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第19話  4月 5日(火) 空を飛ぶ ヘリが飛ぶ 光突き抜け 地に堕ちる

現在の所持能力

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④コッキーのシャーマン能力

⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力

●目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」

●詳細「リーナマリーから抜き取られた竜王の戦いの記録拡散を阻止せよ」


「……ん?」


 俺はバタバタバタバタと騒音の鳴り響く小さな空間の中で目を覚まそうとしていた。目は開けていないが体勢から判断するに椅子に座っているようだ。そして左右に揺れて……車か?


「この状態をもとに戻すためには古来より伝わる方法しかないわね」


 そろそろ目を開けようかと思った矢先、よく知ってる声そして何処かで聞いた台詞が聞こえてきた。


「またこの展開かよっ!」


 俺は飛び起きようとしたがガクンと後ろに引っ張られた。ベルトによって体が椅子に固定されていたのだ。隣の席からから身を乗り出していたリーナマリーが小さく舌打ちをする。


「惜しかったわね」


「まったく油断も隙も……ってリーナマリー無事だったのか!?」


 リーナマリーは「良かったぁ」と安堵している俺を横目でチラチラ見ながら腕を組む。頬が桃色になっているのは俺の気のせいだろうか?


「あ、当たり前でしょ! あの程度で私がやられるわけ無いじゃない!」


「……スヤスヤだった」


「こら、そこ、清愛、運転に集中しなさい」


「あ、先輩もいたんですか」


 先輩は操縦席から振り向いて「いえーい」と両手でピースをしていた。俺の横でリーナマリーが「すいませんちゃんと操縦桿握ってください! 何でもしますから!」とキレ気味に懇願している。


「ん? 今何でも……じゃない。操縦桿? 何で車にそんなもんが?」


「はぁ? 何言ってんのよキミト、もしかしてまだ寝ぼけてるの?」


 リーナマリーがブォンブォンとおよそデコピンらしくない音を立てながら聞いてくる。


「神への一撃かよ、やめてくれよ額に穴が空いちまうよ」


 俺は慌てて目を上下左右に走らせ内装を確認する。うん、(あまり乗ったことはないが)たしかに車じゃなさそうだ。


 今度は窓の外を見る。木が生い茂っているのだが幹は見えない。見えるのは葉っぱばかりだ。つまりこの乗り物は空に浮いているってことだ。ついでに言うと暗い空には細い月がのぼっており夜だということも分かる。


 そしてこの空間に鳴り響くバタバタバタバタという騒音から察するに……


「ヘリコプター!?」


 リーナマリーが「何をいまさら」とでも言いたげにため息をつく。


「ど、どこに向かってるんだ!?」


 内心で「うわすっげえ初めて乗った! あとで恋華に自慢してやろう」とテンションが高くなっている俺の質問には先輩が答えてくれた。


「……鳩山エレクトロニクス本社」


「鳩山エレクトロニクス本社って『あの』万象ビルですか?」


 この質問にはリーナマリーが答える。


「そうよ、工業用家庭用合わせて世界の7割のロボットを作り、裏では戦闘ロボを各国に売りさばいてて、場所が公開されてない鳩山エレクトロニクスの70階建ての本社、万象ビルよ」


「……簡潔かつ詳しい説明どうも。鳩山 雪夫に用があるのか?」


「用なんてもんじゃないわよ! パ……父の所にこんなものが」


 パパと言いかけたのをごまかすように俺にクシャクシャに丸められた紙が投げ渡された。


「なにこれゴミ?」


 リーナマリーが「うっ」と言葉に詰まる。どうやら面白くない内容だったのでクシャクシャポイしたらしい。俺はゆっくりと開いて内容を確かめる。


『秋めいてまいりましたが、いかが過ごしですか。先般は皇樹学園をご案内いただきまして誠にありがとうございます。学園内だけではなく、リーナマリー様から貴方様の戦いの記憶映像も抜き取らせていただき感謝感激雨あられでございます。つきましてはこのような素晴らしい映像を私個人だけで楽しむのは『民に親身な』民親党の党則に反しますゆえ、4月5日の4時44分にインターネット上の動画共有サイト『ニヤニヤ動画』にて公開することと致しました。この動画により貴方様の勇姿がより多くの方に知ることとなり、友愛の輪が広がりますことを心よりお祈りしております』


