第18.5話 (性根が)腐(ってる系)男子
いや、別にあの村主って奴のキャラが被ってるから意地悪してるわけじゃねぇぞ?
「何を」という言葉を残して目の前の男子生徒、村主公人は落とし穴に消えていった。指をもう一度弾くと落とし穴が全て塞がる。
ふーむと唸った。村主公人の言葉の続きに興味はねぇ。しかし、先ほどの発言は興味深いもんがある。
『俺をそこらの雑魚と一緒にしてんじゃねぇよ』
強烈なまでの自負が滲み出ている言葉だ。本当に努力を重ねてきたのかもしれねぇし、ただのハッタリかもしれねぇ。俺はそれが、どちらでも構いやしない。このような言葉を言えたことに価値がある。
「ヒーローを目指す若者はこうでなくっちゃぁな」
肩を揺すって笑っていると、コツコツと足音が後ろから近づいてきた。裏口から入ってきたらしい。
「無事に終わったかい?」
俺は椅子の後ろに立っている人物に問いかけた。
「……」
空気の揺れで後ろに立つ人物が頷いたのが解る。どうやら西園寺リーナマリーも村主公人も俺の目論見にハマってくれたようだ。
落とし穴の深さは実は3メートルほどしか無い。ただしその下にはワープ床が隠されている。二人はそれを踏んで、とある場所上下に長い空間に移動させられたのだ。そして、そこの底にもワープ床が仕込んで有り、あとはひたすらループする仕掛けになっている。
「いやはや、おかげ様で二人は退学から免れることができそうだぜ、嬉しいだろぃ?」
出来る限りニコヤカに振り向く。しかしその人物は既に背を向け、裏口に向かって歩きはじめていた。
「…………ひどい人」
重い一言を残して……。
◆◆◆◆◆◆
人物が出ていきバタンとドアが閉じられる。張り詰めていた空気を吹き飛ばすように大きく「ふぅっ」とため息を付いた。
「話は終わりか?」「待ちくたびれたよ~」
円卓に座ってコチラを見ている気配が2人分。村主公人は気付かなかったが先程の会話の途中から部屋に入ってきて椅子に座っていたのだ。
「よぉ、お前さん達か。どうだい、今年の皇衆会の新加入戦力を見てみた感想は?」
俺の質問に、凛とした雰囲気の着物を着たオカッパ少女が腕を組んでウンウンと満足気に頷いていた。
「あの村主公人という少年はいい目をしていた。育てがいのあるタイプだ」
「頭の中で5回は殺してるかな~」
その横で少し前に絶滅したようなギャルが興味なさげにスマホをいじっている。
「こりゃ丁半で分かれたな……それでお前さん達二人の内、どちらが助太刀に行くのかいね?」
「不要だ」「必要ないでしょ~」
今度は二人の意見が重なった。
「おや、可愛い後輩を助けに来たのかと思ったんだが、違うってのか?」
「便利なコピースキルを持ちつつもソレに奢ること無く冷静に戦況を読める村主公人。裏をかかれることも多いがそれすら踏破する成長スキルを持つリーナマリー。いいコンビだ」
「さっき出てった先輩がちゃ~んと必要な場所に連れていくだろうし~……それに」
オカッパとギャルの首がギュルンと回り、入り口方向のドアを睨みつける。「ウヒャッ!?」と声がして「マイッタマイッタ」と何者かが遠ざかっていく気配がした。
「これで四人、十分過ぎる戦力だ」
オカッパがドヤ顔で微笑んだ。
……惜しい、本当は幽霊のお嬢ちゃんも含めた5人なんだがな。しかしまあとりあえず合格としておこう。俺はニカッと表情を作った。
「いやはや流石だねぇ。流石は二年の皇衆会の会員様って奴だ!」
「お褒めに預かり光栄だな……さて、それでは本題に入らせてもらおうか?」
オカッパが微笑んだまま殺気を溢れさせた。「本題……何のことだぁ?」とスットボケてみる。
「五天王に欠員が出たんだってね~?」
スマホをしまい、豹のような目でこちらを睨めるギャル。
「相変わらずいい殺気放つじゃねぇか。それでいて情報は力、しかも新鮮であれば新鮮であるほどその力は強力ってことも解ってるようだな」
俺はパチパチと拍手をしながら立ち上がり、近くの扉を開いた。
『!?』
その中を見てオカッパとギャルの表情が一変した。
「めでてぇな、君達で五天王試験挑戦者は『ちょうど100人目』だ」
扉はワープ装置で広い教室に通じており、そこには多くの生徒がひしめき合っていた。二人を部屋の中に入るように促す。そしてウインクしながら囁いた。
「情報が腐っちまう前で良かったな」
通り過ぎる時にチッと舌打ちしながらオカッパが「ドSめ」と吐き捨て、ギャルが「ドえす~」と恨めしげにこちらを見ていた。
「…………さて、あの件は若い二人に任せて俺はこっちに集中するかね」
そう言って俺は扉を締めた。




