第21話 4月 5日(火) きかい三兄弟
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」
俺が「何がいるんだよ!?」言葉を発するよりも一瞬速く、真横を何かが通り過ぎていった。
猛スピードで空間を切り裂いて飛ぶソレは『ビッグマウスに続いて次鋒! アイアンアーム行きます!』『グオゴゴゴ』と奇声を発しながらリーナマリーに襲いかかる。
肥大した腕……いや翼のようなものの先には鋭利な刃物が光っている!
「危ナイ!」
今更ながらに飛んできた何かに気づいたコッキーが声を上げる。しかし、もう遅い。
「キャオラァッッ」
リーナマリーの謎な掛け声、それと共に震度2ほどの揺れが森に伝播した。
コッキーが目をパチクリさせている。どうやらコッキーはテニスじゃないと「止まって見る」事はできないらしい。
『へーやるねー』
一方で燕さんがコッキーの頭に両肘を乗せながら感心していた。流石はウィンブルドンベスト4、今のリーナマリーの攻撃がしっかりと見えていたようだ。
つまり、リーナマリーは飛んできたアイアンアームの顔面にカウンターで拳をめり込ませ、そのまま地面にめり込ませたのである。
「今度は足が無くて腕……というか翼を持ったロボットか」
「これも見たことないタイプね」
地面に横たわる撃墜されたロボットを分析する俺達。
「ウワァ……」
「あ、やべっ」
その異様な風体を見てしまったコッキーが苦いものを口に入れたような表情をしている。マズったな、さっきのヤツは見せないようにしていたんだが。
「……」
しかし、思ったよりもコッキーの反応が薄い。取り乱したり怖がったりするわけでも無く、ただただ憐憫の表情でロボットを見ている。先輩がポンっと肩に手を置いて「……平気?」と聞くと、コッキーは「ウン……大丈夫」と頷いた。
俺はコッキーの後ろの燕さんに目で『どういう事なんですか?』と訴えかけた。
俺の視線に気づいた燕さんが『えーっとねー』と頭を掻く。そして、バチコーン☆とウインクしながら『ま、故郷で色々あったのさ』と答えた。
「……そうですか」
『聞きたい?』
ニヤニヤしている燕さんに、俺は「いいえ」と首を振った。
「止めときます。回想シーンは死亡フラグですしね」
『若いのに賢明ねー』
「ヒーローはお約束に弱いですからね」
燕さんとの話を切り上げた俺は先輩と目を合わせて無言で頷き合う。
先輩は「……こっち」とコッキーの手を引いて動かなくなったロボットから離れていった。俺は残されたリーナマリーに声をかける。
「それにしてもよく気づいたな?」
「私って視線に敏感なのよ」
「あーそう言えば入学試験の時もモブに対してドヤってたな。確か『ふっふっふ私が一位なのは当然じゃない』とかなんとか」
「あ、あれ聞いてたの!?」
顔を真っ赤にするリーナマリー。
「ハッハッハ、俺は地獄耳だからな」
リーナマリーは「失敗したわね」と苦笑いを浮かべる。
「……ッ!」「…………」
そしてその表情を顔に貼り付けたまま俺に「だったら気づいてる?」と聞いてきた。俺も普通の会話を続けている風を装いながら「ああ」と答える。
「下、横と来て、今度は上からかしらね?」
「だな、ついで言うと顔、腕と来て、今度は足と見た」
そんな俺達の静かな会話を何者かがけたたましい音量で遮ってきた。
「ブハハハ悠長に話して、隙を見せたな!? 三男ビッグマウスに続き次男アイアンアームも囮物語! そして終物語はビッグフット様でジェットストリームな攻撃はフィナーレよ!」
予想通り。万象ビルの屋上らへんから大ジャンプして俺達目掛けてきたのだろう、何者かが空から降ってきていた。今度の奴は腕が無く、跳躍力・破壊力強化のためか足が大きくなっている。
「……任せるわ」
ため息を付いてリーナマリーが二三歩離れた。今度は俺に出番を譲るようだ。
「五月蝿い余分三兄弟だな」
「ブハハハ! 地面に潜った三男、木から滑空次男、ビルの一番上から長男! もちろん威力は一番高い! そして狙いは最強戦力ではない雑魚! 潰れて死ねぃ!」
「フフッ的確な分析ね」
最強戦力と言われてリーナマリーは上機嫌になっている。俺は「笑わせんなよ」と苦笑した。
「ブハハハ! 諦めたか!?」
勝利を確信したビッグフットが快心の笑みを浮かべる。三者三様の笑みを浮かべつつ、高速落下を続けるビッグフットがついに俺の上空10メートルに迫った。
「さっき『隙を見せたな!?』と言ったな?」
俺はスゥっと右手を掲げる。そこにビッグフットの足が落ちてくる。
金属と俺の掌がガキィンッ! と音を立てる。
「中々の威力だ」
受け止めた衝撃で俺の足元の地面がへこんだ。しかし受け止めた俺には目立った外傷は無く、一方で止められたビックフットは気の毒なくらい狼狽していた。
「な、なぜ潰れぬ!? 貴様、女子に守られる系男子ではないのか!?」
右手の上から聞こえて来た戯けた言葉に俺は「んなわけねぇだろ」と呆れる。
「さーて、これから次男三男の後を追うお前に良いことを教えてやろう。まず一つ目、さっきの隙は作ったもんだ。つまり隙であって隙じゃない」
「哲学的ね」
俺は茶化してくるリーナマリーをスルーして話を続けた。
「そして2つ目……」
俺は腕に力を込める。
「ガアアアアァァッ!?」
自慢の足の裏に俺の指が食い込んで、ビッグフットが悲鳴を上げた。
「ゆ、許してくれぇ! お、俺達は奴に頼まれただけなんだ!」
そんな言葉は右の耳から左の耳へ通り過ぎていく。俺はグワッと一歩踏み出し……
「『 最 強 』 は こ の 村 主 公 人 だ ッ ! 依 然 変 わ り な く ッ !」
気合とともにビッグフットを思い切り万象ビルに向かってぶん投げた!
ビッグフットが「あへえええええ!」という有難くない悲鳴を発しながら吹っ飛んでいく!
飛んでいく先は万象ビルの頂上にあるヘリポートだ!
「よし、さっきのリーナマリーよりも俺のほうが速いな?」
「何言ってんのよ、私の方がちょっと早いわよ!」
飛んでいくビッグフットを見て満足気に呟く俺にリーナマリーが絡んできた。
「気のせいだろ?」
「そんな訳無いでしょ!」
「ほーう……それなら対決するか?」
「入学試験で流れた戦いを今ここでってわけね? 良いわよ、勝負の方法は?」
俺はアゴで万象ビルの頂上に向かってアゴをしゃくった。
「もちろん『あそこから俺達を狙っている敵をどちらが先に倒すか』だ」
リーナマリーも気づいていたのだろう。ニッコリ笑って「いいわよ」と頷いた。
■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」
■経過「ヘリを撃墜しやがって……もったいないお化けが出るぞ?」
佐藤野辺 燕
『いやーリーナマリーちゃんも公人ちゃんも凄いわー、ダブルスやらせればウィンブルドン勝てるんじゃないのこれ』
『え? いや、コッキーはスキル的にはシングルス向きでしょ……ああ、そんなスネないでよぅ』




