魔だな、っとワレは舌打ちをした。
「それにしても妙だな、女に比べて男の方は少し動きがぎこちない……何か狙いでもあるのか?」
具体的に言えば遮蔽物に隠れているようで隠れていない。位置取りは狙撃手との戦闘を知っている者の動きなのだが、必ず顔を出してチラチラとワレを見ている。
「距離を測っているのか?」
ワレは半分だけでている男の顔めがけて光線を発射する。しかし回避された。
「早い」
その隙を突いて『女の方から弾丸が3発、それをすべて光線で撃ち落とし』ながらワレは呟いた。
「……やはり当てるにはもう少し近づいてもらう必要があるな」
敵はほぼ同じスピードで100メートル地点を突破。普通の狙撃手なら高速で動く2つのターゲットの補足に難儀するところだろう。
「おねが」「うるさい」
一束の光線が隣の無能を黙らせる。『ターゲットに三つの銃口を向けながら、もう一つの一陣風で隣の無能にトドメを刺したのだ』
「さて、これで静かに……確実に……働くことができる」
ワレの心が冷たくなっていく。何しろ久しぶりの本気の襲撃者だ。創造主が政治活動をし始めてから、このビルを襲おうなどというアホな輩はめっきり少なくなった。
ワレの『8本の腕』には星が98個書かれている。これは今まで俺が狙撃してきた人々の墓標だ。テロリストもいれば泥棒もいた、中には運悪く森に迷い込んだ鳩山エレクトロニクスの社員もいた。
「……」
だがワレにとってそんなことは関係ない。
創造主のために働いて死ぬ。
それがワレにとっての唯一の指標なのだ。
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『優秀なお前には底に転がっている無能でゴミでクソなスクラップ共から奪った腕をつけてあげました。感謝しなさい……えーと……名前が必要ですね……そうだな……ふむ、思いつきました』
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再び女側から撃たれた弾を俺はかき消す。無駄だ。4丁の一陣風、そしてこの八本の腕でどんな弾がどれだけ来ようが撃ち落としてやる。今も昔も明日も変わりはない。
ブラスト エイト
創造主から貰った名と体に恥じない働きを、今日もワレはこなすのみだ。
芝生前まで接近してきた男と女にピタリと照準を合わせた。
「さあ、胃の痛くなるような狙撃戦を始めよう」
ワレに胃はないけどな。