「……」


 クシャクシャポイしたあと俺はスマホを取り出して時計を確認する。0時34分、日付は4月5日になっている。


「つまり俺達はあと約4時間の内にこれを止めないと退学ってわけだな?」


「まあそういうことね」


「場所は解ってるのか?」


「大体の方角はね、私の予想だとこのあたりだと思うんだけど……」


「……がんばろー」


 前を見なくても姉が「オー」とやっていることが分かるのだろう。リーナマリーが頭に手をやりながらため息を付き懇願する。


「姉さん……頼むから前を見て運転してちょうだい……」


「……実は自動操じゅ」


 頭を抱えるリーナマリー、先輩はこちらを振り返って操縦桿から手を離して見せている。そして俺は……目をくわっと見開いて叫んでいた。


「先輩、後ろ!?」


 おどけて両手を上げてみせている先輩の後ろから光の束が4本高速で迫ってきていたのだ! こちらを向いている二人は気づかない! そもそも気づかせたところで間に合わない! こうなったら……


「俺を信じろ!(トラストミー)」


 俺はベルトを引きちぎって思い切り窓に向かって飛んだ。防弾ガラスを突き破り、森に向かって落下を開始する。


『!?』


 突然の奇行に目を丸くしている二人に向かって俺は糸を伸ばす。


「捕まれ!」


 ここまで来ると二人もヘリを狙う攻撃を察知したらしい。先輩は操縦席のドアを開け、リーナマリーは割れた窓から外に飛び出す。


 二人が飛び出した瞬間、ヘリが4束の光線によってズタズタに切り刻まれた。一拍置いてヘリから火が広がりズウウウウウウウンという轟音。


「ほんとこのスキル便利だよなぁ!」


 先んじて落下している俺は複数の高い木目掛けて糸を伸ばしてブレーキをかける。アメイジング以外の蜘蛛男の映画を見ていたためかこのスキルの扱いにはすぐ慣れた。スタッと着地した俺は周りの木々に糸を巻き付けていき落ちてくる二人を包み込むネットを作った。


「さてここで問題だ! このネットに対して西園寺姉妹はどのような行動を起こすか? 3択―ひとつだけ選びなさい。答え①ハンサムな村主公人君の優しさに感動し涙を流しながら感謝の言葉を述べる。答え②仲間、竜王とかが来て助けてくれる。答え③使わない。西園寺姉妹は非情である」


 個人的には答え①だと嬉しかったのだが……ギッチョン現実は非情だった。


 先輩は「……危なかった」という言葉とは裏腹に、GTASAよろしくジェットパックを生成して何事もなく着地。リーナマリーに至っては「邪魔」とネットを手刀でぶった斬って普通にスタッと着地した。


 悲しい。


「………………さて、これからどうする?」


 だが悲しんでばかりもいられない。気にしてないふりを装いながら二人に聞いてみる。しかし、俺の言葉にいち早く応えたのは西園寺姉妹ではなく後ろから来た何者かだった。


「キッミットー♪」


「グェッ!?」


「公人さん!?」「キミト!?」


 後ろから首に何者かがぶら下がってきた。この声と重さは……俺は体を一回転させて遠心力で何者かを受け流す。


「ワオ、新シイ遊ビ?」


 その何者かは空中で回転しスタッと着地。おのれはネコか。


「コッキー……人間の体はそんなに丈夫にできてないんだぞ?」


 褐色の肌の何者かは呆れる俺の顔を見て「ニシシシ」と笑った。その笑顔を見て俺もフッと笑う。そう、何者かの正体とは先日テニスコートで別れたシャーマンテニスプレイヤー、コッキー・ニャンゾイだった。


■目標「鳩山エレクトロニクスの社長室へ行こう」

■経過「近頃の女性はやんちゃで困るぜ」

西園寺 清愛

「……しまった」


「……キミトさん目がけて落ちればよかった」

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